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オリヴィア・ワイルドをワイルドに論じる ── 『The Invite』が『ドント・ウォーリー・ダーリン』の「着地失敗」を繰り返した理由


©2026 A24 All Rights Reserved.

作品世界の大風呂敷と、その畳み方での失速

サンダンスで争奪戦を巻き起こし、A24が獲得した『The Invite』は、批評的にもロッテントマトで93%、Metacriticで80点という好成績で6月26日に封切られた。だが好意的なレビューの中に、一つだけ共通して引っかかる指摘がある。NPRのレビューは、物語がもっと大胆な結末の可能性をちらつかせておきながら、結局は感情的に安全な場所へと後退してしまうと評し、「もう少しワイルドな(Wilder)結末にできたはず」と評した。

この「風呂敷は広げるが、畳み方で失速する」という批評パターンには既視感がある。2022年の『ドント・ウォーリー・ダーリン』でも、まったく同じ言葉が浴びせられていたからだ。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』は公開前にゴシップネタで消費し尽くされてしまった

『ドント・ウォーリー・ダーリン』の脚本は、もともとディック・ヴァン・ダイクの孫にあたるヴァン・ダイク兄弟による未製作スペック脚本で、2019年のブラックリスト入りを果たした人気作だった。ワイルドが監督に決まった後、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)の脚本家ケイティ・シルバーマンに書き直しを依頼し、フランク(クリス・パイン)というカルト指導者的キャラクターを追加、女性キャラクターの主体性を強化する方向で大幅に改稿させた。

問題は、その改稿の過程で結末の説明力が失われたことだ。オリジナル版ではアリスが「現実世界への脱出ポータル」を発見し、2050年の実際の姿を目にした上で夫の裏切りを知るという、因果関係が明確な結末だった。だが映画版では、電気ショック療法で記憶が蘇るという展開のみが残り、ヴィクトリー・プロジェクトの正体についての説明が曖昧になったという指摘が複数のメディアから上がっている。つまりこれは「外部からの検閲的な圧力に苦しんで妥協した」結末ではなく、テーマ性(女性の主体性)を優先するために整合性を犠牲にした、自らの選択による改変だったという構図が見えてくる。

さらに撮影後の宣伝の時期では、シャイア・ラブーフの降板騒動やヴェネチアでのハリー・スタイルズを巡るゴシップ(“スピットゲート”など)が映画そのものより大きく報道され、作品の中身が議論される前に消費され尽くしてしまった。ワイルド自身、後年ヴァラエティ誌のインタビューで、38%という低いロッテントマトスコアで叩かれた経験を「早期の失敗」として肯定的に語り直しており、この着地の失敗を本人も意識的に総括している節がある。

『The Invite』は規模もジャンルも違う作品での反復

『The Invite』は『ドント・ウォーリー・ダーリン』とは対照的に、アパートの一室を舞台にした小規模な会話劇であり、21日間で時系列の通りに順撮りで撮影された室内劇で、文字通りアットホームな制作環境だった。脚本を手がけたのは、女優業の傍ら脚本家/監督としても活動するラシダ・ジョーンズと、ウィル・マコーマックのコンビで、二人は2012年の『セレステ∞ジェシー』以来のタッグとなる。つまり『ドント・ウォーリー・ダーリン』のようにワイルド自身が改稿を主導した作品とは異なり、今回は原案・脚本ともに他者の手によるものだ。にもかかわらず、NPRのレビューが指摘した「大胆な結末をちらつかせて安全に後退する」という構造は、大作SFスリラーだった前作とまったく同じパターンで反復されている。

これは重要な違いを示している。『ドント・ウォーリー・ダーリン』の着地の弱さは、当時「シャイア・ラブーフ降板」「ハリー・スタイルズ騒動」といった制作上の混乱のせいにされがちだった。しかし本作では外的な混乱がほぼ存在しない『The Invite』でも同じ批判が出たということは、これが環境要因ではなく、ワイルドの作家性そのものに根差した傾向である可能性を強く示唆する。

脚本家出身ではない、という補助線

ここで、フェネルとの比較がひとつの補助線になる。同じく2026年公開の最新作『嵐が丘』(2月13日全米公開)は、ロッテントマトで345件の批評家レビュー中57%、平均点10点満点中6.0、Metacriticで59人の批評家に基づき55点という「賛否両論」の評価だった。The Atlanticのデイヴィッド・スリムが「情熱的で猥雑な、ドタバタするほど官能的な代物」と評した一方、The Guardianのピーター・ブラッドショウは「感情的に空虚な、コルセットを引き裂くだけの失敗作」と酷評しており、評価の振れ幅そのものが大きい。フェネルもまた、直近作では批評的に苦戦している。

ただし決定的に違うのは、その割れ方の質だ。フェネルは『プロミシング・ヤング・ウーマン』でアカデミー脚本賞を獲得した脚本家出身の監督であり、彼女の作品が賛否両論になるのは演出上の「確信犯的な過剰さ」への評価の違いであって、「物語を制御しきれなかった」という評され方はほとんどされない。対してワイルドは女優出身で、脚本クレジットを持たずに監督デビューしている。彼女の着地の弱さが繰り返し指摘されるのは、過剰さへの賛否ではなく、単純に物語を最後まで制御しきれなかったという評され方をしているからだ。

もう一人、参照点になりうるのがグレタ・ガーウィグだ。ワイルドと同じく、ガーウィグもノア・バームバック作品(『フランシス・ハ』『ミストレス・アメリカ』)の主演女優として出発し、後に監督へと転身したキャリアパスを持つ。つまり「女優から監督へ」という出発点そのものは、ワイルドとほぼ同じだ。

しかし決定的に違うのは、ガーウィグが監督デビュー作『レディ・バード』から自ら単独で脚本を手がけ、アカデミー賞で作品・監督・脚本の3部門にノミネートされていること、そして『バービー』(2023)を女性監督作として全米興行成績歴代最高クラスにまで押し上げたことだ。同じ「女優から監督へ」という配置転換でも、脚本という自分の言葉で物語を最後まで制御する回路を持っていたかどうかで、これほど跳ね方が変わる。ガーウィグの存在は、ワイルドの着地の弱さが「女優から監督への転身」そのものの問題ではなく、あくまで「脚本を自分の手で握っていない」という一点に起因している可能性を、もう一つの角度から補強していると言える。

出自(脚本家か、女優か)の違い、そして「脚本の主導権を自分の手に持っているか」という一点が、そのまま「過剰さで割れる作家」「跳ね続ける監督」「着地で失速する監督」という評され方の違いに直結しているように見える。

官能と逸脱を引き受けてきたキャリア──女優オリヴィアワイルド

面白いのは、演じる側のワイルドの系譜だ。ブレイクとなった『The O.C.』のアレックス・ケリーはバイセクシュアルのバー経営者という当時のテレビでは異例のキャラクターであり、続く『Dr. House』のサーティーン(レミー・ハドリー)役もまた、ハンチントン病を抱えたバイセクシュアルの内科医という、複雑なキャラクターだった。この系譜は一貫して「規範から逸脱する女性の性」を演じ続けてきたことを示している。

そして今、まさに『The Invite』と同時期のサンダンスで彼女が出演していたのが、グレッグ・アラキ監督の新作『I Want Your Sex』だ。そこでワイルドが演じるのは、冷淡で支配的な、レザージャンプスーツ姿の色情狂。同じ2026年、他人が監督する作品では奔放で危険な性を体現する一方、自分自身が監督・主演する『The Invite』では、性的な自信を失いかけた不安症の既婚女性アンジェラを演じている。

演者としてのワイルドは、他者の演出の下でなら危険な扉の先まで踏み込める。しかし監督としての彼女は、自らが設計した物語の扉を、最後の一歩手前で閉じてしまう。

跳ねない人、という生き方

フェネルとガーウィグとの対比を持ち出すと、その違いがより鮮明になる。『プロミシング・ヤング・ウーマン』でオスカー脚本賞を獲り、『Saltburn』ではラストのバスタブのシーンだけで数週間SNSを支配したフェネルは、当たれば文化的事件になり、最新作『嵐が丘』のように批評が割れても、それすら会話を生む。ガーウィグに至っては、ほぼ全打席でヒットを収めている。両者に共通するのは、物語の言葉そのものを自分の手で握っているという一点だ。

一方でワイルドの3作は、当たっても外れても、良くも悪くも「事件」にならない。批評家からは手堅く評価されるが、賛否両論の嵐もバズる瞬間も生まれない。これは技術の差というより、そもそも脚本という最終的な制御レバーを自分の手に持っていないことの必然的な結果なのかもしれない。

そう考えると、女優としてのキャリアの選び方(サーティーンのような尖った役を演じつつも、最終的には「使い勝手のいい、美貌と実力を持つ女優」という手堅いポジションに落ち着いた)と、監督としてのキャリアの選び方(大胆な設定を他者の脚本や共同脚本に委ね、最後は手堅い着地を選ぶ)には、驚くほど一貫性がある。それは「作家性の欠如」という否定的な言葉で語るよりも、脚本という最も難しい部分を自分では引き受けてこなかった人という、もっとニュートラルな事実として捉えた方が公平かもしれない。

映画作家(オートゥール)としての跳躍を求められる場に、脚本の主導権を持たないまま「監督になってみたかった女優」が居合わせてしまった ―― それは彼女の失敗ではなく、単に彼女が本来向いていた場所と、今いる場所がズレているだけなのだと思う。次回作が大作スタジオコメディだと聞くと、その手堅さはむしろ活きるジャンルに戻っていくようにも見える。


The Invite
監督:オリヴィア・ワイルド
脚本:ウィル・マコーマック、ラシダ・ジョーンズ
出演:オリヴィア・ワイルド、セス・ローゲン、エドワード・ノートン、ペネロペ・クルス
全米公開:2026年6月26日(配給:A24)
日本公開:未定
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