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監督は初日の朝に来なかった。それでも、彼女だけは諦めなかった。——ナタリー・ポートマンの3年間と、呪われた西部劇『ジェーン』全記録

2013年3月18日月曜日、ニュー・メキシコ州サンタフェ。撮影初日の朝、175人のエキストラと全キャスト・スタッフがセットに集合した。だが肝心の監督のリン・ラムジーだけが、姿を見せなかった。

マイケル・ファスベンダーはすでに逃げていた。ラムジーの失踪を知ったジュード・ロウも即日離脱した。その後、独立系製作会社リラティビティ・メディアは倒産し、パリ・プレミアはテロで中止となった。映画はなんとか完成にこぎつけたが2,500万ドルの制作費に対して興収380万ドルで終了。

しかし、ナタリー・ポートマンだけは3年間、一度も立ち止まることはなかった。崩壊した映画を抱えながら、彼女は別の映画でカンヌに立ち、ハーバードの壇上に立ち、そしてアカデミー賞にノミネートされた。

これはハリウッド史上最悪の映画製作崩壊の記録であり、同時に映画に情熱を捧げたナタリーが逆境の中で何を選び取って歩を前に進めたのかという物語だ。

©2016 Jane Got a Gun Productions LLC. All Rights Reserved.

「母親としての怒りと執念」が武器——今まで西部劇にはなかったプロット

脚本家ブライアン・ダフィールドが書き上げた西部劇の脚本は、シンプルだ。開拓時代のアメリカ西部。アウトロー集団に命を狙われている夫を救うため、妻ジェーンは10年ぶりに元恋人に助けを求める。復讐と赦しと生存が交差する、古典的な西部劇の構造を持ったインディペンデント映画として企画された。


「自分の限界を知っていたら、リスクを取らなかった」——ナタリー・ポートマン

2015年5月27日、ハーバード大学のクラスデーでポートマンはこう語った。「自分の限界を知っていたなら、あのリスクを取らなかっただろう。そしてそのリスクは、私の最も大きな個人的・職業的達成の一つへと繋がった」——彼女が語っていたのは表向き『ブラック・スワン』のことだったが、この言葉は『ジェーン』製作で苦労した3年間にも、そのままあてはまる。

『ブラック・スワン』も確かに苦労の塊で、9kgの減量、リハーサル中に脳震盪、バレエの猛特訓と、肉体的には相当過酷な現場であったので、『ジェーン』のカムフラージュとして巧く成立している。

ハーバードで心理学を学んだ人間らしい言葉の選び方にポートマンの知性がよく現れているエピソードである。

ナタリーポートマンの本質を理解するには、女優になる前に遡る必要がある。エルサレム生まれ、11歳でピザ屋でスカウトされ、13歳でリュック・ベッソンの『レオン』(1994年)でスクリーンデビューを果たした。レオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』(1996年)への出演オファーを断り、ハーバード大学への進学を選んだ。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナ』(1999年)のプレミアを欠席して高校の期末試験を優先した。「女優よりも自分の知的自律を優先する」——それがナタリー・ポートマンという人間の核だ。

2012年:企画始動

ブライアン・ダフィールドの脚本に惚れ込んだポートマンは、自身の製作会社「ハンサムチャーリー・フィルムズ」を通じてプロデューサーとして企画を立ち上げた。監督に招いたのは『少年は残酷な弓を射る』(2011年)でカンヌのコンペティション部門に選出された気鋭のスコットランド人作家、リン・ラムジー。主演男優にはマイケル・ファスベンダー。布陣は完璧に思えた。

2013年3月:崩壊の朝——そして彼女だけが動いた

ファスベンダーはプリプロ段階で離脱した。「スケジュールの衝突」と公式には説明されたが、ラムジーはプロデューサーのスコット・スタインドーフとの3日間の対立の末に降板した——承認済みのスケジュールも脚本も予算も、撮影開始数日前になっても提示されなかったという。ラムジーが消えた翌日、ジュード・ロウも去った。彼はラムジーと仕事をすることが契約条件であったため、当然の辞退であった。

しかしポートマンは逃げなかった。翌日には代わりの監督を探し始め、ギャビン・オコナー(『ウォーリアー』)が手を挙げた。スター・ウォーズのプリクエル三部作で共演したユアン・マクレガーを口説き、エガートンを悪役から主役へとスライドさせた。「多くの人たちが非常に困難な体験をし、自分たちの根性を試され、どれだけタフで生存能力があるかを証明した」とエガートンは後に語っている。

なお、マクレガーの前にはブラッドリー・クーパーもヴィラン役に参加していたが離脱している。西部劇の殺人犯という役は、キャリアでほぼ前例のないクーパーの「幻の悪役」として映画史の余白に残っている。また、クーパーの後任としてジェイク・ギレンホール、トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジスらも候補に挙がったが、ポートマンの盟友でもあるマクレガーが着地した。

2013〜2015年:崩壊した映画を抱えながら、彼女は前進し続けた

ここからが、この物語の本当の核心だ。

撮影はどうにか完了した。しかし独立系製作スタジオ、リラティビティ・メディアは公開を3度延期し、映画は宙吊りのまま時間だけが過ぎた。その間、ポートマンは何をしていたのか。

2013年——マーベルの『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』に出演。マーベル・シネマティック・ユニバースという義務を果たしながら、彼女の頭の中には別の企画が動いていた。

2015年——テレンス・マリック監督『聖杯たちの騎士』に出演。そして同年、彼女は監督・脚本・主演という三役を担った長編映画をカンヌ映画祭に持ち込んだ。アモス・オズの自伝的ベストセラー小説を原作に、イギリス委任統治領末期のエルサレムを舞台にした『愛と闇の物語』——製作費わずか420万ドル、全編ヘブライ語という、2,500万ドルが宙吊りになったあの映画の対極のような作品だ。プロデューサー側は英語での撮影を望んだが、ポートマンはヘブライ語での撮影を押し通した。

ここに、映画作家たちの普遍的なパターンが見える。拘束された現場が長く続くほど、作家の中に「本当に作りたいもの」への確信が研ぎ澄まされていく。ヴィム・ヴェンダースは、フランシス・F・コッポラに何度も撮り直しを命じられた『ハメット』の後に『パリ・テキサス』を撮った。リン・ラムジー自身も、この現場から逃げ出した後にギリシャのサントリーニ島でジョナサン・エイムズの小説に出会い、『ビューティフル・デイ』を作りカンヌで7分間のスタンディング・オベーションを受けた。拘束の反動が、作家を最も作家らしくさせる。

2015年5月——ハーバード大学クラスデーのスピーチ。「自分の限界を知らなかったからこそリスクが取れた。そのリスクが最大の達成に繋がった」と彼女は語った。リラティビティ・メディアがチャプター11の破産申請を行ったのは、その2ヶ月後のことだった。

2015年7月〜11月:破産、そしてテロ

リラティビティ・メディアの倒産の影響で映画は凍結資産になる寸前だった。著名な訴訟弁護士デヴィッド・ボイスが破産手続きの直前に『ジェーン』を引き剥がすことに成功した。

フランスでの公開は11月15日に設定されていたが、11月13日のパリ同時多発テロ攻撃によって中止された。

呪われ続ける映画は歴史的な事件にまで巻き込まれてゆく。

2016年1月:公開——そして彼女の次の仕事

ワインスタイン・カンパニーが配給手数料のみで引き受け、十分なP&Aを投じたのかも分からないまま、国内1,210スクリーンで公開した。手にした興収はたったの380万ドル。数字はあまりにも残酷だった。

しかし同じ2016年、ポートマンはパブロ・ラライン監督の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でジャクリーン・ケネディを演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。崩壊した映画が公開された年に、彼女はふたたびオスカーレースの中心にいたのだ。


「奇跡的に、誇れるものが完成した」

「毎日ではなく毎時間、新しい障害があった。でも奇跡的に、自分が誇れるものが完成した」——NYプレミアでのポートマンの言葉は、虚勢ではない。

完成した映画は、その波乱の製作過程に反して、きちんと見応えのある仕上がりになっている。Varietyは「ポートマンは説得力がある。母性の怒りは早撃ちに勝るとも劣らずで相手にとって致命的になりうることを、彼女は証明した」と評した。

一方でラムジーは2017年、『ビューティフル・デイ』でカンヌで7分間の喝采を浴びた。主演男優賞をホアキン・フェニックスにもたらし、自身は脚本賞を授与された。ポートマンもラムジーも、それぞれの方法で3年前に失われた問いへの答えを出した。

微笑ましい後日談

『ジェーン』には微笑ましい後日談がある。2016年の劇場公開時には静かに消えた作品が、10年後の2026年になってHBO Maxのライブラリーに加わったことで新しい観客に発見され、突如としてグローバルチャートの上位に浮上したのだ。「あの呪われた映画がどんな仕上がりなのか」という好奇心が視聴動機になったのかもしれず、製作崩壊の話がむしろ作品への興味を生んでいる——皮肉で面白い逆転劇である。

ハーバードの壇上でポートマンはこう締めくくった。「達成は、なぜやるのかを知っているときに素晴らしいものになる」——3年間、抱き続けた『ジェーン』の魂は、最後まで彼女の心の奥底で立ち消えることなく燃え続けていたのだ。


『ジェーン / Jane Got a Gun』(2016年・アメリカ・1時間38分) 監督:ギャビン・オコナー(当初:リン・ラムジー)  脚本:ブライアン・ダフィールド、アンソニー・タンバキス、ジョエル・エガートン 出演:ナタリー・ポートマン、ジョエル・エジャートン、ユアン・マクレガー、ノア・エメリック、ロドリゴ・サントロ、 ボイド・ホルブルック 製作:ボイス・シラー・フィルム・グループ、ハンサムチャーリー・フィルムズ、1821ピクチャーズ、ストーン・ヴィレッジ 配給:ワインスタイン・カンパニー ©2016 Jane Got a Gun Productions LLC. All Rights Reserved.

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