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NAZA、3つの革新性、構造を読み解く作品解説

『NAZA』とは何か――金獅子賞候補の「革命性」を3つの軸で読み解く

プレミア、記録更新の25分間

9月10日、17時15分、ヴェネチアでワールドプレミアを迎えた『NAZA』は、上映後およそ25分間にわたるスタンディング・オベーションを受けたと報じられている。これは前年の『ヒンド・ラジャブの声』が記録した23分を上回り、ヴェネチアにおける最長記録を更新したとされる。批評側の反応も強く、業界誌Screenは「切迫感のある、胃を殴られるような一作」と評し、The Hollywood Reporterは、怒りと嫌悪を覚えずにはいられない作品だと評したという。ヴェネチア閉幕(9/12)を待たずして、本作はすでに金獅子の最有力候補の一角として扱われている。

本稿では、以前の記事で挙げた「3つの革命性」――内容、映像形式、座組み・流通――を軸に、この作品がどういった構造を持つ作品なのかを解説する。

① 内容の革命性――「システム」そのものを証言させる

タイトルのNAZAとは、イスラエル軍や情報機関の内部で、攻撃・空爆の標的を決定する際にあらかじめ算出される「巻き添え(付随的)被害として想定・許容される民間人の死亡予測数」を指す言葉である。つまり巻き添えでターゲット以外の関係のない者まで殺傷することも厭わないという戦慄すべき軍事略語だ。

『NAZA』の骨格は、匿名を条件に応じた24人のイスラエル軍・情報機関関係者への証言取材だ。監督のユヴァル・アブラハムはAFPの取材に対し、ガザでの殺害システムがどのように機能していたかをできる限り詳細に聞き出すことが目的だったと語っている。証言者たちが繰り返し語るのは、人工知能意思決定支援システム(AI-DSS)「ラベンダー」と呼ばれるAIによる標的選定システムの存在であり、ある証言者はその作業を「工場」のようだったと表現したという。別の報道では、爆撃計画がまるでビデオゲームのように処理され、標的が瓦礫の山に変わる様を”楽しい”とすら感じてしまう感覚麻痺についても言及されている。

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(2024年)が西岸地区での強制排除という「今まさに起きている出来事」への密着だったのに対し、『NAZA』が可視化するのは、個々の暴力の背後にある意思決定の”仕組み”そのものだ。証言者自身がホロコースト当時の加害心理と自らの状況を重ね合わせて語る場面もあるとされ、批評側からはクロード・ランズマンによるナチス・ドイツのユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を扱った9時間半のドキュメンタリー映画『SHOAH ショア』(1985年)が築いた証言主義的ドキュメンタリーの系譜に位置づけつつ、それを更新する仕事だという評価も出ている。

② 映像形式の革命性――屋上・夜間・匿名化された顔と声

証言はすべて、テルアビブの屋上で夜間に撮影されている。証言者の顔と声はデジタル処理によって加工されており、静かな夜のテルアビブの街並みを背景に、匿名化された人物が淡々と証言を続けるという画作りが一貫している。

この手法は単なる情報源保護の必要性にとどまらず、ラベンダーのような「上空から統計的に人間を選別するシステム」を告発する内容と、画面の構図(高所から見下ろす・匿名化された存在)を意図的に呼応させているのではないか、という見方ができる。地上で当事者に密着した前作『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』から一転、本作は“見る側”の視点そのものを問い直す構成を取っている。

③ 座組み・流通の革命性――覆面公開から政治的応酬まで

ヴェネチアのラインナップに追加された当初、本作は正体を伏せた「覆面作品」として扱われ、タイトル公表は直前になってからだった。それでもヴェネチアでのワールドプレミア前にニューヨーク映画祭への電撃出品が決まっていた。プレミア後はMK2 Filmsが世界セールスを本格化させ、批評家の高評価と合わせて、配給・興行の両面で勢いを持ったまま進んでいる。

一方で政治的な反発も表面化している。イスラエルの元首相ナフタリ・ベネット氏は、プレミアの翌日、X上で長文の投稿を行い、本作がイスラエルを大量虐殺だと非難する作品だと批判したと報じられている。作品の内容そのものが政治的応酬を呼び込む構造になっている点も、本作の特異性のひとつだ。

プレステージ・ジャーナリズムの急先鋒

内容・形式・座組みのいずれの軸で見ても、『NAZA』はドキュメンタリーというジャンルの枠を超えて機能している作品だと言えそうだ。25分間のスタンディング・オベーションという数字が示す通り、少なくとも会場の熱量は本物であり、9月12日の閉幕でどのような結果が出るのか、注視したい。


『NAZA(原題)』(2026年・イギリス・1時間20分)
監督:ユヴァル・アブラハム、レイチェル・ソール
第83回ヴェネチア国際映画祭・コンペティション部門
mk2 Films


Reels:

ノー・アザー・ランド 故郷は他にない

ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バーセルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユヴァルが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バーセルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。同じ想いで行…


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