初代『エイリアン』の20年後を描いたSFゴシックホラー再び『エイリアン:ロムルス』
『ドント・ブリーズ』(2016年)のフェデ・アルバレス監督による『エイリアン』シリーズの新たなリブートは、リドリー・スコットによる宇宙空間での未知なる宇宙生物との死闘を描いたゴシックホラー色の強いSF映画『エイリアン』(1979年)から20年後に起きた物語。
エイリアンの時代設定は西暦2122年であり、ジェームズ・キャメロン監督による続編『エイリアン2』(1986年)は2179年の出来事となっているので、『エイリアン:ロムルス』は、初代エイリアンから20年後の2142年に起きた物語であり、『エイリアン2』の37年前にあった出来事となる。
そして、本作はエイリアンが産声を上げてから45周年にあたる記念碑的作品となった。
Story:
惑星コロニー、ジャクソンズ・スターの鉱山労働者レイン・キャラダイン(ケイリー・スピーニー)は、他界した父親がレインを守るためにプログラムした忘れ形見のアンドロイドのアンディ(デイビット・ヨンソン)と共に暮らしている。
雇用主のウェイランド・ユタニ社による不当な労働契約から逃れるため、廃棄された宇宙ステーションから冷凍休眠装置を盗み出し、遠く離れた他の惑星イヴァナへ逃亡するという、元BFのタイラー(アーチー・ルノー)の計画に乗ることに。
タイラーの妹で妊婦のケイ(イザベラ・メルセード)、従弟のビヨン(スパイク・ファーン)、ビヨンのGFナヴァロ(アイリーン・ウー)の6名は貨物用宇宙船で放棄された研究用宇宙船ロムルスに辿り着く。
ロムルスに乗り込んだタイラー、ビヨン、アンディは冷凍休眠装置を起動するために必要な冷凍休眠燃料を稼働中の休眠装置から抜き取るが、それによって眠っていた複数のエイリアンの幼体フェイスハガーが目覚めてしまい、3人に襲いかかるのだった・・・。
彼らを救出するためロムルスに乗り込んだレインとナヴァロは、破壊されたアンドロイドの頭部から取り出したチップをアンディに差し込み、ロムルスのシステムへのアクセスを可能にするが、同時にレインを守るというアンディの任務が上書きにより消去されてしまう。
そしてフェイスハガーがナヴァロの顔に張り付き、ナヴァロを助けるためレインは、破壊されたアンドロイドの科学者ルーク(イアン・ホルムの顔と声)を再起動して助けを求めるのだが、ルークは今すぐここから逃げるしか生き延びる手立てはないと言い、アンディをジャックして自らの指揮下に据え、あるサンプルを回収するためのミッションを開始するのだった。
Behind The Inside:
スピンオフ的に生まれた物語の原点は『エイリアン2』(1986年)にある
架空の宇宙生物であるゼノモーフ=エイリアンが登場する映画シリーズの発端となったリドリー・スコット監督によるSFゴシック・ホラー『エイリアン』(1979年)の20年後を描いた本作は、初代エイリアンから57年後、多数のゼノモーフが登場し、”今度は戦争だ!!”が当時の宣伝キャッチコピーであったジェームズ・キャメロン監督による続編『エイリアン2』(1986年)と第1作の間に起きた物語という設定である。
ホラー・テイストのスリラー『ドント・ブリーズ』(2016年)のヒットで名を馳せたウルグアイ出身のフェデ・アルバレス監督は、『エイリアン』シリーズの最新作となる『エイリアン:ロムルス』の舞台設定を『エイリアン』(1979年)のラストで脱出艇に乗り込んだ航海士エレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)が冷凍睡眠装置で猫のジョーンズと共に眠りにつき、57年間もの間、宇宙を漂流の後、偶然、発見救出され、地球へと無事、帰還するまでの間に起きた物語としている。
フェデ・アルバレス監督が目を奪われた、あるシーン。それは初代エイリアンではなく劇場公開時の『エイリアン2』でカットされたシーンである。
後にジェームズ・キャメロン監督自らが17分間を追加編集した『エイリアン2』完全版として、リリースされていており、そのシーンは完全版の中で見ることができる。
『エイリアン2』は入植者によりテラフィーミングされた小惑星「LV-426」でエイリアンによる人類殺戮が起き、それを止めるべくリプリーも精鋭の海兵隊と共に派兵され、再びエイリアンと対峙するといったストーリーである。
フェデ・アルバレス監督は、完全版には収録されている劇場版でカットされていたコロニーを逃げ惑う少年たちのシーンを観て、強いインスピレーションを受けたという。
ここからイメージを膨らませて、新天地を求め、他の惑星へ逃亡しようと試みる若者たちがエイリアンから逃げ惑う作品として、時代設定を『エイリアン』で宇宙貨物船ノストロモ号で起きた惨劇から20年後に設定して、本作中でもノストロモ号のスクラップを見せ、ビッグ・チャップ(デカイやつ)という愛称で親しまれている初代エイリアンと思わしきゼノモーフの姿も見せ、初代エイリアンへ熱きオマージュを捧げている。
フェデ・アルバレス監督は、自身の代表作『ドント・ブリーズ』が公開される頃、ビデオ・ゲーム『ALIEN ISOLATION -エイリアン アイソレーション- 』(2014年)でプレイしている時に作品のトーンを決めるプロダクション・デザインを初代エイリアンを踏襲して作られたゴシックホラー・テイストのこのデザインにしないと真の恐怖は生まれないと深く確信したという。
フェデは、エイリアン・ユニバースを壊さないように気遣いながら『エイリアン2』の監督ジェームズ・キャメロンにも脚本執筆の時点で多くのアイデアをもらいスピンオフと言える堂々たる本作を完成させた。
時間軸的に興味深いことは、この物語はリプリーが猫のジョーンズと共に宇宙空間を漂い続けている間に起きているということである。
Under The Film:
獰猛なエイリアンよりも怪奇に感じられる故人であるイアン・ホルムの登場シーン
『エイリアン2』のビショップ(ランス・ヘンリクセン)や本作の科学者ルーク(イアン・ホルムの顔と声)と何故か?チェスの駒の名称が使われているエイリアンに登場する人間の命よりもエイリアンの検体を持ち帰るプログラムを第一の目標としてプログラミングされているウェイランド・ユタニ社の冷酷なアンドロイドたち。
本作では、危機から脱するため、レインが破壊されたアンドロイドを再起動させるとそれは初代エイリアンに登場するアッシュと同じ顔を持つルークという科学者のアンドロイドとして復帰する。
ルークは、レインたちに生き延びるための最低限のアドバイスは与えるが、レインの相棒のアンドロイドのアンディを自身の指揮下に置き、アンディはレインを守るという第一目的は上書きされ、彼女の命よりもウェイランド・ユタニ社に託されたある目的のために冷酷に活動を始める。
ルークの顔と声は、2020年に逝去した名優イアン・ホルムが初代エイリアンで演じたアンドロイド、アッシュの顔と声に似せて使用している。
そして、初代エイリアンと地続きだと思わせる極め付けのセリフをレインとアンディに対してルークは口にする。
「君が生き残れる可能性についてだが、とても気の毒に感じているよ」アッシュ / 『エイリアン』(1979年)より
全く同じセリフを第1作の惨劇から20年を経てルークも口にするのだ。
初代エイリアンのあの不気味な恐怖がフラッシュバックのように蘇るという見事な演出がなされている。
『エイリアン:ロムルス / Alien: Romulus』(2024年・アメリカ・イギリス・カナダ・ハンガリー・ニュージーランド・1時間59分)
監督:
フェデ・アルバレス
出演:
ケイリー・スピーニー、デイビット・ヨンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセード、スパイク・ファーン、アイリーン・ウー、ロージー・イーデ、ロバート・ボブロクスキ、トレバー・ニューリン、イアン・ホルム(顔の表情と声のみ) 他
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