
「『ユー・ガット・メール』の劣化版リメイク」と監督が自虐するロマコメ。7年越しで三度生まれ変わった『ボイスメールで恋をして』Netflixで配信中!
元はハリウッドの新人脚本コンペであり「ブラックリスト」に名を連ねた人気を呼んだ脚本。2019年、ソニーが『ブリジット・ジョーンズの日記』のシャロン・マグワイアを監督に、ヘイリー・スタインフェルドを主演に据えて発表した企画は、7年の沈黙を経て——脚本を書いた本人が監督となり、まったく別の主演二人を迎えてNetflixから配信されることになった。
監督のリー・マッケンドリックは、#MeToo時代の復讐スリラー『M.F.A.』、自身の卵子凍結体験を描いた『Scrambled』、そして『ラストサマー』続編の脚本まで手がける多彩な書き手。彼女が脚本家に成りたて頃に書いた脚本が、ようやく自らの手で映画化された。
本作は現在、Netflixで全世界独占配信中。

Story:
サンフランシスコでパティシエを目指すジル(ゾーイ・ドゥイッチ)は、若くして亡くなった妹イザベルへの語りかけをやめられない。彼女の携帯番号に向けて、日々の出来事を綴った——時にコメディ、時に号泣必至な——ボイスメールを送り続けているのだ。だがその番号は、本人の知らぬ間にオースティンの不動産業者ウェス(ニック・ロビンソン)へと再割り当てされていた。最初は戸惑いながら聞き始めたウェスは、次第にジルの率直すぎる告白に引き込まれ、会ったこともない彼女に恋をしてしまう。交際相手のチャドに突然ゴースト(着信拒否)されたジルを知ったウェスは、矢も盾もたまらずサンフランシスコへ飛ぶが——「なぜ自分が彼女のすべてを知っているか」を、いつ、どう伝えるべきかという大きな問題が彼を待っていた。
Behind The Inside:
「ブラックリスト」発、7年がかりの企画変遷
本作の出発点は、2019年にハリウッドの新人脚本家の登竜門「ブラックリスト」(年間最高の未製作脚本を集めた業界投票リスト)に名を連ねたスペック脚本だった。当時無名に近かった俳優兼脚本家リー・マッケンドリックのこの脚本に、ソニーは即座にプリエンプト(競争入札の前に独占的に買い取る)で食いつき、『ブリジット・ジョーンズの日記』『ブリジット・ジョーンズの赤ちゃん』のシャロン・マグワイアを監督候補に、『トランスフォーマー/最後の騎士王』のスピンオフ『バンブルビー』を終えたばかりのヘイリー・スタインフェルドを主演に据えて発表した。製作は当時からエスケープ・アーティスツのトッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、スティーブ・ティッシュ、ベッキー・サンダーマンが一貫して関わっている。
興味深いのは、当時の業界メディアの報じ方だ。Deadlineも The Hollywood Reporter も、揃って「映画『ユー・ガット・メール』(1998)を思わせる」という評を脚本紹介の段階で添えている。つまり本作と『ユー・ガット・メール』の比較は、映画が一本も撮られていない時点からすでに業界の共通認識として存在していたことになる。
その後、この企画は表舞台から姿を消す。2025年5月、Netflixがマッケンドリック自身を脚本・監督に、ゾーイ・ドゥイッチとニック・ロビンソンを主演に据えて本作を製作すると発表するまで、実に6年の沈黙があった。主演も監督も配給も総入れ替えという稀有な転生を遂げながら、製作陣(エスケープ・アーティスツ)だけが7年間変わらず残り続けた——これは「権利が一度スタジオに買われた脚本が、その後どう生き延びるか」を考えるうえで興味深いケーススタディだ。なお本作は現在もソニー・ピクチャーズが製作会社としてクレジットされており、配信のみをNetflixが担う形になっている。自社で映画を製作しながら、ライバルの配信プラットフォームに完成品を委ねるという構図は、スタジオシステムが大きく変容した近年のハリウッドを象徴している。
多彩な脚本家、リー・マッケンドリックの「異色作」
監督・脚本のリー・マッケンドリックのフィルモグラフィーを並べると、本作の”浮き具合”がよく分かる。長編監督デビュー前のキャリアでは、フランチェスカ・イーストウッド主演のレイプ復讐スリラー『M.F.A.』(2017年)を脚本・製作・出演。同作はニューヨーク・タイムズ紙に「#MeToo時代に語りかける最初のホラー映画」と評された。長編監督デビュー作『Scrambled』(2023年SXSWプレミア、2024年劇場公開)は、自身の卵子凍結体験を基にした極めて私的な物語で、ロッテントマトでは批評家支持率94%を記録。さらに2025年には『ラストサマー』の続編『ラストサマー:リターンズ』の脚本も担当し、2026年6月には満を持してシャナイア・トゥエインの伝記映画『Shania』をソニーで監督することが発表されている。
つまり本作『ボイスメールで恋をして』は、彼女のキャリアの中で最も古い——そして最も「らしくない」一本だ。復讐劇、不妊治療の私的告白、スラッシャー映画のレガシー続編、ポップスターの伝記映画という、痛みや怒り、社会的テーマを扱う作風が並ぶなかで、唯一、純な恋愛コメディとして残っていたのが、彼女のキャリア最初期に書かれたこの脚本だった。長年お蔵入りしていた処女作的スペックが、監督として成熟した今になって完成したという巡り合わせは、書き手としての原点回帰とも読める。
劇中に滲む「メタ」な自己言及
予告編には、ジルの友人アンディ(ハリー・シャム・Jr.)がウェスとジルの出会いを「『ユー・ガット・メール』の劣化版リブートじゃん」とからかい、ウェス役の友人ブリーダ(俳優でもあるマッケンドリック自身が演じる)が「あなたはトム・ハンクスじゃないのよ」と釘を刺すやり取りがある。これは単なるジャンルへのウィンクではない——前述のとおり、この比較は2019年の企画発表時点でメディアがすでに口にしていたものだ。つまり本作は、自分自身が浴びてきた批評の先取りを、台詞としてセルフパロディ化している。Netflix公式ガイドサイトのTudum記事も同様に「『ユー・ガット・メール』や『めぐり逢えたら』を思わせる」と紹介しており、配給元自らがこの系譜を前面に押し出している点も見逃せない。
Under The Film:
ゾーイ・ドゥイッチ、「Netflixロマコメの顔」へのリターン
ゾーイ・ドゥイッチの名は、2018年のNetflixオリジナル『セットアップ: ウソつきは恋のはじまり』とともに語られることが多い。同作はNetflixが「ロマコメ復権」を仕掛けた象徴的なヒットとなり、彼女自身も「Netflix and chillの時代を象徴する顔」と評されるようになった。あれから8年。リチャード・リンクレイター監督がゴダールの『勝手にしやがれ』誕生の舞台裏を描いた映画『ヌーヴェルヴァーグ』などで作家主義的なフィルモグラフィーも積み重ねてきた彼女が、再びNetflixのロマンティックコメディの主演に戻ってくるというキャスティングは、単なる偶然というより、Netflix側の意図的な「原点回帰ブランディング」と見るべきだろう。共演のニック・ロビンソンも、Netflixドラマ『メイドの手帖』で見せた繊細さを買われての起用だと見られる。
ゾーイ・ドゥイッチの血筋を辿ると、この配役はさらに因縁めいて見える。父ハワード・ドゥイッチは『プリティ・イン・ピンク』『恋しくて』という名匠ジョン・ヒューズの流れを組む青春映画を手がけた監督であり、母リー・トンプソン(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロレイン役)とは『恋しくて』の撮影現場で出会い結婚した。つまりゾーイは、青春ロマンス映画の現場で生まれた出会いそのものの「結果」として生まれてきた人物だ。「会ったこともない相手に運命的に惹かれる」という本作の筋立てを、ある種、血筋的な必然として彼女が引き受けているとも言える。
ラブコメが劇場では割りに合わない時代のビジネスモデル——Netflix配信
本作はエスケープ・アーティスツがソニーとのファーストルック契約のもとで開発を進めてきた企画でありながら、最終的な配給・独占配信権はNetflixが握るという形に落ち着いた。これは中規模予算のロマンティックコメディが劇場興収では割に合わなくなった近年において、ますます一般化しているパターンだ。Netflixは本作を、ジェニファー・ロペスとブレット・ゴールドスタイン主演の『Office Romance』に続く同社のロマコメ路線の一作として位置付けており、配信日も父の日翌週・独立記念日前という、ロマンティックな“ながら見”需要が高まる時期に意図的に設定されている。スタジオが企画を開発し、配信プラットフォームが完成品を買い取るという分業体制は、もはや例外ではなく標準的なビジネスモデルになりつつある。
『ボイスメールで恋をして』(2026年・アメリカ・1時間59分)
監督・脚本 リー・マッケンドリック 製作 トッド・ブラック、ジェイソン・ブルーメンソール、スティーブ・ティッシュ、
ベッキー・サンダーマン(エスケープ・アーティスツ)
出演 ゾーイ・ドゥイッチ、ニック・ロビンソン、ニック・オファーマン、ルーカス・ゲイジ、ハリー・シャム・Jr.、
シアラ・ブラヴォ、リー・マッケンドリック、ギル・ベロウズ
Netflixにて独占配信中
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