
『Burgundy』——トリュフからガウチョ、そしてワインへ。ドウェック&カーショウが辿る「土地の技法」三部作
Story:
舞台はフランス・ブルゴーニュ地方。大地と結びついたひとつの共同体が、世代を超えて受け継いできた最大の遺産——それは、生きる愉しみをかたちにする技法である。マイケル・ドウェックとグレゴリー・カーショウが、ぶどう畑とワイン造りの現場に分け入り、その土地に根づく儀式と人間模様を追う。
Behind The Inside:
三部作としての視点
ドウェック&カーショウ組の名を一躍知らしめたのは、イタリア・アルバの白トリュフ猟師たちを追った『白いトリュフの宿る森』(原題:The Truffle Hunters、2020年)だった。老いた男たちと彼らの犬が、代々受け継いできた技と土地への忠誠だけを頼りに、市場価値も評判も度外視して森に分け入る姿を丹念に描き、Sundance出品から批評的成功を収めた一本だ。
続く『Gaucho Gaucho』(2024年)では舞台をアルゼンチン北西部の乾いた牧畜地帯に移し、モノクロ映像でガウチョたちの生活を捉えた。ここでも中心にあるのは、市場経済の論理とは別の時間軸で生きる者たちへの眼差しである。
そして本作『Burgundy』は、舞台をブルゴーニュのワイン産地へ。トリュフ猟師、ガウチョ、そしてワイン造りの担い手——三作に共通するのは、いずれも「土地に縛られた共同体」が主人公である点だ。彼らは市場やスピードの論理の外側で、代々受け継がれてきた技法そのものを愉しみ、誇りとして生きている。ドウェック&カーショウが一貫して見つめてきたのは、効率化やグローバル化が呑み込みきれない、土地固有の身体的知恵の在り処なのかもしれない。
本作もまた、前二作同様に会話やインタビューを最小限に抑え、映像そのもので土地の質感とリズムを伝える演出になる可能性が高い。ドウェックが写真家出身であることを踏まえると、ブルゴーニュの光と季節の移ろいを捉えた画作りにも注目したい。
見どころ
- 「愉しみの技法」というテーマ:トリュフ狩り、牧畜に続き、今回は「ワインを愉しむ」という、より直接的に快楽と結びついた営みが題材になる。三部作を貫くテーマの到達点として観る価値がある。
- Venice Openという枠組み:コンペ外ではあるが、Venice Openはノンフィクション部門の質の高い作品が集まる区分であり、同時期には Musk(Alex Gibney)、Imperium(Sergei Loznitsa)など話題作が並ぶ。
- ドウェック&カーショウ組の作家的一貫性:三作を通して観ることで、彼らが一貫して「土地に根ざした共同体の尊厳」を撮り続けていることが見えてくる。
『Gaucho Gaucho』は日本公開に至らなかった。『Burgundy』がその後を辿るかは分からないが、ワインという題材の親しみやすさや『白いトリュフの宿る森』の実績を思うと、日本の配給会社が食指を動かす条件は十分に揃っている。劇場で観られる可能性もゼロではない気がする。
『Burgundy(原題)』(2026年・フランス・1時間30分)
監督:マイケル・ドウェック、グレゴリー・カーショウ
Venice Open(Out of Competition・ノンフィクション部門)
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