
50歳という節目に、シャーリーズ・セロンは素手で岩壁を這い上がり、骨を折り、オーストラリアの激流に飲み込まれ自身の肉体を改めて作り直した。——Netflixが仕掛けるアウトドア・サバイバル・スリラーの新頂点 『エイペックス・プレデター』
公開2週連続でNetflixグローバルNo.1を達成。2週間の累計視聴数は約8,000万回を突破。
監督は『エベレスト』『アドリフト』のアイスランド出身の映像作家バルタザール・コルマウクル。
セロンはプロ・クライマーに師事し、骨を折り、両肘の手術を経てもなお、岩壁に向かった。
ロッテン・トマト批評家支持率66%、Metacritic 58点という「賛否のある」評価の中で、シャーリーズ・セロンの肉体だけが、全員の拍手を集めた。

Story:
ノルウェー・トロールの壁(世界屈指の垂直断崖)——嵐が迫る中、サーシャ(シャーリーズ・セロン)とその恋人トミー(エリック・バナ)は岩壁を登り続けている。だが落石が彼を直撃し、意識を失ったトミーの重みがロープを引っ張る。彼がまだ生きているのか確認できないまま、サーシャはロープを放すという苦渋の選択を迫られる。
5ヶ月後、悲嘆の底にいるサーシャはオーストラリア奥地の架空の国立公園「ワンダラ」へ向かう。ソロカヤックによる川下りを通じて、自分自身の限界と再び向き合うために。レンジャーはすでに複数の失踪者が出ていると警告するが、サーシャは意に介さない。
現地で声をかけてきた朗らかな男ベン(タロン・エガートン)——彼こそが、人間を獲物とする連続殺人犯だった。自然の猛威と人間の狂気という二重の脅威が重なり、サーシャの静かなソロ・ジャーニーは生死を賭けた鬼ごっこへと変貌する。
Behind The Inside:
「体型変化の女王」という異名を返上——セロンの肉体改造
シャーリーズ・セロンといえば、かつての体型変化の女王だった。2003年の『モンスター』では連続殺人犯アイリーン・ウォーノスを演じるために約13kgを増量し、アカデミー賞主演女優賞を受賞。2018年の『タリーと私の秘密の時間』では産後うつの主婦を体感するために約23kgを増量した。しかしそのときの辛さは別格だった。「40代でやったら、体重が全然落ちず1年もかかった。当時、医者に電話して、『私はもう死ぬんじゃないか』と言ったら、『40代以上だ、落ち着け、代謝が違う』と言われた」とセロンは後に述懐している。以来、心に決めたことがある。——「もう二度と体重を増やすキャスティングは受けない」と。
『エイペックス』では、まったく逆の要求が待っていた。サーシャという役は、岩壁を素手で這い上がりカヤックで急流を下るエクストリーム・スポーツの熟練者だ。太る必要はない。引き締まった筋肉を持ち、他を圧倒するほどの体力を持ち、本物のクライマーとして画面に存在する必要があった。50歳という年齢に対して「体は老いた」ことを認めながらも、セロンはおよそ3ヶ月間、伝説的クライマーのベス・ロッデンの指導のもとでトレーニングを積んだ。ロッデンはヨセミテの世界最難関ルート「メルトダウン(難易度5.14c)」初登を10年間誰にも更新させなかった世界のトップクライマーだ。「ベスの話を聞いたとき、この役に必要な最高の師匠はこの人だと確信した」とセロンは語った。
手と指を使った登頂・ボルダリング、ロープを使った安全確保の技術・ロープシステム、垂直の壁や急斜面を安全に降りる技術・懸垂下降、安全確保技術・ビレイ——それら登山のための必須科目をセロンはゼロから学んだ。彼女が意外な強みとして役立ったのは、10代のころにシカゴのジョフリー・バレエで積んだバレエ訓練だ。子供の頃、バレエで培ったバランス感覚と身体制御の繊細さが、クライミングの技術習得を劇的に加速させたとロッデンは証言している。
しかし、リアルなアクションにはリアルな代償がつきまとう。撮影中に趾骨骨折、肋間筋の損傷、そして撮影後には両肘の手術が必要となった。負傷のため6ヶ月間クライミングができない状態になり、一部のシーンではスタントダブルが起用されている。「滝を下るシーンや本当に危険な急流は、オリンピック出場レベルの技術を持つカヤッカーたちがやってくれた。でもクライミングはほぼすべて自分でやった——そして心から好きになった」とセロンは語った。
プロデューサーとして関わることのメリット
本作でセロンは主演のみならず、自身の製作会社「シークレット・メニュー(Secret Menu)」を通じてプロデューサーも担っている。脚本はジェレミー・ロビンスが執筆し、2021年末のブラックリスト(ハリウッドの業界人が選ぶ最優秀未制作脚本リスト)に選出された。Netflixが2024年2月に版権を取得し、チャーニン・エンターテインメントおよびイアン・ブライスとの共同製作体制が組まれた。「脚本を読んだとき、手が止まらなかった。純粋で、インパクトがある。この脚本は私自身を焚き付けた」とセロンは語っており、シークレット・メニューも製作に関わることとなる。
プロデューサーとして自ら関わったことで、本作出演のための肉体改造、登山技術習得に十分な時間をかけることが出来たようである。
極限ロケーション映画の作家、バルタザール・コルマウクル
1966年2月27日、レイキャビク生まれのアイスランド人映画作家バルタザール・コルマウクルは、「極限の自然の中でのリアルさ」を追求できる演出家の第一人者だ。『エベレスト』(2015年)『アドリフト』(2018年)『ビースト』(2022年)と、過酷な自然環境を舞台にした実話・サバイバル系のスペクタクル作品を連続して手がけてきた。
本作で当初の舞台はヨセミテ国立公園だったが、環境保護の観点から撮影許可が下りず、オーストラリアのニューサウスウェールズ州ブルーマウンテンズへと舞台が移行した。だが、結果的にオーストラリア特有のアウトバックの風景や鬱蒼としたディープなジャングル感のイメージを作品に落とし込めることに成功している。撮影環境は極めて過酷で、深い洞窟のシーンではヘリコプターでしかたどり着けない場所に40名ほどのクルーが入り、撮影を敢行している。
撮影監督はローレンス・シャーが担当。ドローンを駆使した垂直落下の視点は、思わず息を呑む。
タロン・エガートンが演じた愛嬌はあるが薄気味悪いヴィラン
セロンの孤独な強さに対置する形で、タロン・エガートンが演じるベンは、愛嬌のある笑顔の裏に殺意を隠したサイコキラーだ。アイルランド出身のエガートンにとって、本作はオーストラリア訛りをまとったヴィランという従来とはまったく異なる役柄だ。批評家の間ではNetflixの『セキュリティ・チェック』(2024年)で空港のごく普通の保安局員が乗客の命を守るために奔走するヒーローを演じた後に、その完全逆サイドへと振り切った役どころが「驚きを持って評価されている」という声がある一方、ステレオタイプな連続殺人鬼というキャラクターの奥行きの薄さを指摘する声も少なくない。
Under The Film:
「最高のシャーリーズ映画」でも「最高のサバイバル映画」でもない——でも観客は大満足
ロッテン・トマトの批評家支持率66%、Metacritic 58点という「まずまず」の評価が語るのは、本作の本質的なジレンマだ。RT批評家コンセンサスは「オーストラリアの圧倒的な大自然とシャーリーズ・セロンの生の体力に支えられながら、細部を犠牲にしている。サバイバル・スリラーの頂点とは言えないが、十分に見応えのある作品だ」と要約している。
バラエティ誌は「太った部分を一切そぎ落とした95分(fat-free 95 minutes)」と評し、キャラクターの内面描写よりも畳み掛けるアクションシーンの連続を選んだ演出判断を肯定的に受け取った。一方、タロン・エガートンのヴィランが「一本調子という批判は複数のメディアから出ており、彼のキャラクターが深く掘り下げられないまま終わることへの惜しむ声も多い。ロジャー・イーバート・ドット・コムの評者は「白黒どちらが勝つか最初から判っている映画」と断じながらも、セロンの肉体的存在感が物語の希薄さを補い続けていると記した。
しかし数字は明快だ。公開初週3,820万回視聴、2週目4,020万回視聴と増加し、2週連続Netflix全世界No.1を達成。2週間の累計は約8,000万回に達した。批評と観客動員がここまで乖離した背景には、「シャーリーズ・セロンが本当に岩を登っている映画」というシンプルな訴求力がある。
「痩せた体こそが武器」——ボディ・コンシャスな時代のアクション女優論
本作はある種の問いを投げかける。ハリウッドのアクション女優は、役のために体型を「どちらの方向へ」変えることを求められてきたのか。男性俳優が筋肉を「増やす」方向で体型変化を求められてきたのに対し、女性俳優はしばしば「役柄の内面を感じるため」という名目で体重を増やすことを美談として語られてきた側面がある。
セロン自身がその経験を率直に語っている——『モンスター』=増量、『タリーと私の秘密の時間』=増量、そして今回の 『エイペックス・プレデター』=引き締め。今回の準備において彼女が行ったことは、「役のために太る」ではなく、「役のために本物のクライマーになる」ということ。結果として本作では、50歳という年齢の女性の肉体美が、スクリーンの上でリアルに動いている。そこに観る者を引き摺り込むスリルとサスペンスが生まれているのだ。
なお、本作公開日となった2026年4月24日、セロンはニューヨーク・タイムズスクエアのビル屋上に設置された岩壁の頂点にある宣伝用巨大看板まで素手で登るプロモーション企画を実行した。これは宣伝のためのパフォーマンスという行為だけでなく、映画で積み上げた彼女の本物のクライミング技術を世間に知らしめることでもあった。
次作もセロン×コルマウクルで——続投が早くも決定
本作の商業的成功を受け、シャーリーズ・セロンとバルタザール・コルマウクルは次回作『Six Clean Kills』(ユニバーサル・ピクチャーズ)でもタッグを組むことが早々に発表されている。スタン・パリッシュによる未発表小説が原案であり、タイトルの「6つの完全な殺し」という語感から、高度な訓練を受けた暗殺者、特殊部隊兵、法執行機関に所属する者などが特定のミッションをこなすといったストーリーで、セロンの過去作から察すると『アトミック・ブロンド』路線といったところなのでは?この二人による次回作も大いに楽しみにしたい。
『エイペックス・プレデター / Apex』(2026年・米国・英国・アイスランド・1時間35分)
監督:バルタザール・コルマウクル
脚本:ジェレミー・ロビンス
撮影:ローレンス・シャー
音楽:ホグニ・エギルソン
編集:シグルドゥル・エイソルソン
出演:シャーリーズ・セロン、タロン・エガートン、エリック・バナ、アーロン・ピーダーソン、マット・ウェラン、
ロブ・カールトン
製作:チャーニン・エンターテインメント、シークレット・メニュー、イアン・ブライス・プロダクションズ、RVKスタジオ
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