
Netflixの「Local for Local」戦略を解剖する——なぜ毎月のラインアップは偶然に見えて偶然ではないのか
CINE GO ROUNDでは今後、月ごとのNetflixラインアップを定点観測していく。
毎月のラインナップを眺める時、「なぜ毎月、この国・この言語・このジャンルの配分になるのか」という素朴な疑問を抱くが、Netflix自身は明確な答えを持っている。
「ローカルで当てて、グローバルに輸出する」という戦略
Netflixがここ数年公式に掲げているのが、**Local for Local(その地域のために、その地域で作る)**という戦略だ。考え方自体はシンプルで、「まず現地の視聴者に刺さる作品を、現地の制作者で作る。当たれば自動的にグローバルへ輸出される」という順序になっている。『イカゲーム』シーズン3や『エテルナウタ』のようなタイトルは、地域に根差したストーリーテリングを優先しながらもグローバルな訴求力を保つ「ローカル・フォー・ローカル」戦略を体現している。
この戦略を支えているのが、年間180億ドル規模という制作投資の継続だ。Netflixが2025年にコンテンツ制作に投じた額は約180億ドルで、2024年の160億ドルから新記録を更新した。さらに2026年はおよそ200億ドルへの増額が既に発表されており、この投資規模は話題作を単発で狙う規模ではなく、複数地域で同時並行的に制作パイプラインを回し続けるための予算配分だと考えるべきだ。
数字が示す転換点:非英語タイトルがついに過半数に
2025年、Netflixの編成において一つの節目があった。非英語タイトルが、Netflixのオリジナルテレビシリーズ新作のうち初めて過半数を占めるようになった。業界アナリストはこれを次のように評している。
「52%という閾値を超えたことはNetflixにとって意味のある節目であり、非英語タイトルが初めてオリジナルTVリリースの多数派となったことは、グローバル戦略とローカル戦略がもはや周辺的なものではなく、プラットフォームの成長の中心にあることを示している」
ただし注意すべきは、本数の話と予算配分の話は別だという点だ。非英語タイトルが2025年のTV新シーズンリリースの多数派を占めた一方で、オリジナルコンテンツへの制作費そのものでは依然として英語制作が多数を占めている。つまりNetflixは「本数はローカルで量産し、予算の重心は英語圏の大型タイトルに残す」という二重構造を取っている。7月のラインアップで『72 Hours』のようなハリウッドスター主演コメディが一本だけ英語圏代表として置かれ、残りを各国のローカル制作が占めていた構図は、まさにこの二重構造の縮図だった。
言語別の勢力図:スペイン語と韓国語が二大エンジン
ではどの言語が量産の主役を担っているのか。直近のデータでは韓国語とスペイン語が突出している。
韓国の作品はNetflix上の非英語コンテンツ消費の8.71%を占め、スペイン語コンテンツが7.11%でそれに続く。韓国は2025年にさらに勢いを増し、韓国語オリジナルは非英語TV新作リリースの中で前年比最大の伸びを記録し、2024年の12%から2025年には20%まで上昇した。これは『イカゲーム』シーズン3や『おつかれさま』のような作品のヒットに加え、映画やドラマのような台本が存在しないバラエティやドキュメンタリーなどの複数の非脚本系シリーズの量産にも支えられている。
スペイン語は本数の上では依然トップを保っている。スペイン語は2025年も非英語オリジナルTV作品の中で最も多い言語で、新シーズンの21%を占めている。ただ内容の重心は変化していて、スペイン語作品のうち脚本付き作品の比率は2024年の63%から2025年には86%まで上昇し、ジャンル別ではコメディが2024年の6%(6位)から2025年には19%(2位)まで急伸した。犯罪・スリラーは依然首位を保っているという。今回観測した7月ラインアップの『デセオ:欲望』『Their Truth(原題: Su Majestad / 彼らの真実)』が、エロティック・スリラー/ファミリースリラーという「サスペンス寄りのドラマ」だったのも、この勢力図とそのまま符合する。
一方で日本語コンテンツは逆方向に動いている。日本語はオリジナル制作の比率では後退した一方、ライセンスアニメの視聴時間は過去最高を記録しており、「制作量」ではなく「視聴需要」の面では別の顔を見せている。Netflixの日本語戦略はオリジナル制作よりもライセンス取得(特にアニメ)に大きく依存している。日本語ライセンス作品のうち67%がアニメで、オリジナルの日本語アニメTVシリーズは2025年にわずか4本しか公開されなかった。
7月の偏りは明解な編成方針
ここまでのデータを踏まえると、CINE GO ROUNDで毎月観測しているNetflixのラインアップの「偏り」は、単月の偶然ではなく、以下の編成方針が反映された結果だと言える。
- 本数の量産はローカル制作(特にスペイン語・韓国語)が担う
- 予算の重心は依然として英語圏の大型タイトルに残る
- ドキュメンタリーは実話・実在の事件を「トゥルークライム・ドキュメンタリー」形式で量産する低コストの定番ジャンルとして機能する
- 日本語はオリジナル制作よりアニメのライセンス取得に依存する、独自のポジションを占めている
次回以降のCINE GO ROUND月例観測では、この柱を踏まえて「今月はどの言語・ジャンルが比重を増したか」「Local for Local戦略のどの側面が強調された月だったか」という視点を毎回添えていく。Netflixとはそもそも何を目指しているプラットフォームなのか——テレビとも映画館とも異なる、その体験の正体を、データと作品の両面から少しずつ解き明かしていきたい。
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