女は、何から逃げたのか。ひとりになって見えてきたものとは?『逃げた女』
久しぶりに会う女同士の会話の中に潜む想い、問いかけとその答えに秘められた謎…
主人公のガミ(キム・ミニ)は、離婚して女友達と郊外の家で穏やかに暮らす先輩の元を訪ねてふらりと現れる。
久しぶりに会う先輩と、ゆったりと、親しげに近況を語り合う。
時にコミカルな場面を挟みつつも、静かで穏やかな中に親密さと気遣いを感じさせる雰囲気が流れてゆく。
その後、別の友人の元を訪ね、最初と同様に近況を語り合う。
引っ越した先での新しい出会いを楽しげに話す友人に、ゆっくりと丁寧な受け答えを返すガミ。
どちらの時も、近況を話す友人たちに自分のことを聞かれると、ガミは夫が出張中で、5年の結婚生活の中で離れるのは初めてだと話す。
そして最後に、ガミは学生時代の友人とカフェで偶然会うのだが。。
物語は、言ってしまえば非常に“ゆるい”リズムで進む。
特にこれと言った事件は起きず、女同士のゆったりとした会話が静かな画面の中を流れてゆく。
だが、ともすれば眠くなってしまうのではないかとも思われるこの“ゆるさ”が曲者なのである。
その“ゆるさ”の隙間が空白ではないからだ。
何気ない会話の中に見え隠れする、ちょっとした違和感、主人公ガミの受け答えの仕方、表情。
彼女は久しぶりに会う女友達の家を訪ね歩いていくので、住まいや会話を通して友人達のキャラクターはわかりやすく描かれる。
それに対して、ガミはあまり自分のことは話さず、主に聞き役で友人達の問いに対して同じ答えを返す。
主人公に謎を感じた瞬間、俄然その“ゆるさ”は“疑問”に変わるのである。
一度疑問を感じたが最後、主人公の一言ひとこと、何気ない仕草や行動の全てを注視せずにはいられなくなる。
それは正に、ホン・サンス監督の思うツボにはまってしまっているのだろう。
映画の紹介からは少々外れるが、こんな映画を撮れるホン・サンス監督が女性にもてるのは至極納得、と思わせられる。
“ゆるくてずるい”ホン・サンス・ワールドを、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
本作は、日本では第21回東京フィルメックスにて2020年10月31日及び11月2日の2日間のみ特別招待作品として限定上映され、好評を博した。
Awards:
- 第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞
- 韓国映画評論家協会(国際映画評論家連盟・韓国支部)FIPRESCI賞
『逃げた女』2021年6月11日(金)公開、映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)
『逃げた女』(2020年・韓国・1時間17分)
監督:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、クォン・ヘヒョ
©JEONWONSA Film Co. Production
2021年6月11日 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺 他 全国順次公開‼
VOIDセレクト: ホン・サンスを知る3本
夜の浜辺でひとり(字幕版)
正しい日 間違えた日(字幕版)
クレアのカメラ(字幕版)
それから(字幕版)
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