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犬の出演映画が多かった年に栄光のパルム・ドッグ賞受賞!『ゴッドランド』フリーヌル・パルマソンが、自分の子どもたちと愛犬パンダと、家族の日常とその愛の行方を描いた『きれっぱしの愛』。

アイスランド語を話す人間はほんの35万人しかいないが、それでも英語劇にはしたくなかった。子どもたちが大きくなる前に、過ぎゆくこの瞬間を収めておきたかった。

第78回カンヌ国際映画祭プルミエール部門正式出品。第98回アカデミー賞アイスランド代表選出。そして愛犬パンダがパルム・ドッグ賞を受賞。

監督の実の子ども3人と本物の家族犬が、元夫婦の別れをめぐる1年間を演じた——絶妙な距離感の先に映る悲しみと喜びがないまぜになったペーソス。

「もう夫婦ではなくなった」はずの二人が、なぜかまだ食卓を囲み、ピクニックに行き、子どもたちと笑っている。ささやかな日常の中で愛が失われてゆく。


©STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA


Story:

アイスランドの田舎町。アーティストのアンナ(サーガ・ガルザルスドッティル)は、しっかり者の長女イダ、わんぱくな双子グリムールとソルギス、そして愛犬パンダと暮らしている。若くして結婚し、今や「もう夫婦ではなくなった」はずの元夫マグヌス(スベリル・グドナソン)は漁船員として海に出ながら、何かにつけて家に顔を出し、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う。気がつけば、まるで「まだ家族」であるかのような日常が続いている。

大きな事件は起こらない。四季が移り、子どもたちが笑い、犬が走り回る。その風景の中に、失われていくものと、それでもまだ残っているものの輪郭が、静かに浮かびあがってくる。


Behind The Inside:

「子どもたちが大きくなる前に撮らなければならなかった」——スケールを小さくした理由

フリーヌル・パルマソンは1984年、アイスランド南東部のホーフン・イー・ホルナフィルジ出身。コペンハーゲンの映画学校を経て、2017年のデビュー長編『ウィンター・ブラザーズ』でロカルノ映画祭コンペティション部門に選出され、2019年の『ホワイト・ホワイト・デイ』でカンヌ批評家週間入り、2022年の『ゴッドランド』でカンヌ「ある視点」部門へと進んだ。

3作連続でカンヌに出品した後の4作目。多くの観客が「より大きな映画」を期待した。パルマソンは逆方向へ向かった。

「英語で映画を撮ることも考えた。アイスランド語を話す人間は世界に35万人しかいない。この言語はほとんど絶滅危惧種だ。でも今は、この瞬間に飛び込みたかった」と彼はカンヌで語っている。「子どもたちが大きくなる前に、全部を捉えておかなければならなかった。人生は、瞬きする間に過ぎてしまう」。

本作の出演者のうち、子ども3人は監督パルマソンの実の子どもたち——長女イダ・メッキン・フリンスドッティル、双子のグリムール・フリンソンとソルギス・フリンソン——がそのまま演じている。パルマソンは実際には離婚していないと公言しているが、別離という題材を選んだのは、失われゆく時間そのものへの切迫感からだと言う。撮影もパルマソンで自身で行なっている。

「自分の家の中に招かれる」——カンヌが評したパルマソンの方法論

本作はカンヌのコンペティションではなく、「カンヌ・プルミエール」部門で上映された。非コンペの部門ながら、批評はほぼ一様に高く評価した。Variety誌は「コンペに選ばれなかったのは不運だった」と書き、「パルマソンがオートゥール(作家)としての独自性をさらに固めた作品」と評した。Cineuropaは「パルマソンという監督は、自分の家に招き入れ、そのまま足元の絨毯を引っ張る。ただし、痛みではなく、それとは反対のものを残すかたちで」と表現している。

『ゴッドランド/GODLAND』(2022年)が19世紀アイスランドの大地と宗教的権威の衝突を描いた重厚な叙事詩だったのに対し、本作は現代の田舎町のリビングルームから始まる。美術家アンナが制作するアート作品——子どもたちが野外に作り上げていく騎士のような人形のオブジェ——がカットとカットをつなぐモチーフとして機能し、季節の移ろいと時間の経過を静かに刻んでいく。IndieWire誌は「マグヌスの心に愛は残っているが、アンナ、イダ、グリムール、ソルギスそれぞれが保ちながら手放してきた愛と、ひとつに束ねることはできない」と、ラストショットを評した。

音楽はハリー・ハントの「Playing Piano for Dad」を基盤としたジャズの旋律が全編を覆い、ブラックユーモアとシュールな笑いが不意に飛び込んでくる——批評家たちが口を揃えて「予想外に笑った」と評した映画でもある。

25年目の節目のパルム・ドッグ賞——カンヌで犬にだけ贈られる賞

カンヌ映画祭には、パルムドールとは別に、もうひとつの「パルム」がある。パルム・ドッグ賞だ。

2000年にイギリス人ジャーナリスト、トビー・ローズが創設した非公式の賞で、カンヌ出品作品に登場する犬の演技に贈られる。授賞式はパルムドール発表の前日、クロワゼット沿いのビーチで行われる。過去の受賞者には、クエンティン・タランティーノが自ら壇上に立った2019年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブランディ(ブラッド・ピットのキャラクターが飼うピットブル)、ティルダ・スウィントンが登壇した2021年の『ザ・スーベニール PART II』の3匹の犬たち、そして2023年には映画と同じく「パルムドール×パルム・ドッグ」のダブル受賞を果たした『落下の解剖学』のボーダーコリー、メッシがいる。メッシは受賞後にフランスのテレビ番組レギュラーになった。

2025年は第25回記念大会。受賞したのは、アイスランド・シープドッグのパンダだった。

パンダはパルマソン監督の実の飼い犬で、本名もそのままパンダ。カンヌには来られなかったため、アイスランドをドライブ中の受賞コメント動画でバーチャル登場し、代わりに地元の瓜二つのシープドッグがプロデューサーとともに壇上に立ち、「Palm Dog 2025」とゴールド刺繍が入った赤いバンダナのトロフィーを受け取った。

「パンダはまだ受賞を知らないだろうが、首に巻いてもらったら喜ぶと思う」とプロデューサーのアントン・マーニ・スヴァンソンはロイターに語った。「彼女はまさに地に足のついたスターだ」。

審査員ウェンディ・ミッチェルは「今年はすごい競合が多かったが、この犬は映画の核心にいる」と選定理由を述べた。パンダは映画の中で、家族のピクニック、アートスタジオ、車の中、バスケットボールのゲームと、あらゆるシーンに登場する。それはフィクションの演技ではなく、実際の日常の記録だ。

「ネポティズムは犬にも適用されない」——パンダの演技を巡る批評の温度差

おもしろいのは、批評の中でパンダの存在感への評価が割れていることだ。

Film Review Dailyのマンセル・スティンプソンは本作のドラマ構成には手厳しかったが、「本作で偶発的に得られる喜びのひとつは、ファミリーシープドッグのパンダの存在感だ。カンヌでパルム・ドッグを受賞したのは驚くにあたらない」と書いた。

一方、NBCニュースは「彼女が監督の犬という事実が『nepaw-tism(犬縁故主義)=身内の犬びいき』を示唆するかもしれないが、そのドラマの中心的な演技で批判を受けるいわれはない」とシャレを交えて擁護した。


『きれっぱしの愛』本予告|7月3日(金)公開

<俳優・小林聡美によるナレーション本予告> 愛おしい 私たちの生活。 (ときどき、殺意) 19世紀のアイスランドを舞台に、若き牧師の布教の旅を壮大なスケールで描き、多くの映画ファンを魅了した『ゴッドランド/GODLAND』。いま最も注目を集めるアイスランドの気鋭監督フリーヌル・パルマソンが最新作で描くのは、片田舎に暮らす、ごく普通の家族のささやかな日常。大きな事件は起こらない。移りゆく四季とともに、ときにブラックに、シュールに、ユーモラスに紡がれる日常のスケッチが映し出すのは、変わりゆく夫婦、家族、そして失われてもなお残る愛の行方――。 〈ストーリー〉 北欧・アイスランドの田舎町。芸術家のアンナは、しっかり者の長女イーダ、わんぱくでいたずら好きな双子グリームルとソルギルス、そして愛犬パンダと暮らしながら、芸術家としての道を模索していた。若くして結婚したものの、今や<もう夫婦ではなくなった>はずの元夫マグヌスは、いまだに情を断ち切れず、何かと理由をつけては家を訪ね、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う始末。気がつけば、まるで<まだ家族>であるかのような日常を再び送るようになるが――。 脚本・監督:フリーヌル・パルマソン 『ゴッドランド/GODLAND』 出演: サーガ・ガルザルスドッティル、スベリル・グドナソン 配給:NOROSHI、ギャガ/原題:Ástin sem eftir er(英題:The Love That Remains)/2025年/アイスランド、デンマーク、スウェーデン、フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/109分/字幕翻訳:松岡葉子/G ⓒ STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA 公式HP  https://gaga.ne.jp/ai_kireppashi_NORO… X、インスタ: @noroshi_gaga ギャガ公式チャンネル


Under The Film:

家族映画という最も難しい映画

離婚や別居を描いた映画は数多くある。しかしパルマソンが選んだのは、「完全に終わっていない別れ」という状態だ。マグヌスはまだ家に来る。一緒に食事をする。子どもたちと笑う。アンナは時に彼を憎む。そしてときには、体の距離が近くなることもある。

Variety誌が「結婚の崩壊を描いたスクリーンドラマの豊かな系譜の中に置かれる」と評したように、本作はイングマル・ベルイマンの『ある結婚の風景』系譜の作品として位置づけられる。ただし、パルマソンはその重量から意図的に距離を置いた——巨大な問いを立てるのではなく、冷凍池でのスケート、野いちごを摘むピクニック、ひよこを優しく扱う子どもたちの手、バスケットボールのそばで吠えるパンダといった「偶然の目撃」の積み重ねによって、失われていくものの輪郭を浮かびあがらせる。

「斜め上」の記録映画——フィクションと現実の境界を意図的に溶かす

本作最大の仕掛けは、フィクションと現実の境界線の溶解だ。子どもたちは俳優ではなく、監督の実の子ども。犬はキャスティングされたのではなく、監督の飼い犬。離婚という題材は監督自身の実人生ではないと本人は言うが、映像に映し出される空間は監督が日々を過ごす場所だ。

「ありのままの家族の風景を切り取ったかのような、ナチュラルでエネルギッシュな魅力」という評がついて回るのは、そのためだ。これは演じられた日常ではなく、記録された日常に近い。パルマソンが本作で自ら撮影監督を務めたのも、その距離感の制御のためだろう。

アリ・アスターが本作に推薦コメントを寄せたのも、この文脈で理解できる。自ら「ヘレディタリー」「ミッドサマー」「ボー・イズ・アフレイド」と家族とトラウマの領域を掘り続けてきたアスターが、アイスランドの静かな家族劇に何を見たか——それはある意味、ホラーの反対側にある何かだったかもしれない。


『きれっぱしの愛』(2025年・アイスランド、デンマーク、スウェーデン、フランス・1時間49分)
原題:Ástin sem eftir er 英題:The Love That Remains
監督・脚本・撮影:フリーヌル・パルマソン
出演:サーガ・ガルザルスドッティル、スベリル・グドナソン、イダ・メッキン・フリンスドッティル、グリムール・フリンソン、
ソルギス・フリンソン、パンダ、インガル・シグルドソン、アンデシュ・モスリング
音楽:ハリー・ハント
編集:ユリウス・クレブス・ダンスボ
製作:Still Vivid、Snowglobe、HOBAB、Maneki Films、Film i Väst、ARTE France Cinéma
配給:NOROSHI、ギャガ
日本公開: 2026年7月3日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
©STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA

映画『きれっぱしの愛』公式サイト

北欧・アイスランド。移ろう四季の中で見つめる、〈もう夫婦じゃない〉男女と子供たちとの、〈いまさら家族〉の日常。『きれっぱしの愛』7月3日(金)公開。


Reels:

ゴッドランド

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