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Kino International

ベルリンの壁崩壊の夜、この映画館では『カミングアウト』が上映されていた――Kino Internationalがナチスドイツ時代から引き継ぐ政治性

ベルリン・ミッテ区を貫く大通り、カール・マルクス・アレー33番地。大きく前に突き出た特異なレトロフューチャリスティックなガラス張りのファサードの足元には、「Aus dem Leben heutiger Menschen(今日を生きる人々の生活より)」と題された14枚のレリーフが並ぶ。見る角度によって陰影を変えるこの装飾は、単なる建築的な遊びではない。この館は、開館当初から「見せるための映画館」として設計されたものだった。

DDR(ドイツ民主共和国)のショーケースとして生まれた映画館

Kino Internationalは1961年から1963年にかけて建設された。カール・マルクス・アレー(旧スターリンアレー)の延伸計画にあたり、建築家ヘルマン・ヘンゼルマンの当初案が退けられた後、7社による設計競技が実施され、最終的にヨーゼフ・カイザーとハインツ・アウストの案が採用された。1963年11月15日、ソ連の革命叙事詩『楽天的悲劇』の上映とともに開館し、以後1989年までDEFA(東独国営映画スタジオ)のプレミア専用館として機能した。

この館の設計には、政治的な機能があらかじめ組み込まれていた。党幹部専用の座席列が8列確保され、のちにはNATOによる攻撃を想定した防空壕と専用エレベーターまでが増設された(いずれも現在も非公開)。つまりKino Internationalは、映画館という体裁を取った国家儀礼の装置だったと言っていい。上映される作品そのものよりも、誰がどの席でそれを鑑賞するかという序列こそが、この空間の本質を語っていた。

壁が崩れた夜、この場所で起きたこと

その歴史のなかで、最も象徴的な夜が1989年11月9日である。ベルリンの壁が崩壊したまさにその夜、Kino Internationalでは東独初の同性愛をテーマにした劇映画『カミングアウト』(ハイナー・カロウ監督)がプレミア上映されていた。これは体制批判を意図した抗議上映ではなく、あらかじめ組まれていたプレミア日程が、たまたま歴史の転換点と重なったに過ぎない。しかし結果として、国家が管理してきた「表現の許可」の枠組みそのものが崩れ落ちる瞬間と、これまで抑圧されてきたテーマの解放が、同じ夜・同じ空間で交差することになった。この一致の重みが、Kino Internationalを単なる保存建築以上の場所にしている。

分断後の転生――なぜベルリナーレの会場になれたのか

統一後、Kino Internationalは1990年に記念建造物として保護指定を受け、同年2月には早くもベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)の公式会場に選ばれている。1992年からはヨルク・キノグルッペが運営を引き継ぎ、現在に至るまで途切れることなく上映が続けられてきた。

ここで興味深いのは、党エリートのためのプレミア機構がそのまま、国際映画祭のプレミア機構として転用されたという構造の連続性である。DEFAのための「特別な上映のための特別な空間」という機能は、政治体制が入れ替わっても解体されず、器だけが持ち越された。実際、ロバート・レッドフォード、スティーヴン・スピルバーグ、ティルダ・スウィントン、ヴィム・ヴェンダースといった顔ぶれが折々にこの館のゲストとなっており、かつて党幹部が座っていた特別な視線の先に、今はレッドカーペットが敷かれている格好だ。政治的な正統性を可視化する装置だったこの館は、いまや映画祭という別種の権威づけの装置として生き続けている。

2026年、生きた記念碑としての改修

その持続性は、直近のリノベーションにも表れている。Kino Internationalは2024年5月から改修のため休館し、建築事務所Dickmann Richterの手による全面的な修復を経て、2026年2月26日に再開した。ファサードのレリーフや木材・石材・テラゾーを多用した内装は当時の姿を保ちながら、座席数は555席から506席へと調整され、上映設備は最新のものに刷新されている。運営側が掲げる方針は「博物館ではなく、生きた記念碑として」というものだ。保存すべきは外観や様式だけでなく、今もそこで現役の上映が行われているという事実そのもの、という考え方がうかがえる。

国家儀礼の館から、統一ドイツの映画祭会場へ

政治体制は二度書き換わった。国家儀礼の館から、統一ドイツの映画祭会場へ。だがKino Internationalが一貫して担ってきたのは、「特別な上映のための特別な場」という機能そのものだった。壁の崩壊もリノベーションも、その機能を止めることはなかった。次にベルリナーレのレッドカーペットがこの館の前に敷かれるとき、そこには党幹部のための8列の椅子はもうない。しかし、誰かのために特別に用意された最前列という構造だけは、64年間、形を変えながら生き続けている。


「Kino International」GodeNehler, CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons


アクセス・メモ

  • 住所:Karl-Marx-Allee 33, 10178 Berlin(Mitte区)
  • 最寄り駅:地下鉄U5線 Schillingstraße駅から徒歩数分(Alexanderplatzから一駅)
  • 営業:Yorck Kinogruppeが運営。2026年2月に改修を終えて再開したばかりで、上映時間は日替わりのため公式サイト(yorck.de)で要確認
  • 併設施設:パノラマバー(大きな窓からカール・マルクス・アレーを見渡せる、館内のバー)。2026年の改修でロビーの木材パネルやスパンコールのカーテンも修復済み

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