
雪の夜に届いた話——ケイシー・アフレックの孤独な映画『Company』
1975年の冬の夜、ひとりの女性が招かれざる客として現れ、話しはじめる。彼女が語るのは、孤独な老人が吹雪のコロラドで女優を救った話だ。その女優もまた、別の話を語る——辺境の農場に流れ着いた謎の男をめぐる物語を。入れ子になった時制は、それぞれの傷と赦しを折り重ねながら、映画の最後の瞬間にようやく一点へと収束する。
ケイシー・アフレックの監督第三作『Company』が、第83回ヴェネチア国際映画祭のコンペティションに正式出品された。上映は9月8日。
ジャンルの外側で動く映画
アフレックは本作について、こう語っている。「これまで読んできたどんなものとも違う。どんなジャンルにも収まらないし、普通の映画のルールに従わない。三幕構造すら持たない。ただ、本当に予測不能なやり方で進んでいく。それが好きだ」。
ヴェネチア映画祭が公式に掲げたキャプションは「悲しみ、恩寵、そして人間的なつながりの静かな力についての瞑想」。ゴシック・ミステリーという外皮をまとってはいるが、核にあるのは喪失と再生の物語だという印象は、前作からの一貫性でもある。
前作『ライト・オブ・マイ・ライフ』(2019年)をベルリン映画祭で発表したとき、アフレックはこう述べていた。「カメラは決して意図的にセッティングされているように見せたくなかった。人物が動くままに任せ、カメラはただそこに置き忘れられたように存在している。観察しているような感覚を大切にした」。
その美学は本作でも継承されているはずだ。ニック・ノルティ、ベン・メンデルソーン、アデレイド・クレメンス、スクート・マクネイリーという俳優陣は——ハリウッド的な意味での「スター」ではなく——皆、ある種の存在感の重さで映画を引き受けるタイプの人々だ。アフレックが最も信頼する俳優の文法である。そしてもう一点。本作には、監督の実の息子アッティクス・アフレックが出演している。家族を現場に呼び込むという選択もまた、彼にとっては美学の問題であり、必要の問題でもある。極めてローバジェット、少人数のクルー、ロケーションはカナダ・ウィスラー。『ライト・オブ・マイ・ライフ』とまったく同じ作り方だ。
北米には届かなかった映画
ヴェネチアのコンペに入りながら、TIFF・テルライド・ニューヨーク映画祭のいずれからも声がかからなかった。北米での配給も現時点では未決定。対照的に、ヴェネチアの直後にはドーヴィル・アメリカン映画祭のコンペに招待され、チューリッヒ映画祭への参加も決まっている。ヨーロッパは扉を開いた。
あるヨーロッパのフェスティバル関係者はこう語っている。「強い映画だが、選ばれなかった理由は明らかだ」。
明言はされていない。ただ、「明らかな理由」として業界内で広く共有されているのが、2010年に和解した性的ハラスメント訴訟の影——いわゆる#MeToo以降にアフレックの名前に貼り付いたままになっている問題だ。本人はオスカー受賞後の取材でこう述べている。「あらゆる形の人への不当な扱いは許容されないし忌むべきことだと信じている。すべての人は、職場でも、どこでも、敬意をもって扱われるべきだ」。それ以上の言葉は、彼からは出ていない。
問いとして残るのは、この映画が、本来、誰に届くはずだったのか、ということだ。
響くはずの観客
ケネス・ロナーガン、デヴィッド・ロウリー、ガス・ヴァン・サントのもとで俳優として鍛えられたアフレックが、監督として追っているのは一貫して同じ主題だ——親子の時間、喪失と孤独、人間が人間であることの静かな重さ。
その映画は、時代の騒音から少し離れた場所で生きている観客に向けて作られている。「映画はこういうものだ」という合意から外れた語り口を愛し、ジャンルの約束事よりも質感と余白を信じる人たち。日本のミニシアター系の観客は、そのど真ん中にいる。
アメリカでこの映画が封切られたなら、スラント・マガジンやA.V.クラブの読者層、そしてA24やNEONが育ててきた観客が自然と集まったはずだ。その回路が、今は繋がっていない。
ヴェネチアのコンペは9月12日に閉幕する。金獅子賞を競う相手は、マーティン・マクドナー、イ・チャンドン、ダニー・ボイル——それぞれに実力者たちの布陣だ。受賞の見込みは厳しいとしても、映画がここで上映されるという事実は変わらない。北米が扉を閉じたままでも、誰かがこの映画を観て、持ち帰る。
そういう映画が、ヴェネチアには毎年ある。
『Company(原題)』(2026・アメリカ・カナダ・1時間32分)
監督:・脚本:ケイシー・アフレック
出演:ニック・ノルティ、ベン・メンデルソーン、アデレイド・クレメンス、スクート・マクネイリー、エミリー・アリン・リンド、
アッティクス・アフレック
第83回ヴェネチア国際映画祭・コンペティション部門
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