人類が沈黙した戦慄の始まりの日『クワイエット・プレイス:DAY 1』
ある日突然、世界中に降下した隕石の中から現れた聴覚が異常に発達したクリーチャー。彼らが人類を根絶やしにする使命を帯びたかの如く、無慈悲に人類を殺戮し続ける不条理なSFホラー『クワイエット・プレイス』(2018年)。
サバイバルのその後の日々を描いた2作目『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2020年)もヒットし大成功を収めてきたシリーズの第3作目は、ニューヨーク、マンハッタン島に隕石が降下した初日の惨劇を描くシリーズ前日譚。
今まで語られてこなかった始まりの日を、沈黙しなければ命を落とすというサバイバル法を身につけてゆかざるを得ない人類と謎めいたクリーチャーの生態をもって描く。
そしてルピタ・ニョンゴの熱演による、本ストーリーの猫を愛する孤独な詩人サミラの姿を通して、この黙示録的な世界の終わりの糸口を本作は見せてゆく。
Story:
溢れるほどの才能を持つ詩人だが、末期のがん患者でもあるサミラ(ルピタ・ニョンゴ)は、唯一の家族である愛猫のフロド(シュニッツェルとニコの2匹の猫による演じ分け)と共にニューヨーク郊外の病院で静かな療養生活を送っていた。
看護師のルーベン(アレックス・ウルフ)は、引きこもりがちのサミラを猫のフロドと共にマンハッタン市内で開催中の人形劇グループ鑑賞ツアーに連れ出した。
だが市内をグループで移動中に突然、空から大量の隕石のようなものが飛来し攻撃的な地球外生命体が現れ、人々を無差別に殺戮し始める。
街は一瞬にして地獄絵図と化し、サミラはあまりのショックで意識を失ってしまう・・・。
人形劇の劇場でサミラがフロドと共に目覚めるとそこには避難した人々が集まっていた。
その中に『物音を立てるな』とサミラを気遣うアンリ(ジャイモン・フンスー)の姿もあった。
軍のヘリが「救援が来るまで音を立てずに静かに待機してください」と生存者へ向けてアナウンスするが、空軍のジェット戦闘機が水には近寄らない習性があるクリーチャーを島に閉じ込めるためにマンハッタン島に接続する橋を全て爆破。そのため自力で脱出出来なくなったと感じた避難民は皆、パニックに陥る。
日が暮れ、ビルの予備発電機が起こすノイズにクリーチャーが呼び寄せられるため、ルーベンが送電網の電源を落としに向かうが彼の身にクリーチャーが迫ってくる。
軍はサウスストリートポートに「退避用救命ボートを用意する」とアナウンスし、避難民はグループで向かうが、大勢で移動して物音を立てたため、クリーチャーに気づかれ急襲されてしまう。
必死で逃げ惑う避難民の中、サミラは救命ボートの待つサウスストリートポートとは真逆に位置する北部のハーレム方面へと逃げる際、フロドと離れ離れに・・・。
地下鉄で被災し、水浸しとなった地下鉄構内から命からがら逃げて来た法律を学ぶイギリス人留学生エリック(ジョセフ・クイン)はサミラと遭遇する。
サミラはエリックに南へ向かい救命ボートに乗るよう説得するが、被災によりショックを受けていたエリックはサミラと共に生存を賭けた旅を続ける道を選ぶ。
自らの余命を感じとっていたサミラは幼少時、ジャズ・ミュージシャンであった父との懐かしい思い出が詰まったピザの名店パッツィがあるハーレムを目指すのだった。
Behind The Inside:
実は大の猫嫌いだったルピタ・ニョンゴが心底演じたかったサミラ役
物語の冒頭では、クリーチャーが異常に発達した聴覚で聞き取って人間を襲うという事実がまだ知られていないがために、多くの命が奪われてゆく。
ルピタ・ニョンゴ演じる主人公サミラもまた戸惑いながらジェスチャーやボディ・ランゲージで他の生存者たちとコミュニケーションを図ろうとする。
ルピタは、こうした言葉を交わす代わりのコミュニケーションがほぼ全てのシーンにおいて要求されるため、それが自然に出てくるように会得することに腐心したという。
サミラにはフロドという人生最愛の家族である猫がいる。
ルピタ・ニョンゴは、末期ガンにより余命いくばくもない詩人のサミラ役をどうしても演じたいと願った。
しかし、サミラはいつも愛猫フロドと一緒という役柄だが、実はルピタは猫に触ることはおろか近づくことも同じ部屋にいることさえ耐えられない、猫に襲われるのではないかという恐怖に囚われてしまう、単なる猫嫌いを超えた猫恐怖症であった。
ルピタは猫に対する恐れを取り除くため自宅に数匹の猫を連れてきてもらい彼らを観察をしながらその内の一匹を触ることくらいはできるようになり、他の猫も撫でられるようになり、もう大丈夫と思えるようになった頃には恐れずに猫を抱くこともできるようになったという。
本ストーリーの殺伐とした世界観の中、名演技を披露している猫のフロドはシュニッツェルとニコという2匹の猫がフロド役を演じ分けている。
本作で、本シリーズの生みの親であるジョン・クラシンスキーから懇願され、当初メガホンを取る予定だったのはジェフ・ニコルズ監督であったが、ニコルズ監督からバトン・タッチしたマイケル・サルノスキが監督を引き受けた。
サルノスキ監督は長編デビュー作『ピッグ/pig』(2021年)でも何者かに盗まれた相棒のトリュフ豚を心配するあまり犯人への憎悪の念に燃えるニコラス・ケイジ演じる元シェフを描いていたが、本作でもこの猫のフロドがドラマツルギーとして効果的に登場する。
クリーチャーに蹂躙される壮絶なSFホラーに小さな生き物を物語のキー・エレメントに持ってくるセンスが『エイリアン』(1979年)を想起させる。
Under The Film:
ジャイモン・フンスー演じた役柄アンリは2回目の登場
ジャイモン・フンスーが演じた生存者の一人、アンリは、シリーズを繋ぐリンクのような役目を果たしている。
すでに2作目『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』に登場しているのだ。
ストーリーの後半、水が苦手なクリーチャーが近づけない孤島で避難した人々と静かに暮らしていた。
ジャイモン演じるアンリが救命ボートでマンハッタン島を無事、脱出して後に2作目の島に移住したということは、本作の登場人物の中のサバイバーもまたあの島で暮らしているという設定なのかもしれない・・・。
『クワイエット・プレイス:DAY 1 / A Quiet Place: Day One』(2024年・アメリカ・1時間39分)
監督:
マイケル・サルノスキ
出演:
ルピタ・ニョンゴ、ジョセフ・クイン、アレックス・ウルフ、ジャイモン・フンスー、エリアーヌ・ウムヒレ、アルフィー・トッド 他
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