
主役を差し置いて看板を飾る犬――『スーパーガール』はなぜ”クリプト”をポスターの顔に据えたのか
2026年6月26日、日米同時公開となる『スーパーガール』。
本国で展開された一連のキービジュアルでは、主人公カーラ・ゾー=エルではなく、彼女の愛犬クリプトが単独でフレームを占める一枚が目立った。
ヒロイン映画の看板を、犬に譲っているように見えるこの判断には、実はかなり計算された裏側がある。

Story:
スーパーマンが地球を救った後の世界。故郷クリプトンを失ったカーラ・ゾー=エル(ミリー・オールコック)は、唯一の心の拠り所である愛犬クリプトと静かに暮らしていた。そこに現れた謎の敵クレム(マティアス・スーナールツ)によってクリプトが毒に侵される。解毒剤を求めるカーラは、同じくクレムに家族を奪われた異星人の少女ルーシー(イヴ・リドリー)、そして宇宙最凶の賞金稼ぎロボ(ジェイソン・モモア)とともに、3日間のタイムリミットの中で銀河を巡る復讐の旅に出る。
Behind The Inside:
“ベイビー・クリプト”は、ベビーグルートの成功例に倣っている
ベビーグルートを世に送り出したジェームズ・ガンは無垢で子どもっぽいキャラクターに観客がどう反応するかを熟知している。実際、2026年2月のスーパーボウル中継中に放送される特別番組「パピーボウル」で、本作はクリプトの幼少期を描いた新しいい場面とポスターを公開した。成功例となったベイビー・グルートや「ベイビー・ヨーダ」(グローグー)にあやかり、DCスタジオがこの可愛い相棒クリプトを前面に押し出してくるのは当然の宣伝展開となった。
そして、その狙いは大きく外れていない。本国で配布された一連のキャラクターポスターには、主演ミリー・オールコックのカーラだけでなく、クリプト単体のポスターも用意されている。さらに、「Watch out universe!」のコピーを添えた子犬クリプト単独の商品用ポスターも展開され、「小さいけれど、いずれその首輪に見合うサイズへと成長していく中で、注目を独り占めするだろう」というコピーが付けられている。
モデルは、ガン監督が保護した実在の犬
このクリプト推しには、ガン監督自身の事情も絡んでいる。クリプトの見た目と動きは、ガン監督が保護した実際の犬”オズ”がモデルになっている。『スーパーガール』のクリプトは、活発で遊び好きの犬として描かれ続けている。TV spotで明かされたようにクリプトはもともと野良犬で、カーラに保護される前は迷い犬だったという新設定が加えられている。「保護犬」としての出自を持つキャラクターを看板に立てるというのは、SNS時代の犬コンテンツ需要も意識した判断だろう。
物語上も、クリプトは”ヒロインの唯一の家族”
ポスターの意味は、マーケティング戦術だけでは説明がつかない。カーラにとってクリプトは、無条件に愛おしい、いつも側にいてくれる唯一の家族のような存在として描かれる。予告編の中でカーラは従兄クラークに「私には仲間がいない」と言い切り、その代わりに愛犬を拠り所にしている様子が示される。ヒロインの孤独を癒してくれるたった一つの絆がクリプトそのものなのだ。
Under The Film:
可愛さ戦略の代償――「結局、何の映画か分からない」という不満
ただし、この犬推し戦略には批判も出ている。トレーラーはクリプトがスーパーマンの記事に放尿するシーンから始まり、物語の本筋についてほとんど手がかりを示さない構成になっていると指摘されている。ファンの間では、パーティーやロードトリップ、クリプトの存在感ばかりが前面に出て、なぜこの映画を観るべきなのかという核心的な売り文句が一度も提示されていないという声が上がっている。原作であるトム・キングの『Woman of Tomorrow』はヘビーな復讐譚だが、その重さはマーケティングにほとんど反映されていないという見方だ。
前作『スーパーマン』が「ジャンルの完成形」として明朗な勝利の物語をやり切った一方、『スーパーガール』の原作は復讐譚という結構ダークな話。そこに「パーティーガール」「クリプト推し」「Truth, Justice, Whateverという皮肉なタグライン」を全部乗せで打ち出そうとした結果、結局どのトーンで売るかが定まらなかった――というのが、今回のマーケティングが分裂気味に見える本質なのではないか。世界のためではなく”自分の犬と、自分が選んだ家族”のために戦うという個人的な動機がカーラの心の底にはある。
実際、170億円規模のテントポール作品でありながら、公開11日前の時点でDCファンの間でよく聞かれる反応が「これが公開されること自体知らなかった」という声だったという。クリプト人気に頼った可愛さ戦略は、認知獲得という意味では機能した一方、物語の説得力までは運べていなかった――というのが、公開直前まで一部で囁かれていた懸念だ。
それでも、この犬を見ると気持ちが和む理由
とはいえ、この戦略が「うまくいっていない」とまでは言い切れない。クリプトの見た目と動きのモデルになっているのは、ガン監督が保護した実在の犬”オズ”。オズはもともと60匹もの犬がいる多頭飼育崩壊現場から保護された犬で、家に来た直後は家具や靴、ノートPCまで破壊する”超問題犬”だったという。そんな一匹の保護犬が、CGの技術を経て、いまやハリウッド最大級のフランチャイズの看板を張っているというのは微笑ましい。
その経緯を知ると、ポスターの中を独占するクリプトの姿が、少し違う角度から見えてくる。マーケティング上の計算と、監督自身の犬への愛情が、たまたま同じ一枚のビジュアルの上に重なっている――そう捉えると、賛否はありつつも、このポスター自体は嫌いになれない一枚となるハズだ。
『スーパーガール』(2026年・アメリカ・1時間49分)
監督:クレイグ・ギレスピー
脚本:アナ・ノゲイラ
出演:ミリー・オールコック、イヴ・リドリー、ジェイソン・モモア、マティアス・スーナールツ、デイビッド・コレンスウェット
配給:東和ピクチャーズ・東宝
2026年6月26日(金)日米同時公開.
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