
『新感染』から10年、ヨン・サンホがカンヌ・ミッドナイトに帰ってきた——チョン・ジヒョン、11年ぶりのスクリーン復帰。閉鎖されたビルの中で、感染者は進化し続ける。——ヨン・サンホ最新作『群体/Colony』、第79回カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング上映
ヨン・サンホが韓国ゾンビの聖地・カンヌのミッドナイトに再降臨。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)がここから世界を席巻して10年——その監督が、同じ場所から再び狼煙を上げる。
前作『暗殺』(2015年)から、実に11年の沈黙を破ってチョン・ジヒョンが映画主演として帰ってくる。
ヨン・サンホ自身が「これが自分の最もコマーシャルな映画になる」と明言。製作費は約170億ウォン(約12億円)。
公開前の段階で日本も含めた120以上の地域に配給権売却済み。

Story:
ソウル市内に立つバイオテクノロジー企業のビル「ドゥングリ・ビルディング」。ある日、そこで開かれた業界カンファレンスの最中、急速に変異するウイルスが放出される。感染の拡大とともに当局はビル全体を即時封鎖——内部にいた者は全員、外界から遮断される。
バイオテクノロジーの教授クォン・セジョン(チョン・ジヒョン)は、不正を許さないその気性ゆえに大学の職を失い、元夫ハン・ギュソン(コ・スー)の口利きで新たな就職口を探すためこのカンファレンスに参加していた——まさにその日に、悪夢が始まる。
感染した者たちは最初、獣のように這いまわる。しかしやがて、彼らは変化し始める。感染者が予測不可能な形で「進化」していく中、セジョンはバイオテクノロジーの専門知識を武器に、感染者の行動と変異のパターンを解読しながら、生存者たちを脱出へ導こうとする。
一方、ビルのセキュリティ担当として閉じ込められたチェ・ヒョンソク(ジ・チャンウク)、生存者グループに加わったソ・ヨンチョル(ク・ギョファン)たちも、それぞれの立場と思惑を抱えながら、刻々と状況が悪化する密室での生存戦に巻き込まれていく。
Behind The Inside:
ヨン・サンホ、カンヌ・ミッドナイトの因縁
2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』がカンヌのミッドナイト・スクリーニング部門でワールドプレミアを迎えてから10年——ヨン・サンホは今回の『群体/Colony』で、まったく同じセクションに帰還した。これは偶然ではなく、監督自身にとっての意図的な”原点回帰”だろう。
カンヌへの招待はこれで4度目となる。2012年の長編アニメ第1作『豚の王』(監督週間)、2016年の『新感染』(ミッドナイト)、2020年の『半島』(オフィシャル・セレクション)に続き、今回は再びミッドナイト・スクリーニングへ。韓国スタイルのゾンビ映画にオリジナルの捻りを加えたジャンル映画で、グローバルな映画産業に強烈な印象を残してきた監督が、再びその才気を証明する場に立つ。
ミッドナイト上映作品で最も成功した作品とは?
今までミッドナイト上映をされた作品の中で商業的に最も成功を収めた映画は、実は、『新感染 ファイナル・エクスプレス』なのだ。製作費が約87億ウォン(約8億円)の映画が世界興行収入、約9,300万ドル(約130億円)を稼ぎ出し、投資対効果としては破格のリターンであった。カルト的な作品が集まるミッドナイト上映作品としては、商業的には『新感染』は別格の存在であり、カンヌでの上映を機に世界配給が一気に決まり、そのまま全世界でのヒットに繋がるという、ミッドナイト・セクションが持つ「跳躍台」機能の教科書的な成功例であった。「これが間違いなく、自分がこれまで作った中で最もコマーシャルな映画になるだろう」とヨン・サンホも語る通り、ミッドナイトと言う原点回帰をすることで『新感染』が打ち立てた記録を乗り越えたいという強い思惑が透けて見える。
感染者の「動き」は、振付師が作り上げた
本作の最大のビジュアル的驚きのひとつが、感染者たちの異様な身体表現だ。『新感染』『半島』『地獄が呼んでいる』でもヨン・サンホと組んできた振付師チョン・ヨンが、ダンサー兼振付師のソン・スンウク、イム・ヒジョン、チョン・ウィヨンとチームを組み、これまでにないゾンビの動きを創り出した。感染者たちが「進化」するにつれてその動きも変容するという設定は、単なるホラー表現を超えた生物学的スペクタクルとして機能している。
チョン・ジヒョン——11年という沈黙の重さ
チョン・ジヒョンにとって本作は、2015年の『暗殺』以来、実に11年ぶりとなる映画主演作だ。韓国映画界において、彼女は『猟奇的な彼女』(2001年)で国民的スターの地位を確立し、『泥棒たち』(2012年)や『暗殺』(2015年)で大作ヒロインとしての地位を盤石にした。
彼女は自らを「ヨン・サンホ監督の大ファン」と称し、このタイミングでヨン・サンホ監督作で復帰することを非常に興奮しているようだ。
セジョン教授という役を「大胆で、正直で、簡単には引き下がらない人物」と表現し、ゾンビのメイクをした俳優たちとの撮影現場は演技に驚くほどリアリティを与えてくれたとも語っている。彼女の演技アプローチは本能的に感じ動くことを心がけ、準備し過ぎないように自然体で現場に望んでいたという。
過去10年間、2人の息子の育児に追われたチョン・ジヒョンにとって映画への復帰は格別の思いがあるに違いない。
日本を含む120以上の地域で配給権売却済み
本作はカンヌでのワールドプレミアという特大の号砲を鳴らす前に、日本を含む120以上の地域への配給権売却を完了している。
北米では2026年8月28日の劇場公開が決定しており、この日程は『新感染』10周年記念4K再上映(8月14日)の2週後というタイミングに設定されている。日本での公開日は現時点で未定。
Under The Film:
「密室」という選択——拡張から収縮へ
ヨン・サンホのゾンビ作品を並べると、舞台とする場所の傾向が見えてくる。『新感染』は高速列車という移動する密室、『半島』は廃墟と化した朝鮮半島全体という開かれた空間、そして本作は再び「閉じた空間」へ。
ヨン・サンホはしばしば社会における集団的反応やパニックをスクリーンで描いてきた。本作はその考察を、閉じ込められた四角いビル空間の中で続けるものだと考えてよいだろう。
「群体(群체・Gunche)」という原題は「コロニー」を意味する——感染者たちが単体の怪物ではなく、「群れ」として進化・組織化していくという物語の核心を、タイトルそのものが体現している。
K-ゾンビは今、何を「進化」させているのか
『新感染』がモダンなゾンビホラーとしてそのジャンルを更新してからすでに10年が経過した。この10年で「K-ゾンビ」は映画のみならず、Netflixシリーズ『今、私たちの学校は…』(2022年)や『キングダム』(2019年)シリーズを通じてグローバルな文化現象になった。
その文脈の中で本作は、「生物学的リアリズム」という新たな軸を持ち込もうとしている。感染者が進化・変異するという設定は、ゾンビを「死者の蘇生」から「生命体の変容」へとシフトさせる試みだ。本作は生物学的ホラーとアクション・スリラーを融合させながら、極限状態における人間の心理的変容に強い焦点を当てている。
チョン・ジヒョンが「帰ってくる」——それ自体が一大事件
韓国の観客にとって、チョン・ジヒョンのスクリーン復帰はそれ自体が一大事件だ。抜群の国民的知名度を誇る彼女が特徴的なのは、その「出演の少なさ」=「量より質」という姿勢が逆にブランドになっている。10年で映画2本・ドラマ数本という密度の薄さが、出るたびに「チョン・ジヒョンが動いた」という社会的事件になる構造を生んでおり、本作への参加も、その文脈で韓国国内では相当なニュースバリューを生み出している。
「チョン・ジヒョンが11年ぶりに選んだ作品がヨン・サンホとのゾンビ・スリラー」という事実そのものがマーケティングになるという計算がされているに違いなく、作品そのものの格をチョン・ジヒョンの存在が一段引き上げる効果も発揮しているのではないか。
上映後会場は総立ち状態だったが——『新感染』超えと言う期待値
上映後の会場は総立ちであったが、『新感染』と比べられた評価の結果は、自身のベストゾンビ作品のレベルに達していない。物語の物足りなさや本塁打が打てそうな脱出不能の密室チェンバー物の決定版のようでいて脱出への道のりを必要以上に複雑にしすぎているといった辛口批評もあれば、思考停止でハイオクタンで楽しめるスリリングで爽快な作品といった評価まで様々なようだ。
ミッドナイト・スクリーニング史上最大の商業的成功作であった『新感染』が樹立した記録を本作は更新することができるのか。カンヌの深夜、会場は総立ちだった——それだけは確かだ。
『群体/Colony(群체)』(2026年・韓国・2時間3分)
監督:ヨン・サンホ 脚本:ヨン・サンホ、チェ・ギュソク
出演:チョン・ジヒョン、ク・ギョファン、ジ・チャンウク、シン・ヒョンビン、キム・シンロク、コ・スー © 2026 Wowpoint · Smilegate · Midnight Studio. All Rights Reserved. Distributed by Showbox.



