
寡黙な肉体と静かな怒りが交差する、ジェイソン・ステイサムの”仕事師”神話の最新章『A Working Man/ワーキング・マン』
コミック原作者チャック・ディクソンが2014年に発表した小説『Levon’s Trade』が原作。
当初シルヴェスター・スタローンがテレビシリーズとして開発を進めていたドラマ企画が映画として生まれ変わった。
メガホンを取ったのは前作『ザ・ビーキーパー』(2024)に続きステイサムと組んだデイヴィッド・エアー監督。
人身売買という現代の闇を背景に、建設作業員として静かな生活を送るストイックな元特殊部隊兵がたった一人で犯罪組織殲滅のため立ち上がる。
© 2025 Amazon MGM Studios

Story:
シカゴ。元イギリス海兵隊出身の特殊部隊員だったレヴォン・ケイド(ジェイソン・ステイサム)は、かつての任務と訣別し、今は建設現場の現場監督として慎ましく生きている。亡き妻への悔恨を胸に、娘メリー(アイラ・ジー)の親権を取り戻すことだけを生きる理由としていた。
雇用主であるジョー・ガルシア(マイケル・ペーニャ)とその家族とは家族同然の絆を育んでいたが、ジョーの娘ジェニー(アリアナ・リヴァス)が人身売買グループに拉致される。互いに信頼を寄せ合ってきたジェニーに「何かあったら、いつでも守る」と誓った約束を果たすため、レヴォンは自ら封印してきた強靭な戦闘能力を静かに解き放つ。その先には、うす汚い犯罪グループにとどまらない巨悪がレヴォンを待ち構えていた。
Behind The Inside:
ステイサムはヴィジランテ映画(Vigilante Film)の王道をゆく
本作『ワーキング・マン』もエアー監督と組んだ前作『ザ・ビーキーパー』も同じ構造だが、「静かに暮らしていた元プロが、理不尽な暴力に触れて覚醒する」という黄金パターンで行動するキャラクターを演じることが多いステイサム。アメリカ社会の司法や警察への不信感が高まるたびにこのジャンルが盛り上がる傾向があり、社会背景と連動した映画ジャンルとして研究者の注目を集めるジャンルでもある。単なるアクション映画とは割り切れない爽快感の秘密はそこにある。語源はスペイン語の vigilante(自警団員)で、「自分で見張る者」という意味。多岐にわたるこうした傾向の作品の代表作は『狼よさらば』(1974)、『タクシードライバー』(1976)、『ダーティハリー』シリーズ、『ダークナイト』シリーズ、そして近年では『ジョン・ウィック』シリーズなども広義のヴィジランテ映画に分類される。
アクション・スター世代交代の儀式
シルヴェスター・スタローンは当初、チャック・ディクソンの原作小説を自身が持つバルボア・プロダクションズを通じてテレビシリーズとして企画開発をスタート。2013年の『バトルフロント』以来、久しぶりにスタローンが脚本執筆に関わることとなった。スタローン自ら熱心に脚本執筆に参加するということは元々、主人公レヴォン・ケイドというキャラクターは、スタローンのための企画であったということが容易に想像できる。そして本作は、晴れて映画として映像化される運びとなった。ジェイソン・ステイサムが主人公を演じた『バトルフロント』と同じく、ロッキー、ランボー、エクスペンダブルズとアクション映画の礎を築いてきたスタローンが本作で再びアクション・スターとして人気絶頂期にあるステイサムを召喚した。それはさながら世代交代の儀式のようでもある。
元ビーキーパー・チームの再集結
本作の撮影は『ザ・ビーキーパー』(2024年)の撮影が終了した直後に開始されており、多くのスタッフがそのまま残留し本作に携わった。監督のデイヴィッド・エアーとステイサムの短期間での連続コラボレーションは、単なる商業的なシリーズ化戦略ではなく、互いの呼吸を知り尽くしたチームが繰り出すスピード勝負の産物だ。撮影が終わりかけたチームを解散させずに次の現場へ。現場の熱量を冷やさず、別の映画を立ち上げるという荒業が、本作の現場に独特の緊張感と連帯感をもたらしているのだろう。
ケイドが唯一信じる元戦友、ガニー・レファティ
デイヴィッド・ハーバーが演じるガニー・レファティは、視覚を失ったレヴォンの元戦友という役どころ。エアー監督はこの元軍人同士の友情に深い敬意を払っており、またハーバーは自身の役をレヴォンにとっての「オビ=ワン・ケノービ的なマスター」と表現している。登場シーンは決して多くないが、彼の登場シーンは場の空気をガラリと変える。それはハーバーの才能の賜物でもある。さらにハーバーはジェイソン・ステイサムの映画の大ファンで、本作での共演は最高のご褒美撮影となったようだ。
Under The Film:
ステイサムとの相性抜群のエアーのアクション演出術
デイヴィッド・エアー監督は、脚本家として関わった『トレーニング デイ』(2001年)で、主演のデンゼル・ワシントンにアカデミー賞主演男優賞をもたらした。その後、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)では俳優自身がカメラを携える疑似ドキュメンタリー形式を採用し、ポリス・アクション映画の様式を刷新した。ハリウッド的な俯瞰撮影より、地に這いつくばる視線でカメラを据えるエアーの演出哲学は、本作でも一貫している。路上の車中で張り込みをするステイサム扮するケイドがインスタントコーヒーを無造作にワンアクションでサーモスに投げ込むシーンに注目して欲しい、あの腰位置のロウアングルを撮るためにカメラをシートの位置まで下げてまで撮ることは中々ない。あのような瑣末な生活感ある一瞬を大事に見せるのがエアー流なのではないのだろうか。銃や格闘より、沈黙と眼光で感情を語るステイサムとの相性が抜群なのは言うまでも無い。
ロンドンでシカゴを撮る
本作は舞台はシカゴという設定でありながら、実際はイギリス、ロンドンおよびバークシャー州のウィナーシュ・フィルム・スタジオで行われ、撮影期間はおよそ2ヶ月、2024年4月から5月にかけて撮影された。バークシャーのスタジオで撮影れた格闘シーンは、抑制と爆発が交互に訪れるエアーの演出スタイルに合わせ、生々しい体の衝突音と最小限の音で設計された。華美なVFXより無骨に生身の肉体が空間を支配するアクション演出が本作の核心にある。
再登場の予感しかない凄腕の建設作業員
本作が映画化に至った背景には、チャック・ディクソンによるレヴォン・ケイドを主人公とした小説シリーズの続編が存在するためである。一話完結のように見せかけて実はシリーズ展開を念頭に置いている映画プロジェクト。ステイサム×エアー×スタローンというチームが今後も継続するのか? ビーキーパーに続く”ステイサム・ユニバース”の拡張が静かに準備されつつある。
『A Working Man/ワーキング・マン』(2025年・アメリカ・イギリス・1時間56分)
監督:
デイヴィッド・エアー
出演:
ジェイソン・ステイサム、マイケル・ペーニャ、デイヴィッド・ハーバー、ジェイソン・フレミング、アリアナ・リヴァス、 ノエミ・ゴンザレス、エメット・J・スキャンラン、イヴ・マウロ
© 2025 Amazon MGM Studios

