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東京フィルメックス、tokyofilmex、第21回東京フィルメックス授賞式、閉幕

未来への映画の手ごたえを充分に感じさせてくれた第21回東京フィルメックスが閉幕!

21回目を迎える今回は東京国際映画祭と連携する形で時期を連動させた。カンヌ国際映画祭にとっての監督週間、ベルリン国際映画祭にとってのフォーラム部門のような立ち位置を模索してゆくのだろうか。

コンペティション部門で新人監督の登竜門に限定せず、特別招待枠に入るようなフィルメックス常連組もコンペ出品するような柔軟性があることを望みたい。

特別招待作品『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』上映後リモートQ&Aより、
市山フィルメックス・ディレクター(画面左)、アメリカよりスー・ウィリアムズ監督(画面右)

コロナ禍で外国からの審査員以外、来日した出品者ゲストは皆無であったが、上映後のリモートQ&Aはコロナ前の登壇しての会見で挙手して司会によって当てられる質疑応答より、QRコードを読み込んで誰でも気軽にその場にいない監督へ質問を投げかけるシステムは素晴らしく、効率性も高かったように感じられた。

また会場内でもソーシャル・ディスタンスで人員を減らすのではなく、検温やエレベーター前の整列乗車などにかえって人員を割き、例年よりも増員されたような印象だった。人員がドラスティックに必要なくなる部分もあるのだろうが、コロナ禍でのイベントはかえって人手が必要になる部分が出てくるというものなのだと感じた。

作品選定に関して、コロナになる以前に撮影され完成した作品が集まり、当映画祭の目利きである映画祭ディレクターの市山尚三氏が世界最大の来場者数と上映本数、回数の規模を誇るベルリン国際映画祭に今年から新設されたエンカウンターズ部門の審査員をされたことからもコンペ、特別招待枠共に優れた最新作が集まり易かったことが伺えた。

国際映画祭は映画祭ディレクターがとても重要な存在であり、カンヌ、ヴェネチアといった老舗を長年に渡って支え続ける“看板”映画祭ディレクターと同じような役割をフィルメックス・ディレクターの市山尚三氏がキッチリ務め上げているというのがよく分かる映画祭でもあった。

コロナ禍でフィジカルな映画祭が開催されないことも良作が巡り巡ってやってくるということにも関係したのかもしれないが、このコロナ禍であんなに充実した素晴らしい映画祭を開催し、無事会期を終えたということに拍手をお送りしたい。

存在感あるパワフルな作品が集結した東京フィルメックス・コンペティション

無聾(むせい)、東京フィルメックス、台湾、コー・チェンニエン、トゥ-チュアン・リュ、バフィ・チェン、クゥアン・ティン・リュー
東京フィルメックス・コンペティション『無聾(むせい)』(台湾)

ろう学校での性虐待を扱ったショッキングな台湾のコー・チェンニエン監督作『無聾(むせい)』の本編デビュー作とはいえ、非の打ちどころのない映画としての完成度は驚くばかりであった。

アスワン、aswan、アリックス・アイン・アルンパク、ドキュメンタリー、フィリピン、麻薬戦争
東京フィルメックス・コンペティション『アスワン』(フィリピン)

またフィリピンのドゥテルテ政権下の警察による目を覆うばかりの超法規的大量殺戮を追い続けた迫真のドキュメンタリー、アリックス・アイン・アルンパク監督作『アスワン』を観る機会も得た。

またイランのシャーラム・モクリ監督の『迂闊(うかつ)な犯罪』は、シネマ・イン・シネマというキアロスタミ監督へのオマージュかのような手法でイスラム革命前夜、イランの映画館が焼き討ちに遭った40年前を再現するかのように再び映画館を燃やすという暴挙に出る者たちの計画の様子をシュールでユーモラスに描いている。

燃やされる映画館でかかる映画が時折、ストーリーにかぶさるようにして、カットインしてくるという斬新でユニークなシネマ・イン・シネマを多用するモクリ監督のインテリジェンス溢れる演出は観る者を飽きさせない。

東京フィルメックス・コンペティション『迂闊(うかつ)な犯罪』(イラン)

現在の香港情勢にも眼を配った作品セレクト

特別招待作品『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』(アメリカ)

映画祭最終日に上映されたアメリカ人監督スー・ウィリアムズによる『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』は香港の人気ポップスターでありながら、香港・民主活動の雨傘運動に身を投じて逮捕され、中国本土での活動ができなくなっているデニス・ホーの半生を語りながら、彼女の音楽人生と民主活動家としての軌跡を追った心震わせるドキュメンタリー。

本作は香港はおろか中国語圏での公開をされることはなく、リモートQ&Aで監督のスー・ウィリアムズは命を顧みずに闘い続けているデニス・ホーのことを“非常に勇敢な女性”と評している。

特別招待作品『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』上映後リモートQ&A、
アメリカよりスー・ウィリアムズ監督

また本作を上映することを英断した東京フィルメックスに対しても“とても勇気のある映画祭”と感謝の念を示していた。

日常、目にしている香港情勢のニュースでは伝わってこない熱い思いが伝わる映画である。機会があれば、是非ご覧いただきたい作品。


特別招待作品『七人楽隊』(香港)

香港からはもう一本、名匠ジョニー・トーの呼びかけで集まった香港で映画を作り続け、人生を歩んできたアン・ホイ、パトリック・タム、サモ・ハン、リンゴ・ラム、ユエン・ウーピン、ツイ・ハークらが年代ごとの香港の市井の人々を思い入れたっぷりに描くオムニバス映画『七人楽隊』。

センチメンタルという一言ではくくり切れないやるせなさが全編を通じて感じられる。よかった頃の香港へのレクイエムのような作品。

上映後の観客からの投票により、見事、観客賞を受賞した。

本作がリンゴ・ラム監督の遺作となりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。


超長編ドキュメンタリー・セレクト

意図せず、たまたまということだったが、今回は6時間越えのドキュメンタリー映画が、3本も上映されることとなった。

特別招待作品『水俣曼荼羅』(日本)

『ゆきゆきて、神軍』(1987年)、『全身小説家』(1994年)等、日本を代表するドキュメンタリー作家、原一男監督の最新作、日本四大公害病の一つとして知られる水俣病の補償をめぐっていまだ裁判の続く患者たちの戦いを15年に渡って撮影し3年間の編集を経て完成させたドキュメンタリー『水俣曼荼羅』(6時間9分)も会期中に上映された。


特別招待作品『仕事と日(塩谷の谷間で)』(アメリカ、スウェーデン、日本、イギリス)

本年度、ベルリン国際映画祭に新設されたエンカウンターズ部門の最優秀賞を受賞したC.W.ウィンター & アンダース・エドストローム共同監督の京都の山間の村に生きる人々の生活を1年に渡って描いた作品『仕事と日(塩谷の谷間で)』が8時間。本作がユニークなのはドキュメンタリーなのだが、なぜか、俳優 加瀬亮が出ている。ただの日常ドキュメンタリーなのか?疑いの念を持って劇場へ足を運んだ。

本作も会期中にサテライト会場のアテネ・フランセ文化センターにて、上映された。8時間の内、途中、休憩が15分、1時間15分、15分とあり、2時間ほどの映画を4本観る計算となる。

特別招待作品『仕事と日(塩谷の谷間で)』より

はじめから最後まで田舎での畑作や夜は近所の人たちと飲んでいる日常を淡々と描きながら、途中、俳句の句が字幕で出てきて、花鳥風月な作品なのだなと眺めている。時間が経てば経つほど、至極当然のことながら彼らの人生を映しているという実感が湧いてくるのだ。

特別招待作品『仕事と日(塩谷の谷間で)』より

だが、徐々に疑問点がふつふつと湧いてくる。それは俳優・加瀬亮が何をするでもなくその日常に馴染みながら近所の人たちと戯れていることであったり、途中でモノローグがつかえてしまう塩尻のおばさんが明らかに人が書いた日記を読まされている感が強いが、これはこれでリアルを超えたリアルだななどと思い始めたり、フレームがあらかじめ決まっている中での事件が起きたり、カメラを回しているとタイミングよく不意に野菜を持って訪れる客など、どこからどこまでが仕込みなのだろう?とふと感じ始めるあたりから俄然、眠気など吹き飛んでくるのだ。

特別招待作品『仕事と日(塩谷の谷間で)』より

ドキュメンタリーはやらせを乗り越えてゆくものであるとする先述の原一男監督ではないが、これは田舎の日常を捉えながら、ドキュメンタリーとドラマの垣根をユラユラと漂うようなことを花鳥風月を交えて実験しているのかもしれないと妄想し始めるとにわかに興味が湧いてくる。映画の根源を考え直させるところがある。そんな8時間なのである。


また5年前に106歳で死去した映画監督としては、最高齢だったポルトガルの監督マノエル・ド・オリヴェイラ、1985年の作品で、16世紀の大航海時代を舞台に騎士と人妻との禁断の恋を描く『繻子の靴』(6時間50分)を特別上映として、映画祭の会期終了後となるが、以下のスケジュールで今後、上映予定。

特別上映『繻子の靴』(ポルトガル、フランス)
  • 特別上映『繻子の靴』(1985年・ポルトガル・6時間50分)
    監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
  • 11月22日(日)有楽町朝日ホール 12:00開映(途中30分休憩×2回)
  • 11月26日(木)アテネ・フランセ文化センター 13 :00開映(途中20分休憩×2回)
  • 11月27日(金)アテネ・フランセ文化センター 13 :00開映(途中20分休憩×2回)
  • 11月28日(土)アテネ・フランセ文化センター 13 :00開映(途中20分休憩×2回)

特に来年開催時にはどのような環境の変化があるのか皆目見当もつかないが、控えめに考えても製作される作品本数は激減するはずなので作品の集まり具合の悪さで苦労することが予想されるが、来年も今年以上の充実した作品セレクションを期待したい。


  • 第21回東京フィルメックス、受賞結果:
  • 最優秀作品賞:
    『死ぬ間際』In Between Dying  
    監督:ヒラル・バイダロフ
  • 審査員特別賞:
    『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』The Blue Danube
    監督:池田暁
  • 観客賞:
    『七人楽隊』Septet
    監督:アン・ホイ、ジョニー・トー、ツイハーク、サモハン、ユエン・ウーピン、リンゴ・ラム、パトリック・タム
  • 学生審査員賞:
    『由宇子の天秤』 A Balance
    監督:春本雄二郎

第21回東京フィルメックス TOKYO FILMeX 2020

 

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