
元レスラー俳優ランキング3位、ジョン・シナの現在地──『リトル・ブラザー』で見えた”想像以上”の実力

「Big Brother-Little Brother」メンタリングプログラムがネタ元
『リトル・ブラザー』(Little Brother)は、6月26日にNetflixで配信が始まったマット・スパイサー監督によるコメディだ。主演はジョン・シナとエリック・アンドレ。タイトルから兄弟の物語かと思わせるが、実際の設定は子供時代に参加した「Big Brother-Little Brother」メンタリングプログラムに由来する関係で、血のつながりはない。きっちりと規則正しい生活を送る不動産業者ラッド(ジョン・シナ)の前に、かつてのプログラム仲間マーカス(エリック・アンドレ)が突如、現れ、その生活を粉々にしていく。
公開のタイミングで思い出したいのは、Hollywood Reporterが組んだ「元レスラー俳優ランキング」だ。デイヴ・バウティスタが1位、ドウェイン・ジョンソンが2位、そしてジョン・シナが3位。冗談のような企画に見えて、これが成立すること自体が、「リング出身のハリウッド・スター」がすでに一つの確立されたジャンルになったことの証でもある。今回はこのランキングをフックに、WWEを引退し演技に専念するフェーズに入ったシナの現在地を、『リトル・ブラザー』を軸に整理してみたい。
THR「元レスラー俳優」ランキングという発想
Hollywood Reporterのランキングで興味深いのは、3人の評価軸が単純な知名度や興行成績ではなく、それぞれ異なる「型」に対する評価になっている点だ。
- ドウェイン・ジョンソン=ブランド型。圧倒的な興行力を持つ一方、「誇張された自分自身」を演じ続けているという評がついて回る。A24製作の映画『スマッシング・マシーン』が、彼にとって”普通の人間”を演じられるかどうかの試験だったという指摘もある。
- デイヴ・バウティスタ=脱・筋肉キャラ型。映画スターになる気はなく、真摯な俳優として見られたいと公言し、他の元レスラーが流れ着きがちなキッチュなコメディ役を意図的に避けてきた。ドゥニ・ヴィルヌーヴ(『ブレードランナー2049』『デューン』)、ライアン・ジョンソン(『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』)、M・ナイト・シャマラン(『ノック・アット・ザ・キャビン』)という作家性の強い監督との仕事で評価を積み上げた。
- ジョン・シナ=漸進的深化型。最初はアクションスター志向の『ネバー・サレンダー 肉弾凶器』で鳴かず飛ばずだったが、2015年の『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』で全シーンを”奪う”演技を見せて評価が一変。以降『パパVS新しいパパ』『バンブルビー』『ブロッカーズ』『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』とヒットを重ね、『ザ・スーサイド・スクワッド』とその続編ドラマ『ピースメイカー』でコメディとドラマの両方をこなせることを証明した。
面白いのは、シナ自身がバウティスタを「元レスラー俳優カテゴリーのGOAT(Greatest Of All Time(史上最高)」と名指しで認めている点だ。本人がこの序列を自覚的に語っているという事実は、業界内でこのジャンルが一つの「キャリアパス」として実体化していることを物語っている。
WWE引退という分岐点
シナは2024年7月、WWE「マネー・イン・ザ・バンク」のサプライズ登場で、2025年末でのリング引退を発表。2025年12月、グンター相手の最終戦でタップアウトし、24年にわたるWWEキャリアに幕を引いた。これ以降、彼は完全に俳優業へ軸を移している。
復帰の可能性について本人は、「”絶対”という言葉は強すぎる」としながらも、誰かが法外な金額を提示しない限り戻る理由はないと明言している。レスラーとしての肩書きを脱ぎ、俳優としての自分一本に賭ける姿勢がここで明確になった。
直近のポートフォリオが示す広がり
引退後の動きを並べると、シナが単純な「アクション/コメディ俳優」という枠を超えようとしているのが見える。
- 『ヘッド・オブ・ステイト』:アメリカ大統領役。彼にとって現時点で最大の役どころとされる。
- 『コヨーテVSアクメ』:敵対する弁護士バディ・クレーン役。
- 『Matchbox: The Movie』:主演。
- ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』『プルリブス』:サプライズ的なカメオ出演。
- 『ピースメイカー』:DCUでのレギュラー出演を継続中。
ジャンルも役柄の大きさも横断的に動き続けている。これは「俺たちのシナ」を演じ続けるドウェイン・ジョンソン型のブランド戦略とは明確に異なる動き方で、むしろバウティスタの「役に応じて変化する」志向に近づきつつある——ただしバウティスタほど筋肉キャラを脱ぎ切ってはいない、というのがシナの現在の立ち位置だ。
『リトル・ブラザー』のラッド役は、この文脈で見るとわかりやすい。「統制を装う男が、コントロール不能な他者によって崩れていく」というのは、シナが『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』以降一貫して得意としてきた役柄パターンの最新形であり、大統領役(『ヘッド・オブ・ステイト』)で見せた「権威者が転がり落ちる」構図ともつながっている。
相手役のエリック・アンドレは、本作を「『おつむて・ん・て・ん・クリニック』と『パラサイト』の融合」だと語っている。両作とも「階級的な不安」を扱っている点が共通するという指摘で、血のつながらない他者が自分の築いた生活に侵入してくる恐怖という構図は、単なるオッドカップル・コメディに留まらない緊張を生んでいる。シナの「統制者が崩れる」演技の系譜に、この階級的な不穏さがどう作用するかは、本作の見どころの一つになりそうだ。
監督マット・スパイサーの前作『イングリッド、東へ行く』がSNS時代のアイデンティティ演出の病理を描いたのに対し、『リトル・ブラザー』は「統制という虚構」と「それを突き破る存在」という、二つの男性性の衝突を描く構造になっている点も、シナのキャラクター造形と地続きで読める。
THR「元レスラー俳優ランキング」でジョンソン、バウティスタに次ぐ3位という評価は、決して低い順位ではない。むしろ「コメディの名手でありながら、意外にもドラマでも存在感を発揮する」という評は、シナが今まさに伸び続けているフェーズにいることを示している。『リトル・ブラザー』は、その評価をさらに更新する一本になるかもしれない。
『リトル・ブラザー』(2026年・アメリカ・1時間42分)
監督:マット・スパイサー
脚本:ジャラッド・ポール、アンドリュー・モーゲル
製作:デヴィッド・バーナド、ルーベン・フライシャー
出演:ジョン・シナ、エリック・アンドレ、ミシェル・モナハン、クリストファー・メローニ、エゴ・ヌウォディム、
シェリー・コーラ、ケイレブ・ヒーロン、ベン・アラース
Netflixで配信中!
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