
ロバート・パティンソン、『Primetime(原題)』で伝説のおとり捜査番組ホストの顔に――モデルとなったハンセンは試写から締め出され対立中
A24が贈る新作『Primetime(原題)』が、ロバート・パティンソン主演・製作で全米9月25日に劇場公開される。日本公開日は現時点で2027年。9月2日から開幕する第83回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門にも選出されており、金獅子賞候補の一角として名前が挙がっている。

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舞台は2006年。パティンソンが演じるのは、NBC「Dateline」の看板コーナー「To Catch a Predator(おとり捜査で捕まえろ)」のホストを務めた実在の人物、クリス・ハンセンだ。同番組は、インターネット上で未成年者を装ったおとりと接触した成人男性が、待ち構えるハンセンにその場でカメラの前で対峙され、逮捕されるまでを追うという構成で、2004年から放送開始と同時に全米的な社会現象となった。
本作はこのハンセンが、視聴率獲得競争のなかで番組を「テレビ史に残るもの」へと押し上げようとする過程――そしてその過程で彼自身が踏み込んでいくモラルの灰色地帯――を描く心理スリラーである。
日本の映画ファンにはやや馴染みが薄い題材かもしれないが、「To Catch a Predator」は放送当時、視聴率的には大成功を収めた一方、その手法をめぐって一貫して論争の的だった番組でもある。とりわけ2006年、テキサス州ロックウォール郡の地方検事補ビル・コンラットが、同番組の捜査に関連して警察が家宅捜索に踏み込んだ際に自ら命を絶ったことは、番組史における最大の転換点として記憶されている。本作が題材とする「2006年」という年は、まさにこの出来事が起きた年と重なっており、原作となったジャーナリスト、ルーク・ディトリッチによる2007年のEsquire誌の記事「Tonight on Dateline This Man Will Die」も、この一件を軸に番組の終焉を検証したノンフィクションだ。脚本を手がけたアジョン・シンは、Varietyが選ぶ「注目の脚本家10人」(2025年)にも名を連ねた書き手である。
Behind The Inside:
監督はドキュメンタリー出身、初の劇映画
メガホンを取るランス・オッペンハイムは、これが長編劇映画としては初監督作となる。これまでは「Some Kind of Heaven」やHBO「Ren Faire」といったドキュメンタリー作品で高い評価を得てきた人物で、実在の人物・事件を題材にした劇映画への転身という点でも注目される起用だ。
「テレビの野心にまつわるコメディ」と「実話の悲劇」――トレーラーの二面性
公開されている予告編は、興味深いことに一枚岩のトーンでは編集されていない。元NBCユニバーサル会長ジェフ・ザッカーが本人役で出演し、ハンセンに「(番組を)動かす」と告げる場面や、パティンソン演じるハンセンが廊下で拳を突き上げながら「『LOST』より大きくなってやる」と叫ぶ場面など、テレビ業界人の野心を戯画的に見せるシーンが目立つ。その一方で作品が下敷きにしているのは、実際に人が亡くなった重い事件である。この温度差こそが、予告編だけでは本作の「本当のジャンル」を掴みにくくしている要因だろう。A24は本作を「実話に着想を得た(inspired by true events)」作品と位置づけており、ハンセン個人の伝記映画としては扱っていない、としている。
直近の動き――ハンセン本人、試写をNDA拒否で締め出される
公開を控えたタイミングで、パティンソンが演じた実在の人物、クリス・ハンセン本人をめぐる一悶着も報じられている。ハンセンは、A24のオフィスで行われた本作の非公開試写に訪れたものの、通常配布されるネタバレ防止用のNDA(秘密保持契約)への署名を拒否したため、鑑賞できなかったと明かした。ハンセン自身は本作への金銭的な関与や制作協力は一切なく、「自分は洗練されたハリウッドのやり方には詳しくないが、探り当てることには慣れている」といった自らの職業さながらの趣旨のコメントを残している。
Fox Newsの番組に出演した際、ハンセンはこの一件についてさらに踏み込んだ説明をしている。A24側の弁護士が求めてきたのは通常の試写NDAではなく、氏名・肖像・ブランドに関する権利、さらには映画から生じうる将来的な法的権利までも放棄させる内容だったという。ハンセンによれば、この種の契約はプレスや第三者のマーケティング業者を含め、他の試写参加者には求められていないものだという。法律顧問不在の場での署名を拒んだとする本人の主張が事実であれば、単なる「ネタバレ防止」の域を超えた要求だったことになる。
当事者本人が内容を知らないまま、しかも配給側との緊張関係を抱えたまま公開を迎えるという構図自体が、本作をめぐる「実話とフィクションの距離感」を象徴する出来事とも言える。
Under The Film:
舞台裏――「土壇場」だったヴェニス・ラインナップ入り
もうひとつ、映画祭の舞台裏に関わる興味深い証言がある。ヴェネチア芸術監督アルベルト・バルベラは、本作のラインナップ入りが土壇場での決定だったことをVarietyに明かしている。パティンソン本人の出席が確定するかどうかに不確実性があり、彼抜きでは大作としての宣伝が難しくなるため、実質的に今年のラインナップの中でも最後に確定した作品の一本だったという。
つまり本作のヴェネチア入りは、作品の完成度そのものよりも「主演スターが現地に来られるかどうか」という、極めて興行的な判断に左右された側面が強い。金獅子賞コンペという看板の裏側で、こうしたスケジュール調整が土壇場まで作品の去就を決めているという事実は、映画祭というものの選定プロセスの生々しさを物語っている。
ここで誤解のないよう付け加えておくと、出品の可否を決める芸術監督と、コッパ・ヴォルピ(主演男優賞)をはじめとする各賞を決める審査員団は、別の独立した機関である。したがって「出品と引き換えに賞を約束する」といった直接的な取引は制度上考えにくい。ただし、パティンソンの出席という条件が、結果的に作品の可視性を上げ、賞レースでの存在感にもつながりやすい構造があることは指摘できるだろう。レッドカーペットや記者会見でスターが話題を集めれば、それだけ作品自体の現地での注目度も上がり、間接的に審査員の目にも触れやすくなる、というのは十分にあり得る力学だ。
今年のヴェニスは、かなり重量級のベテラン監督が集まっている。審査員長のマギー・ギレンホールがどちらの路線を評価するタイプかにもよるが、初監督作が頭一つ抜けるのはそう簡単ではないように思える。
本作でのパティンソンの怪演によっては、ホアキン・フェニックスが『ジョーカー』でヴェネチアの男優賞を獲った時が再現されるかもしれない。トッド・フィリップスの作家的評価がまだ定まっていなかった時という意味では本作と近い立ち位置だ。
『ライトハウス』『THE BATMAN-ザ・バットマン-』と、実在の型を大きく逸脱した役作りで評価されてきたロバート・パティンソンが実在の人物(クリス・ハンセン)を演じるという今回の題材は、審査員にとって「わかりやすい採点対象」になりやすいはずである。
来週、第83回目を迎えるヴェネチア国際映画祭に大いに期待したい。
『プライムタイム/原題:Primetime』(2026年・アメリカ・1時間50分)
監督:ランス・オッペンハイム
脚本:アジョン・シン
製作:ロバート・パティンソン、ラース・クヌッセン、ブライトン・マクロスキー、タイラー・キャンペローン、フレッド・バーガー、ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ、アリ・アスター 他
出演:ロバート・パティンソン、メリット・ウェヴァー、スカイラー・ギソンド、フィービー・ブリジャース、マシュー・マーハー、ボーキーム・ウッドバイン
全米公開:9月25日(日本公開:2027年)
第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品(9月2日〜12日)
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