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アメリカでは「劇場を守れ」という声が響く中、銀座では71年の歴史が静かに幕を下ろす

スピルバーグが「Netflixでは絶対に映画を作らない」と発言した同じ週に、東京・銀座の老舗ミニシアター「シネスイッチ銀座」が10月25日をもって閉館すると発表した。

ハリウッドでは「劇場を守れ」を巡る議論がかつてなく熱を帯びている。だが太平洋の反対側では、守るべき劇場が別の論理で静かに消えていく。

誰が為に映画はかかる——のか


① Netflix vs 劇場派——宣戦布告の構図

発端はNetflixのダン・リン映画部門会長が、NYタイムズのインタビューで放った一言だ。「劇場公開にこだわる監督たちとは、一緒に仕事をしない」——これは宣戦布告に近い。

その数日後、スティーブン・スピルバーグがITVニュースのインタビューで応じた。「私は映画監督であり、70ミリフィルムによる劇場体験を信じている」と明言し、Netflixが自宅のスクリーンに向けて同時配信するのではなく、かつてのようにDVDを郵送する会社であれば喜んで仕事をすると語った。

この対立の背景には、Netflix共同CEOテッド・サランドスの一連の発言がある。2025年4月のTime100サミットで、サランドスは劇場体験を「時代遅れのアイデア」と呼び、見知らぬ人同士が映画館に集まって映画を観るという体験が「もはやそれほど起きていない」と述べた。

ジェームズ・キャメロンはNetflixによるWarner Bros. Discovery買収に反対する書簡を上院議員に送り、「17日間という劇場公開ウィンドウは馬鹿げた短さで、話にならない」と批判、「劇場公開を支持するというNetflixの約束が数年以内に消え去るだろう」と警告した。なお「17日間」はNetflixが公式に表明した数字ではなく、報道を受けてキャメロンが引用したものであり、サランドスは「45日間を約束している」と反論している。


② 「誰が為に映画はかかる」——映画館にも地域格差がある

ここで立ち止まる必要がある。スピルバーグが守ろうとしている劇場とは、どこにある劇場なのか。

サランドス自身がTime100サミットで皮肉にも触れている。「マンハッタンに住んでいて、シネコンまで歩いて行けるなら、それは素晴らしいことだ。だが国民のほとんどはそうではない」——これは劇場を否定する文脈で語られた言葉だが、別の読み方もできる。劇場という体験は、そもそも特定の都市に住む特定の人々のためのものだったのではないか、という問いだ。

では東京・銀座4丁目に71年間存在し続けたシネスイッチ銀座は、誰のためのものだったのか。


③ 銀座4丁目で映画体験を守るという問い

東京・銀座のミニシアター、シネスイッチ銀座が2026年10月25日の営業をもって閉館することが発表された。前身の銀座文化劇場として1955年に開館して以来71年、『ニュー・シネマ・パラダイス』をはじめ世界各地の良質な作品を上映するミニシアターとして親しまれてきた。日本でいち早くレディースデーを導入した映画館としても知られる。なお、2025年7月には近隣の丸の内TOEIもすでに閉館している。

経営母体は1928年創業の簱興行(はたこうぎょう)株式会社。本社所在地は銀座4丁目——シネスイッチ銀座が入る「簱ビル」と同じ住所だ。2011年以降、同社が経営する映画館はシネスイッチ銀座1・2のみ、銀座の自社ビルで映画館を続けてきた老舗だ。

見落とされがちだが、映画館の閉館には設備更新のタイミングが深く関わっている。映画業界は2009〜2012年にかけて35mmフィルムからデジタルシネマ(DCP)へと一斉に移行した。導入されたデジタルプロジェクターは1台あたり1000万円以上、しかも業界慣行として10年リース契約が一般的だ。精密機器であるデジタルプロジェクターの実用寿命もおよそ10年で、フィルム時代の映写機が30年以上使えたこととは根本的に異なる。つまり2009〜2012年に導入した機器の更新時期は、2019〜2022年に集中する。この時期にコロナ禍も伴い、動員の厳しい映画館の閉館ラッシュが実際に起きていたことは、業界関係者の間では周知の事実だ。「更新投資をするかどうか」——その判断の岐路が、閉館のトリガーになる。さらに今後を見据えれば、ネットワーク経由でのデジタル配信という次の技術移行も視野に入る。守るべき映画体験のために、どこまで設備投資を続けるか。その問いは、銀座4丁目の簱ビルにも静かに突きつけられていたはずだ。

閉館の理由は公式には語られていない。「71年の歴史」への感謝と惜別の言葉が発表文を占める。それは興行会社として誠実な態度だが、同時に、銀座4丁目という超一等地のビルで映画館を続けることの意味が静かに問い直された結果であることは、想像に難くない。経営者はそれをそうは言わないし、言う必要もない。


④ 誰のためでもない、映画はあなたのために上映される——映画館を巡る地殻変動

クリストファー・ノーラン、マーティン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロン、ハリウッドの巨匠たちが自ら発信し、「劇場を守れ」という熱い言葉が飛び交っている。スピルバーグの発言は世界中で報じられ、Netflixのダン・リンの発言は映画業界に波紋を広げた。その議論は「一体、誰が正しいのか」という正義の文脈で語られる。

だが東京では、その議論の届かないところで、別の論理が静かに働いている。守るべき劇場が、守るか守らないかという議論とは無関係に、消えていく。

「劇場を守れ」という声は崇高だ。しかしその声が響く間も、銀座の映画館は10月25日に向けて、最後のプログラムを組み続けている。ハリウッドの議論と銀座の閉館は、別々の出来事ではない。同じ一つの地殻変動が、太平洋の端と端で異なる顔を見せているだけだ。

誰が為に映画はかかる——のか


シネスイッチ銀座 1955年11月21日開館 → 2026年10月25日閉館(71年)
丸の内TOEI 2025年7月閉館


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