
ライナーノーツの名前たちが、ついに主役になる日——伝説のスタジオ・ミュージシャンたちを描くドキュメンタリー『イミディエイト ファミリー』
「あのレコードを買ったのは、彼らが弾いているからだ」——フィル・コリンズ
ジェームス・テイラー、キャロル・キング、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン——あの時代の名盤のクレジットに、かならず同じ4つの名前があった。ダニー・コーチマー、ワディ・ワクテル、リーランド・スカラー、ラス・カンケル。彼らがいなければ、名盤は存在しなかった。
監督は『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』のデニー・テデスコ。証言者にはフィル・コリンズ、ビリー・ボブ・ソーントン、ニール・ヤング、キース・リチャーズ、スティーヴィー・ニックス、ドン・ヘンリー。

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Story:
1970年代のロサンゼルス。キャロル・キングが『タペストリー(つづれおり)』を録音し、ジェームス・テイラーが『スウィート・ベイビー・ジェームス』を作り、リンダ・ロンシュタットとジャクソン・ブラウンが時代の声になっていったあの場所に、かならず彼らがいた。ダニー・コーチマー(ギター)、ワディ・ワクテル(ギター)、リーランド・スカラー(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)の4人——後に「ザ・イミディエイト・ファミリー」と呼ばれる絆で結ばれたミュージシャンたちだ。本作は、ウエストコースト・サウンドの黄金期を陰で支え、表舞台に立つことなくアメリカン・ロック&ポップスの音を形作り続けた彼らの50年にわたる友情と音楽の軌跡を追うドキュメンタリー。
Behind The Inside:
ライナーノーツを読む者だけが知っていた
「アルバムを買う理由が、彼らが演奏しているからだった」——フィル・コリンズはそう証言する。まだ自分のレコードを一枚も作っていない頃、コリンズはライナーノーツで同じ名前を何度も目にし、その存在を追いかけていた。この話が象徴するように、彼らは名前こそ知られていたが、顔は見えなかった。それがこの時代のスタジオ・ミュージシャンの立ち位置だった。
ビリー・ボブ・ソーントンもこう言っている。「70年代初頭、ライナーノーツを持っているアルバムを手にすれば、かならず彼らの名前があった。」
彼らのキャリアは、プロデューサーのピーター・アッシャーの決断から始まる。当時、スタジオ・ミュージシャンのクレジットをアルバムに載せることは一般的ではなかった。しかしアッシャーは、自身が手がけるジェームス・テイラーやリンダ・ロンシュタットのレコードに全員の名前を記した。それが初めてで、それが彼らを単なるセッション・マンから「知られた存在」へと変えた。ワディ・ワクテル自身も、コーチマーの名前をアルバムで見かけて「なぜこの男はすべてのレコードに出ているのか」と思っていたと語っている。
60年代はまるで時間給の工場勤務、シンガー・ソングライター時代になり、全てが変わった
本作の監督デニー・テデスコは、父トミー・テデスコをはじめとした1960年代のスタジオ集団を描いた前作『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』(2008年)で音楽ドキュメンタリーの名手として評価を確立した。
その後継作品として位置づけられる本作で、テデスコは二つの時代の決定的な違いを描き出している。レッキング・クルーの時代——つまり1960年代——は「工場」だったとテデスコは言う。スタジオ・ミュージシャンたちは3時間単位のセッションをこなし、アーティストとの交流は最小限だった。
それがシンガー・ソングライター時代になると、様相は一変した。キャロル・キングはジェームス・テイラーとダニー・コーチマーを「自分のバンド」として連れてきた。アーティストとバンドは共に生き、共に旅し、共に曲を育てた。スタジオとツアーが一体化し、ミュージシャンたちは単なる雇われ演奏者ではなく、創作プロセスそのものに参加する存在になっていった。コーチマーとキーボードのクレイグ・ドーグはアレンジに意見を加え、楽曲のソングライティングにまで関わることもあった。
また、リーランド・スカラーらが語るように、ピーター・アッシャーのクレジット方針は単なる敬意ではなく、業界の構造を変えた。名前が載ることで彼らは「顔のある演奏者」になり、次のオファーが来るとき、アーティストは特定のサウンドを求めて特定の人物に電話するようになったのだ。
ジェームス・テイラーが名付けた「ザ・セクション」が原型
4人の中心には、ジェームス・テイラーが彼らにつけたニックネーム「ザ・セクション」という起点がある。コーチマーとテイラーはニューヨーク時代のバンド「フライング・マシーン」からの旧知の仲で、テイラーのロンドンでのデビューを後押しした縁もある。その後ロサンゼルスに集まり、コーチマー、カンケル、スカラーのコアが形成され、ワクテルが加わった。
それぞれの出自は違う。ニューヨーク、ロサンゼルス、東海岸——異なる背景から集まった彼らが、同じスタジオで同じアーティストの音楽に向き合い続けるうちに、演奏上の信頼だけでない「家族のような絆」が生まれていった。本作が「イミディエイト・ファミリー(血の繋がらない家族)」という言葉を選んだのは、その事実をそのまま名前にしたからだ。
ワクテルがコーチマーの名前をライナーノーツで追いかけ、その後ロサンゼルスでセッションに潜り込み、運命的に出会ったこと。カンケルとワクテルが同じ1957年型シボレーを乗り継ぎ、すれ違いながら出会ったこと。そうした個々のエピソードを積み重ねながら、本作は、当時のL.A.のスタジオ・シーンが持っていた磁力のようなものを浮かび上がらせていく。
消えていく時代への静かな目線
証言者たちは今、70代中盤から後半だ。ドキュメンタリーの中では現在も演奏する彼らの姿が映し出されるが、その周囲にいた多くの仲間はすでにいない。デヴィッド・クロスビーはインタビュー後に他界した。プロデューサーのルー・アドラーが語る記憶は、あの時代の証言として残るほかない。
本作はそのことを殊更に強調するわけではない。ただ、映画全体を通じて感じるのは、あの音楽の作り方——部屋に集まり、互いに耳を澄まし、演奏しながら曲を育てていく作業——が、もはや同じ形では戻らないという静かな認識だ。テデスコが「この物語を語らなければならない理由があった」と語るとき、それはドキュメンタリーの常套句ではなく、時間との競争の告白でもある。
Under The Film:
フィル・コリンズの証言は音楽ファンは誰もが等しく感じていた
フィル・コリンズの証言が印象的なのは、彼がスターになる前から彼らを追いかけていたからだ。コリンズにとって彼らは「神」だったわけではなく、「あのサウンドを作っている人たち」だった。それは鑑賞する対象ではなく、学ぶ対象であり、いつかともに作りたい相手だった。そうした感情を持つ者が最終的に彼ら以上の知名度を持つスターになったという逆説が、この映画に特別な厚みを与えている。
思わずレコード・コレクションを引っ張り出したくなる
ワクテルがコーチマーの名前を追いかけた問いは、そのままこの映画が観客に届ける体験でもある。『タペストリー(つづれおり)』『スウィート・ベイビー・ジェームス』『ランニング・オン・エンプティ(孤独なランナー)』『エキサイタブル・ボーイ』——クレジットを辿れば、かならず同じ名前に行き着く。本作を観終わった後、自分のレコード・コレクションを引っ張り出してみたくなる——批評家たちが異口同音にそう書いていることは、この映画が持つ最も正直な効能かもしれない。
『イミディエイト ファミリー』(2023年・アメリカ・1時間40分)
監督 デニー・テデスコ
出演 ダニー・コーチマー、ワディ・ワクテル、リーランド・スカラー、ラス・カンケル、スティーヴ・ポステル、
ジェームス・テイラー、キャロル・キング、フィル・コリンズ、ドン・ヘンリー、ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタット、スティーヴィー・ニックス、キース・リチャーズ、ニール・ヤング 他
提供 マリブ コーポレーション/合同会社おさかな
配給 サンタバーバラ・ピクチャーズ
日本公開 2026年6月19日(金)
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