
『アドレッセンス』のフィリップ・バランティーニが、「ホームズだけど舞台はマルタ」という大胆な賭けに出た。シリーズ最もダークな第3章『エノーラ・ホームズの事件簿3』7月1日Netflix配信!
初代・2代目を監督したハリー・ブラッドビアが降板し、『ボイリング・ポイント』『アドレッセンス』のフィリップ・バランティーニが新たにメガホンを取った。脚本は前作に続きジャック・ソーン。
バランティーニの監督就任ピッチは「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人が3作目のハリポタをやったように、このシリーズを大人向けへと成熟させる」だった。Netflixはそれを承認した。
舞台は、霧のロンドンではなく、地中海の陽光が射すマルタ島——バレッタ、イムディーナ、メリーハ。ヴィクトリア朝のホームズ世界を「地中海の光の中」に持ち込む視覚的な賭けが本作の核心にある。
ミリー・ボビー・ブラウンとルイス・パートリッジの婚約劇と、ヘンリー・カヴィル演じるシャーロック兄の誘拐事件が錯綜する、シリーズ最大スケールのパーソナル・ミステリー。

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Story:
探偵事務所を構えたエノーラ・ホームズ(ミリー・ボビー・ブラウン)に、新たな事件の依頼が届く。行先はイギリス帝国の地中海植民地、マルタ島。太陽が焼ける石畳の都市ヴァレッタで彼女を待っているのは、これまでで最も複雑に絡み合ったケースだ。
そこへ、私生活の激震が重なる。テュークスベリー卿(ルイス・パートリッジ)からのプロポーズ。個人と仕事が同時に衝突するマルタで、エノーラは答えを出さなければならない。
さらに、兄シャーロック(ヘンリー・カヴィル)が誘拐されたという報せが届く。世界一有名な名探偵を、その妹が救いに行く。
「アドレッセンス」の後に「エノーラ」——バランティーニがフランチャイズ映画に踏み込んだ理由
フィリップ・バランティーニは2021年、ロンドンのレストランを舞台にした全編ワンカット映画『ボイリング・ポイント』で監督キャリアの突破口を開いた。シェフの一夜の崩壊を、編集なし・カット割りなしで90分間撮り切るという離れ業は、BIFAノミネート11部門、BAFTAノミネート4部門を獲得した。続く2025年、Netflixの4エピソード・シリーズ『アドレッセンス』では再びワンカット撮影を投入。13歳の少年による殺人事件を各話一発撮りで記録するという手法は世界的な現象となり、バランティーニにエミー賞(リミテッド・シリーズ部門 監督賞)をもたらした。
そのバランティーニに、Netflixが次に差し出したのが『エノーラ・ホームズ3』だった。
本人がDeadlineのインタビューで語ったピッチの核心はこうだ——「このシリーズに対して、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』がハリポタシリーズに行なったことをやりたい」。クリス・コロンバスが監督した1・2作目の明朗さから、アルフォンソ・キュアロンが3作目で踏み込んだ暗さと成熟へ。バランティーニの就任は、そのアナロジーそのままの構造転換を意味している。
個人的な動機も明かしている。「娘が観られるものを作りたかった」——インテンスなクライム・ドラマを連打してきたバランティーニにとって、本作は意識的な演出の振れ幅の拡張だ。ただし、完全にソフトに振れるつもりもない。Backstage誌のインタビューで彼は「ワンカット手法を常にやるつもりはない——疲れる」と笑いながら、「エノーラ・ホームズ3ではいくつかのシーンで小規模にその手法を使っている」と明かした。「すべてに機能するわけではないが、観客を緊張させることができる」と語る。
「ホームズだけどマルタ」——視覚的文法の書き換え
エノーラ・ホームズの世界は、1作目・2作目を通じてロンドンが基点だった。霧、産業革命の煤煙、石畳のバックストリート——ヴィクトリア朝イングランドの視覚言語が、シリーズの物語文法を構成していた。
3作目はその文法を地中海に持ち込む。
撮影はシェパートン・スタジオ(サリー州)でスタートし、その後チームはマルタへ移動。バレッタ、イムディーナ(「沈黙の都市」と呼ばれる城壁に囲まれた古都)、メリーハ、アッタルドの4ロケーションで約1ヶ月にわたるロケーション撮影を実施した。マルタ映画スタジオも使用されている。撮影監督は、『ボイリング・ポイント』でもバランティーニと組んだマシュー・ルイスが続投。
なぜマルタか。答えは石の色にある。バレッタは蜂蜜色の石灰岩でできた都市で、狭い路地と装飾的な木製バルコニーが続く。「ヴィクトリア朝の衣装を着せても、そこには地中海固有の光が宿り続ける」という視覚的な矛盾が、3作目が仕込んだ新しい緊張感だ。イムディーナは石畳の路地と閉じた城門が、エノーラの孤立感を高める舞台に転化しうる。
舞台をマルタにした物語的な根拠は、ヴィクトリア朝のイギリス帝国版図にある。マルタは1800年から1964年まで英国植民地であり、本作の時代設定と整合している。「イギリス帝国支配下のマルタ」という設定は、単なる観光的な舞台変更ではなく、帝国の末端で起きる事件という政治的な奥行きをもたらす。
脚本家ジャック・ソーンの連続性と「より成熟した物語」への意志
脚本家ジャック・ソーンは1・2作目から継続しており、本作のキャリアで重要な位置を占める。『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』のドラマ化や、ウェストエンド・ブロードウェイの『ハリー・ポッターと呪いの子』で知られるソーンは、バランティーニとは『アドレッセンス』でもコンビを組んだ。
バランティーニはDeadlineで、ソーンのアドレッセンス参加についてこう語っている——「ジャックはこういった書き方を一度もやったことがなかった。彼は素晴らしい演劇を書いてきたが、これではカーテンコールがない。カメラは常に誰かを追い続けている」。その経験が、マルタを舞台にした「プライベートと仕事が衝突することで起きる緊迫したミステリー」の語り口に注がれている。
数字が示すフランチャイズの資産価値
『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズの視聴実績は、第1作(2020年)は公開後28日間で1億8990万時間視聴を記録し、長期間Netflixの「歴代最多視聴映画」リストに留まった。第2作(2022年11月公開)は公開後4週間グローバルトップ10入りし、1億5803万時間視聴。2023年通年のアクティブ視聴換算では、第1作が約1390万人、第2作が約2100万人に相当する。
Under The Film:
本作では得意技の「ワンカット撮影」を小規模に導入
バランティーニのキャリアを定義してきたのは、ワンカット撮影という方法論だった。しかし本人は「ワンカットの人として知られたくない」と繰り返し述べている。Backstage誌には「毎回やるつもりはない。疲れ果てる」とも語っている。
だとすれば、本作でのバランティーニの演出的な関心はどこにあるのか。その答えのひとつは、「緊張の持続」にある。ワンカット撮影が持つ本質的な効果は、カット割りによるリセットを排除し、観客に出口を与えず観ることに集中させることだ。バランティーニがエノーラ3でワンカットを「小規模に」導入すると言ったとき、それは技術的なシグネチャーを散りばめるというよりも、特定のシーンで意図的に視聴者が画面に吸い寄せられる効果を狙っているといえる。
謎解きとワンカット的な「時間の非編集性」の組み合わせは、ミステリーの物語構造にとって緊張感を維持するカウンターバランスとして機能しうる。
「アズカバンの囚人」のようにアナロジーで勝負に出たバランティーニ版エノーラ・ホームズ
バランティーニのピッチをアルフォンソ・キュアロンが「アズカバンの囚人」でやった時のように変化球を加え、アナロジーとして読むとき、見えてくるのは一つのリスクだ。『アズカバンの囚人』は、ハリポタ原作ファンの一部から最初「原作からの逸脱」として批判された。あのビジュアル的な暗さと成熟度は、低年齢の既存ファン層を少し取りこぼしながら、結果的にはシリーズを長期的に延命させた。
エノーラ・ホームズ3が同じ賭けに出ていることは、ファンからのコメントにもにじんでいる——「前2作のトーンこそがミリーのキャラクターが愛される理由だった。ダークにするのはその反対方向だ」という声があった一方で、「ダーク化は正しい方向だ」という声も同じだけあった。
その賭けの結果が問われるのは、7月1日だ。
『エノーラ・ホームズの事件簿3』(2026年・イギリス、アメリカ・1時間45分)
原作:ナンシー・スプリンガー「エノーラ・ホームズの事件簿」シリーズ
監督:フィリップ・バランティーニ
脚本:ジャック・ソーン 撮影監督:マシュー・ルイス
出演:ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル、ルイス・パートリッジ、ヒメーシュ・パテル、
シャロン・ダンカン=ブルースター、ヘレナ・ボナム・カーター
Netflixにて2026年7月1日より配信!
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