バイクに跨った強者どもが夢のあと『バイクライダーズ / The Bikeriders』
数十年に渡って続いた架空のモーターサイクル・クラブ、ヴァンダルスの栄枯盛衰を描くフィクショナル・ストーリー。
監督は、巨大台風に全てが破壊されるという妄想に取り憑かれた男がシェルターを一人で建造する姿を描いた風変わりなサイコロジカル・スリラー『テイク・シェルター』(2011年)でカンヌ国際映画祭批評家週間のグランプリを受賞したインデペンデント精神溢れる気骨の映画監督ジェフ・ニコルズ。
映画化にあたってオースティン・バトラー、ジョディ・カマー、トム・ハーディ、マイケル・シャノン、ノーマン・リーダスといった旬の演技派や曲者俳優が一堂に介した。
原作は存在せず、原案となったのはアメリカの写真家ダニー・ライアンがバイカーたちの自由奔放な日々を密着撮影した写真集「The Bikeriders」。
その写真集から強いイメージを得たニコルズ監督が後にオリジナル・ストーリーを書き上げた。
長年に渡り映画化を夢想するニコルズに対し、本作にも登場する同監督の常連俳優マイケル・シャノンは、そんな話、映画化できるわけがないと監督の熱き想いを否定的に見ていたという。
60年代から70年代にかけての激動のアメリカ社会で自由かつ破天荒に生きたアウトローたちの姿を描いた本作が現代に問うこととは?
今後、様々な文化フィールドで語り継がれてゆくことになるのは間違いのない意欲作である。
Story:
1960年代のアメリカ、シカゴ。
社会から外れたアウトサイダーたちが集うバイカークラブ、ヴァンダルス。
クラブができた当初は自由なバイク乗りたちの憩いの場であった。
メンバーの誰もが厚く信頼するジョニー(トム・ハーディ)を中心にジョニーへの忠誠を誓う荒くれ者のバイカー、ベニー(オースティン・バトラー)と誠心誠意、彼に尽くす妻、キャシー(ジョディ・カマー)。
クラブ創設当初の伸び伸びとした理想郷のような生活規範から遠く離れ、無法者バイカー・ギャング団へと変貌してゆくヴァンダルスの栄枯盛衰が描かれてゆく。
Behind The Inside:
原案はバイク乗りのバイブル的な写真集「The Bikeriders」
バイカーの生態を撮り下ろしたある一冊の写真集にジェフ・ニコルズ監督は心を動かされた。
その本は、アメリカ中西部を1963年から4年に渡って、アメリカ人の写真家ダニー・ライアンが世界最古のバイカーのクラブ、アウトロウズ・モーターサイクル・クラブのシカゴ支部を追い撮り続けた写真をまとめた作品集「The Bikeriders」(1968年)である。
バイカーの生態を美化したとされるこの作品集は、当時、大いに話題を呼び、後にダニー・ライアンは、気鋭の報道写真家集団マグナム・フォトの一員として招待されている。
ニコルズ監督の映画化への夢は長年に渡り、大ヒットした『クワイエット・プレイス』シリーズの生みの親であるジョン・クラシンスキー監督に熱望され途中まで関わっていた『クワイエット・プレイス DAY1』の監督からあっさり降板して本作に着手したほどである。
だが過去7作品のニコルズ監督作に出演している常連俳優のマイケル・シャノンは、この映画化の夢をニコルズ監督から聞かされ続け、「そんな話、誰が観たいんだ?映画化なんてやめときな」と言ったそうである。
ニコルズ監督の映画化への執念に呼応するかのように旬の演技派と曲者俳優たちが揃い完成したのが本作『The Bikeriders』である。
Under The Film:
オースティン・バトラー演じるベニーのリアル過ぎるタトゥーは実はフェイク
オースティン・バトラーが演じたヴァンダルス一の荒くれ者ベニーを演じる上で様々な苦労があったという。
バイクの乗り方から始まり、本作の撮影直前まで『デューン 砂の惑星 PART2』(2024年)のフェイド=ラウサ役のため、厳しい特訓により身につけたマーシャルアーツの戦い方を全て忘れ、ごく普通のストリートでの殴り殴られの喧嘩を実践しなかればならなかったそうだ。
そして、多くの人から質問を受けたとされるベニーの体に刻まれた本物にしか見えないタトゥーの数々は、全て精巧に作られた人工的なプロテーゼだそうである。
『バイクライダーズ / The Bikeriders』(2023年・アメリカ・1時間56分)
監督:
ジェフ・ニコルズ
出演:
オースティン・バトラー、ジョディ・カマー、トム・ハーディ、マイケル・シャノン、マイク・ファイスト、ノーマン・リーダス、ボイド・ホルブルック、デイモン・ヘリマン、ボー・ナップ、エモリー・コーエン、カール・グルスマン 他
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