
現実の外側へ、ノークリップせよ。16歳でバックルームズを作り、20歳で映画版『バックルームズ』でA24の歴史を塗り替えた。ケイン・パーソンズという怪物。
インターネット発祥のホラー都市伝説「クリーピーパスタ」——その中でも最大規模の広がりを見せたバックルームズが、映画になった。
監督のケイン・パーソンズは20歳。大学よりも「恐怖」を学習することを優先した。
16歳のとき、彼は9分間の映像をYouTubeに投稿した。架空の研究機関が「現実の外側」を調査するという設定のその映像は、48時間で700万回再生された。
そして、それはスケールアップして映画になった。
制作費1,000万ドル以下で、開幕週末に国内8,100万ドル・全世界1億1,800万ドルを叩き出し、A24の14年の歴史で最大のオープニングを記録した。
ジェネレーションZの観客の半分が、A24のブランド力とYou Tubeカルチャーに引き寄せられている。
インターネットが育てた恐怖は、原作もの映画以上の爆発的なエネルギーを放つことを証明した。

Story:
家具店「キャップン・クラークズ・オットマン・エンパイア」を営むクラーク(キウェテル・イジョフォー)は、バーゲンセール当日、店の地下で奇妙なドアが出現しているのに気づく。ドアを開けた先にあったのは、薄汚れた黄色い壁、黒ずんだカーペット、絶えず鳴り続ける蛍光灯のハム音——終わりのない別の次元、「バックルームズ」だった。
クラークがそこへ消えていく。
彼のセラピストであるメアリー・クライン博士(レナテ・レインスヴェ)は、患者の行方を追って同じドアをくぐる。たどり着いたのは、出口のない迷宮。廊下が廊下を生み出し、部屋が部屋へとつながり続ける。かつてそこを調査していた研究機関Asyncの科学者フィル(マーク・デュプラス)と出会い、クラインたちはバックルームズの「意味」を探ろうとするが——この場所には、何かが棲んでいる。
存在するだけで、恐ろしい場所がある。
Behind The Inside:
大学進学よりも「怖さ」の学習を優先した10代のYouTuber
ケイン・パーソンズは、カリフォルニア州ペタルーマ出身。10歳からYouTubeに映像をアップロードし始め、14歳のときに4chanでバックルームズの原画像に出会った。2022年、当時16歳だったパーソンズは、9分間のショートフィルム「The Backrooms (Found Footage)」をYouTubeに投稿した。1990年代を舞台に、架空の研究機関「Async」がバックルームズを調査するという設定のその映像は、公開直後から数百万回の再生を記録し、その後の2年間でシリーズを継続しながら累計1億9,700万回以上の再生数を集めた。大学には進まなかった。
パーソンズが16歳の時、A24と最初のミーティングを行い、17歳で正式に監督としてのオファーを受けた。
2023年2月、A24・チャーニン・エンターテインメント・アトミック・モンスター・21ラップス・エンターテインメントの共同制作として映画化が正式発表された。監督はパーソンズ本人。A24史上最年少の長編監督となった。撮影は「Effigy」の仮題のもと、2025年7月7日にバンクーバーで開始し、8月14日にクランクアップした。
脚本はロベルト・パティーノが初稿を書き、最終的にウィル・スーディックがリライトして単独クレジットを得た。
「ノークリッピング」——ゲームの言語を取り入れたクリーピーパスタ
バックルームズの起源は、2019年5月の4chanへの匿名投稿だ。「不穏に感じる画像を貼れ」というスレッドに、誰かが黄色い壁の部屋の写真を貼った。写真は後に、改装中のホビーショップの倉庫であることが判明している。
その投稿には、こんな文章が添えられていた。「注意しないと、うっかり現実の外にノークリップしてしまう。そうなると、バックルームズに迷い込む。古い湿ったカーペットの臭い、単調な黄色の狂気、最大音量でブンブン鳴り続ける蛍光灯のハム音、ランダムに仕切られたおよそ6億平方マイルの空き部屋に閉じ込められる。近くで何かが徘徊しているのが聞こえたら、神があなたを救ってくれますように」。
「ノークリッピング(No-clipping)」とは、ビデオゲームでキャラクターが壁をすり抜けてマップの外に出てしまう現象のことだ。このゲーム用語を使うことで、バックルームズというクリーピーパスタは他のホラー伝説と一線を画した——誰もが知っている言語で、現実の「外側」への転落を表現することに成功した。
この投稿がRedditや各種フォーラムで爆発的に広まり、スレンダーマン以来最大規模のクリーピーパスタとなった。コロナ禍でオンライン上での創作活動が加速したことも後押しになった。
熱狂的YouTubeカルチャーとA24ブランドの交差点で生まれた傑作
制作費は1,000万ドル以下。チャーニン・エンターテインメントとA24の共同出資。プロデューサー陣は、ジェームズ・ワン、ショーン・レヴィ、オズグッド・パーキンス、ピーター・チャーニンという、現代ジャンル映画のトップランクが揃った。
プロダクションデザイナーのダニー・ヴェルメットのもと、バンクーバーのサウンドステージに30,000平方フィート以上のバックルームズが実際に建造された。パーソンズはYouTubeシリーズでは全てBlenderによるCGで制作していたが、長編映画では「物理的なセットで撮る」と最初から決めていた。セットは迷宮として機能するよう精密に設計されており、撮影中にスタッフが実際に迷子になったという逸話が残っている。この実物セットへの徹底したこだわりは、批評家から本作最大の技術的達成として称賛された。
公式初日(金曜日)前夜の木曜プレビュー上映だけで1,040万ドルを記録し、A24の単日興収記録を更新。プレビュー興収は2024年の『シビル・ウォー』(290万ドル)の約3.5倍に達した。初週の下限予測は2,000万ドル程度だったが、最終的には8,100万ドルという想定外の数字を叩き出し、2011年の『クロニクル』(2,200万ドル)でジョシュ・トランク(当時27歳)が持っていた「週末興収1位の史上最年少監督」の記録を、20歳のパーソンズが更新した。
観客の88%が35歳以下。62%が男性。「半分はA24のブランドに引き寄せられ、もう半分はバックルームズのファンだった」という分析が示す通り、本作はYouTubeカルチャーとA24ブランドの交差点で生まれた映画だ。
バックルームに悲劇的に共鳴する男女——建築家の夢が破れた男と不穏な距離感の女
クラーク役のキウェテル・イジョフォーは、オスカーノミネート俳優(『それでも夜は明ける』)。アカデミー賞ノミネート歴のある俳優を主役に据えることで、A24はパーソンズの長編デビューを確実にアンカリングしようとした意図が見える。イジョフォーは、クラークの失われた建築家の夢があったが故、「建築的に異常な空間」に引き込まれてしまい、それによって自己崩壊してゆく姿の両方を見事に体現している。
レナーテ・レインスヴェ独特の演技「不穏な距離感」は、メアリー・クラインという役の核心と一致している。感情を爆発させず、衝撃を沈黙で受け止める——その抑制こそが本作では武器になっている。彼女の資質がバックルームズという場所の冷たさと共鳴している、というのが批評の主流だ。
Under The Film:
ホラーの「空白」が持つ暴力性
バックルームズが体現するのは、恐怖の最もプリミティブな形だ——何もない部屋がある、という恐怖。
ゾンビはいない。幽霊もいない。刃物を持った殺人鬼もいない。ただ、蛍光灯が鳴り続ける黄色い廊下が、無限に続いている。それだけで人間は壊れる。本作が突きつけるのは、そうした恐怖。
蛍光灯のハム音が、風景になる
批評家たちが「サウンドデザインがもうひとりの主演」と評した音響設計は、沈黙と微細な歪みを武器として使い、観客の神経を侵食し続ける。「ゴア表現や身体ホラーに頼らず、空白・反復・慣れ親しんだ空間の異化だけで恐怖を生成する」という批評が的確に示す通り、本作の恐怖は視覚ではなく、知覚の構造に対する攻撃だ。
本作のサウンドデザイン・スーパーバイジングサウンドエディター・リレコーディングミキサーの三役を兼任したのは、エウジェニオ・バタリア。蛍光灯のアンビエントなハム音を基盤に、広大で不穏なサウンドスケープを構築した仕事はロッテントマトの批評家コンセンサスで名指しで称賛されており、「サウンドデザインがもうひとりの主演」という評価を生んだ直接の立役者だ。
スコアはケイン・パーソンズとエド・ヴァン・ブリーメンの共同作曲。ヴァン・ブリーメンは本作のプロデューサーでもあるオズグッド・パーキンスの直近2作を手がけてきたカナダ人作曲家で、パーキンスのプロデューサー参加がこのコラボを自然に引き寄せた。パーソンズはYouTubeシリーズの時代から音響を自ら設計してきた作家でもあり、共同作曲というクレジットは、彼が「映像の監督」であると同時に「音の設計者」でもあることを示している。
インターネットが集合的に育てた恐怖が、映画という形で結晶した。バックルームズの本当の怖さは、出口がないことではなく、「ここが現実の外側だ」と気づく瞬間に発生する——それは、スクリーンの内外で同時に起きる。
『バックルームズ/Backrooms』(2026年・アメリカ・1時間50分)
監督:ケイン・パーソンズ
脚本:ウィル・スーディック
出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット、ルキータ・マクスウェル、 アヴァン・ジョージア
製作:21ラップス・エンターテインメント、アトミック・モンスター、ノース・ロード・フィルムズ、フォボス
プロデューサー:ジェームズ・ワン、ショーン・レヴィ、オズグッド・パーキンス、ピーター・チャーニン 他
配給:A24
日本公開:未定
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