『夏至』家族の調和とそれぞれの秘密

ストーリー

ベトナム、ハノイ。
母の命日に集まった美しく仲の良い三姉妹。
なごやかにおしゃべりする姉妹だが、彼女たちにはそれぞれに秘密があった。

長女スオン（グエン・ニュー・クイン）は夫と息子がいるが若い恋人がおり、次女カイン（レ・カイン）は新婚で妊娠したがまだ夫には秘密にしている。三女リエン（トラン・ヌー・イエン・ケー）は恋人がいるがうまくいっていない。

彼女らの母は亡くなる前、父とは違う男の名を呼んでいた。
母の秘密の恋人はどこの誰だったのか。
それは、どんな恋だったのか。
みな自らの秘密と重ね合わせ、母の人生に、その心中に想いを馳せるのだった。

ゆったりと、やさしく過ぎてゆく時間

本作は、誰もがみな秘密を抱えていることを描きながらもそれをむやみに暴くのではなく、家族といえども節度を持って互いの調和を保ちながら過ごす姿を描く。

ベトナム・ハノイの色濃い緑、雑踏、二人乗りのバイク、熟した果物の香り、土の匂い、香の煙、鳥のさえずりのようなおしゃべり、市場の活気、色とりどりの部屋、つややかな黒髪、屋台での朝食、色鮮やかな花、ビーズの簾の間から差し込む光、大粒の雨。。

しっとりとした濃密な空気と南国の都市ハノイの香りが画面から溢れでている。

この空気の中では、嘘や秘密も誰かを突き刺し傷つけるのではなく、ゆっくりと染みとおっていくかのようだ。

だから、どんなに辛いことも受けとめ、深く息をし、寄り添い、そっと支えあいながら暮らしていくのだろう。

偽りも裏切りも、すべてが悪だとは決めつけず、互いを思いやりながら生きてゆく姿は優しさの奥にひそむ芯の強さを感じさせる。

人生に訪れる苦しみも悲しみもすべて芳醇な空気の中でゆったりと溶かされ、ひめやかでかぐわしい香りの一部となってゆく。

夏のひととき、南国の濃密でやわらかな空気に包み込まれるような感覚を味わわせてくれる物語です。

『夏至』（2000年・フランス・ベトナム・ドイツ・1時間52分）
監督：トラン・アン・ユン
出演：トラン・ヌー・イエン・ケー、グエン・ニュー・クイン、レ・カイン、ハイ – ゴー・クアン・ハイ、アンクル・フン、チャン・マイン・クオン、レ・トゥアン・アイン
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