
『映画館は減り続けている』は本当か――相鉄ムービル閉館の裏で、スクリーン数は増えていた
横浜駅西口の相鉄ムービルが、9月30日に閉館した。最終日の上映作品は『ニュー・シネマ・パラダイス』。映画館への愛惜を描いた映画で幕を引く、できすぎた閉館だった。
「また一つ、街の映画館が消えた」。そう感じた人は多いと思う。ただ、その直感を数字に当てると、意外な絵が出てくる。日本のスクリーン数は、この10年で増えている。
1. 数字を並べると、直感とズレる
まず、全国のスクリーン数を1955年から並べてみる。

日本映画製作者連盟(映連)の統計では、スクリーン数のピークは1960年の7,457。そこから観客の減少とともに坂を転げ落ち、1993年に1,734まで落ちた。底の時点で、ピークの4分の1に届かない水準だ。
そして1990年代後半からシネコンが広がり、反転する。1999年に前年比+11.4%、2000年に+13.6%と急増し、2010年には3,412。2025年は3,697で、底から約2.1倍、ピーク比で約半分まで戻している。
つまり「映画館は減り続けている」という認識は、1960年代〜1990年代前半の話としては正しい。しかし2000年代以降の話としては、事実と合わない。
2. 「減った」記憶の正体は、2005〜2013年
では、なぜ「減り続けている」という実感が残っているのか。
映画上映活動年鑑2025(コミュニティシネマセンター)によると、映画館の数は2005年の806館から、2016年には588館へと200館以上減っている。特に、デジタル上映への移行期だった2011〜2013年の2年間で、約80館が姿を消した。
ここで見落としやすいのは、館数とスクリーン数は別の話だということだ。同じ時期にスクリーン数は2,926から3,290へ、約360増えている(集計元が異なるため目安)。単館が減り、複数スクリーンを持つシネコンが増えた。「館」が減っても「スクリーン」は増える。街で看板を見かける映画館が減ったのは事実でも、座席とスクリーンの総量は減っていない。
2016年以降の約10年は、館数はほぼ横ばいだ。2025年は597館で、10年前より9館多い。
3. 2020年代の閉館は、何が違うのか
コロナ禍で映画館は大打撃を受けた。ところが年鑑は、2020〜2025年の5年間で閉館したのはシネコン18館(149スクリーン)、シネコン以外が約30館で、「コロナの影響で特に閉館数が増えているという状況にはない」と述べている。同じ期間に、シネコン29館、シネコン以外25館が開館している(移転・再開は含まない)。
2025年の興行収入は2,744億円で、統計上の歴代最高。観客数は1億8,876万人と、2019年の約97%まで戻った。
ただし、これは「全員が持ち堪えている」という意味ではない。大手でも閉めている。 2025年には、ユナイテッド・シネマ枚方、同熊本、イオンシネマ津、109シネマズ高崎が閉館した。「大手シネコンだけが生き残る」という単純な図式ではなく、シネコンの中でも立地による明暗がある。
4. 消えているのは「真ん中」の映画館
増減を種類別に見ると、構図がはっきりする。
- シネコン:10年で24館265スクリーン増。全スクリーンの約9割(3,328スクリーン)を占める
- ミニシアター・名画座:147館252スクリーン。10年で32館64スクリーン増
- 既存興行館(従来型の単館・二番館):58館128スクリーン。10年で28館76スクリーン減。2010年の176館から、2020年には67館まで半減以下になった
減っているのは、シネコンでもミニシアターでもない中間層だ。デジタルシネマ機の導入という大型投資に耐えられなかったことが背景にある。生き残った既存興行館の中には、ミニシアター的な編成に舵を切って差別化を図る館も多い。
ここに、次の波が来ている。年鑑によれば、デジタルシネマ機の導入から10年が経ち、機材の更新時期を迎えた。1台1,000万円近い投資が必要で、小規模館には重い。建物の老朽化や建て替えで閉館を迫られる映画館も出ている。2025〜2026年の閉館では、盛岡ピカデリー、刈谷日劇、大須シネマ、シネマカリテ、シネ・リーブル池袋の名が並び、札幌のサツゲキ、大阪の新世界国際劇場、福山駅前シネマモードも閉館を発表している。
今後の閉館は、需要の減少よりも「機材更新と建物の寿命が同時に来る」ことが引き金になる館が増えるのではないか。観客が来ていても、設備投資の判断で幕を下ろす、というパターンだ。
5. 増減の地図――北海道・東北と、映画館のない約8割の市町村
全国の数字が増えていても、地域別に見ると均質ではない。
年鑑によると、この10年でスクリーン数が減ったのは北海道・東北だけで、7館10スクリーン減。同地方は人口減少率も8.3%と高い。シネコンでさえ、北海道・東北は2館4スクリーン減となっている。一方、九州・沖縄は6館64スクリーン増。シネコンは関東・中部・九州・沖縄で大きく増えている。映画館の増減は、人口の増減にほぼ対応している。
もう一つ、見過ごせない数字がある。全国1,719市町村のうち、映画館があるのは306市町村、**約18%**にすぎない。人口5万人未満の市町村では、95%に映画館が1館もない。
「映画館は減っていない」と言っても、「映画館にアクセスできる人」は偏っている。数が戻ったのは、人が集まる場所に集まった結果でもある。
救いもある。同じ年鑑は、人口20万人以下の中小の市町村で、ミニシアターや小さな上映スペースが新たに開く動きが続いていることを報告している。シネコンが届かない場所で、別の形の「映画館」が芽を出している。
6. ムービルは、何の閉館だったのか
ここで、相鉄ムービルに戻る。
ムービルの閉館理由は、施設の老朽化と、横浜駅西口の再開発だ。相鉄グループは2024年に「横浜駅西口大改造構想」を発表しており、その中で建て替えを最初に明記していた。解体着手は2026年度中を目指し、構想全体の実現は2040年代と、相当先になる。跡地の具体的な施設内容は、現時点で発表されていない。
つまりムービルは、観客が来なくなって閉まったのではなく、建て替えによる閉館というカテゴリに入る。これは、前節で触れた「建物の寿命」型の閉館と同じ系譜にある。
駅前のような一等地は、映画館という業態の賃料負担力と、オフィスやエンタメ複合施設の収益力を比べたときに、立地そのものが再開発の対象になりやすい。映画館の経営が苦しいから閉まる、というより、土地の使い道の競争で映画館が選ばれにくい、という構図なのかもしれない。
半分正解――映画館は減り続けている
「映画館は減り続けている」という言葉は、半分正しく、半分は古い。数は1990年代の底から倍増し、2025年は歴代最高の興行収入を記録した。しかし、その回復はシネコンとミニシアターの二極に偏り、中間層は細り、北海道・東北と小さな市町村は取り残されつつある。
ムービルが閉まったのは、映画が人気を失ったからではない。街の中心にあった映画館が、街の使い道の競争で降りたということだ。
横浜駅周辺に、大型のシネコンは今、T・ジョイ横浜しかない。大きな作品はそこか、みなとみらい側へ。小さな作品はミニシアターへ。映画館の数は減っていない。ただ、映画館のある場所は、確実に動いている。

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