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ワイルド・ホース・ナイン、マーティン・マクドナー、ジョン・マルコビッチ、サム・ロックウェル

マクドナー、モアイ像の島へ——『ワイルド・ホース・ナイン』が問う「バディ映画」の次の形

マーティン・マクドナー最新作『ワイルド・ホース・ナイン』が、9月3日(現地時間)、第83回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門で世界初上映される。1973年のチリ・クーデター直前を舞台に、サンティアゴからイースター島へ派遣された2人のCIAオフィサー、クリス(ジョン・マルコヴィッチ)とリー(サム・ロックウェル)を描く。上司MJ役にスティーブ・ブシェミ、クリスの兄弟役にトム・ウェイツ、リーの妻マージ役にパーカー・ポージーが名を連ねる。

配給はサーチライト・ピクチャーズで、北米・イギリスでの劇場公開は11月6日。撮影監督は『スリー・ビルボード』『イニシェリン島の精霊』に続投のベン・デイヴィス、編集はオスカー受賞者ミッケル・E・G・ニールセン、音楽はカーター・バーウェルと、マクドナー組の主要スタッフが揃う座組だ。


©︎ 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

Story&Subject:

1973年、チリ・クーデター直前。サンティアゴに駐在する2人のCIAオフィサー、クリス(ジョン・マルコヴィッチ)とリー(サム・ロックウェル)は、上司MJ(スティーブ・ブシェミ)の命令により、モアイ像で知られる絶海の孤島・イースター島へと派遣される。表向きは観光客を装いながら、実際にはクーデターの下準備を進めるのが2人の任務だ。

長年のパートナーである2人だが、島での任務は当初の想定通りには進まない。クリスは島で出会った2人の反骨的な学生(マリアナ・ディ・ジローラモ、アイリン・サラス)と親交を深めていくうちに、冗談交じりに自分たちの正体を漏らしてしまう。この失態がきっかけとなり、任務は思わぬ方向へ転がり始める。

予告編には銃撃戦や、道路を疾走する馬の群れといった激しい場面が映し出されるが、その”相手”が誰なのかは予告編だけでは判然としない。米メディアHollywood Reporterのトレイラー解説記事は、これを上司MJが率いるCIA組織自体からの報復による混乱として説明している。つまり本作で描かれるのは、外部の敵との対決というより、任務の失態に対して組織の内側から制裁が下るという構図である可能性が高い——観光客を装ったスパイ映画が、いつの間にか身内同士の抗争劇に転じていく、という読み方ができそうだ。

その傍証となりそうな手がかりも2つある。ひとつは予告編中でMJがリーに対して発する「クリスをこの島から出すな」という台詞。もうひとつはキャスト表に見える「正体不明のCIA工作員」という役名で、リアム・マーシーがクレジットされている点だ。この人物がどう物語に絡むのかは明かされていないが、役名からしてミステリアスな配役であることは間違いない。

クリスの兄弟役をトム・ウェイツ、リーの妻マージ役をパーカー・ポージーが演じる。


Behind The Inside:

「絶海の孤島」に立ち返った理由

一見すると、マクドナーがまた”孤島”に戻ってきたように映るかもしれない。だが構造をよく見ると、これは単なる回帰ではなく、前作『イニシェリン島の精霊』(2022年)の設定を裏返した実験に近い。

『イニシェリン』は、アイルランド内戦という歴史的動乱を”外側”に置きながら、絶海の島という静かな場所で長年の友情が理由もなく崩壊していく物語だった。国家の暴力からは隔絶された場所で、人間関係だけが壊れていく——という構図である。

一方『ワイルド・ホース・ナイン』は、その構図をほぼ反転させる。舞台となるイースター島は、クーデターという歴史の”震源地”に隣接する場所であり、しかも主人公たちはCIAオフィサーという国家権力の内側の人間だ。傍観者ではなく当事者として、歴史的動乱のすぐそばに立たされる。孤島という装置は同じでも、そこに置かれる人間と歴史の距離感がまったく異なっている。

メンターと相棒——マクドナー版バディ映画の系譜

もうひとつ注目したいのが、マクドナー作品におけるバディ(相棒)映画としての系譜だ。

長編デビュー作『イン・ブルージュ』は、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソン演じる殺し屋コンビが異国の街で結束を深める、対等なバディ映画の王道形だった。それに対し『イニシェリン島の精霊』は、長年の友情がある日突然、一方的に断ち切られる——いわばバディ映画の”解体”を描いた作品だったといえる。

そして『ワイルド・ホース・ナイン』では、マルコヴィッチ演じるクリスが「年長のCIAオフィサーでリーのメンター」、ロックウェル演じるリーが「その弟子」という、対等な相棒でも崩壊した友情でもない、上下関係を伴う師弟型のバディが描かれる。さらにブシェミ演じるMJという”上司”の存在が加わることで、リーが命令への忠誠とクリスへの信頼の間で板挟みになる構図も示唆されている。

結成(『イン・ブルージュ』)→解体(『イニシェリン』)ときて、今回は継承・世代交代というバディの第三の形。マクドナーが同じ装置(孤島+相棒)を使いながら、そのつど異なる人間関係の実験をキャリアを通じて重ねてきた、と捉えると見え方が変わってくる。

ヴェネチアでの実績——脚本・俳優は常勝チャンピオン

マクドナーの前2作は、いずれもヴェネチアで好成績を残している。『スリー・ビルボード』(2017年)は脚本賞を獲得し、『イニシェリン島の精霊』(2022年)ではコリン・ファレルが男優賞(ヴォルピ・カップ)、マクドナー自身が脚本賞を受賞した。上映後には13分間のスタンディングオベーションも記録している。

つまりマクドナーは、脚本・俳優部門ではヴェネチアの”常連チャンピオン”だが、最高賞である金獅子賞、および監督賞にはまだ手が届いていない。『ワイルド・ホース・ナイン』がその空白を埋められるかが、今回のひとつの見どころになる。


『ワイルド・ホース・ナイン』予告<2027年公開>

『ワイルド・ホース・ナイン』(原題:Wild Horse Nine) ■監督: マーティン・マクドナー ■出演: ジョン・マルコビッチ、サム・ロックウェル、スティーヴ・ブシェミ、トム・ウェイツ、パーカー・ポージー ■北米公開: 2026年11月6日 ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.  ■作品公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/wildhorsenine ■公式サイト:https://searchlightpictures.jp ■公式Facebook:https://www.facebook.com/SearchlightJPN/ ■公式X:https://twitter.com/SearchlightJPN ■公式Instagram:https://www.instagram.com/SearchlightJPN/


Under The Film:

キャスティングの紆余曲折

本作は座組が固まるまでに時間がかかった作品でもある。企画自体は2021年、クリストファー・ウォーケンとオスカー・アイザックの出演で構想されていたが、スケジュールの都合で降板。2025年2月にサム・ロックウェル、ジョン・マルコヴィッチ、マーク・ラファロ、パーカー・ポージーという座組が発表されたものの、同年3月にはラファロも降板し、スティーブ・ブシェミが代役として合流している。降板理由はいずれの報道もスケジュールの都合としており、それ以上の詳細は明らかになっていない。

撮影は2025年3月にイースター島(ラパ・ヌイ)で始まり、その後チリ・コンチャリのラユエラクラブ、サンティアゴの国際空港や市街地でも行われ、同年4月28日にクランクアップした。歴史的事件の現場に近い実在の場所でロケが行われている点も、フィクションと史実の距離を考えるうえで興味深い。

金獅子という長年の空白を埋められるか

『ワイルド・ホース・ナイン』は、単なる新作としてだけでなく、マクドナーがキャリアを通じて繰り返してきた「孤島×バディ」という装置の最新形として読むことができる。ヴェネチアでの初上映後の反応、そして金獅子賞という長年の空白を埋められるかどうかにも注目したい。


『ワイルド・ホース・ナイン』(2026年・イギリス・アメリカ・チリ・1時間58分)
監督・脚本:マーティン・マクドナー
出演:ジョン・マルコビッチ、サム・ロックウェル、スティーブ・ブシェーミ、マリアーナ・ディ・ジローラモ、アイリン・サラス、トム・ウェイツ、パーカー・ポージー
配給:ディズニー
公開日:2027年
第83回ヴェネチア国際映画祭・コンペティション部門
©︎ 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.


Reels:

ヒットマンズ・レクイエム

ボスの命令でベルギーのブルージュを訪れた若手の殺し屋が、味方に命を狙われ始めたことから巻き起こる攻防の行方をユーモアを織り交ぜ描いたクライム・アクション。


イニシェリン島の精霊 (特典映像付き)

脚本家で監督のマーティン・マクドナー(スリー・ビルボード)が贈る、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンが主演のユニークな映画が完成した。 パードリック(ファレル)とコルム(グリーソン)は長年の友人だったが、一方が関係を断つことで突然仲違いし、思わぬ事態に陥ってしまう。


スリー・ビルボード (字幕版)

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Reload:

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AI利用に関する開示:本記事は取材・構成の一部でAIツールを活用しています。情報の選択・検証・編集判断は編集部が行っており、データジャーナリズムの透明性の観点からこれを明記しています。


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