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車で荒野を目指す家族の悲喜こもごも『砂利道』パナー・パナヒ監督とのリモートQ&A全文掲載

第22回東京フィルメックス・コンペティション部門上映作品 イラン映画『砂利道』

上映後、パナー・パナヒ監督とのリモートQ&A全文掲載。


Story:


4人の家族と1匹の犬がロード・トリップに出ている。

大はしゃぎする幼い弟、怪我のため、足にギプスをして後部座席に座るシニカルな父。

そして努めて明るく振る舞う母、ユーモアとペーソス溢れるにぎやかな車内で、一人押し黙り運転をする兄。

兄を他の国へ逃がすという一つの目的のために車で荒野を目指す家族を待ち受けていることとは・・・。


イランの名匠ジャファール・パナヒを父に持ち、助監督と編集をしてサポートしてきたパナーの満を持しての監督デビュー作となった。カンヌ国際映画祭・監督週間にてワールド・プレミア上映された。


『砂利道』より

『砂利道』リモートQ&A

神谷プログラム・ディレクター(以降、神谷PD):
本日は『砂利道』Q&Aにお越しくださいまして、どうもありがとうございます。
これより、パナー・パナヒ監督をお招きしましてQ&Aをスタートしたいと思います。
まずは監督から一言お願いしたいと思います。

パナー・パナヒ監督 (以降、パナヒ監督 ):
皆さん、こんにちは、自分の作品が大好きな日本の皆さまにご覧いただけ、とても光栄に思っています。
私は、日本の方々、文化、映画、アニメーション、全ての日本を愛しています。
本作を愉しんでいただけたら嬉しいです。

そして、この作品を今日、皆さんと一緒に観覧した大好きな友だちに捧げたいと思います。
また日本へ行くことがあったら、友だちと一緒に食事に出かけたいです。

どうかよかったら、お立ちになって、お姿を見せてください。

(会場の観客一同拍手)

神谷PD :
パナヒ監督からは見ることは難しいかもしれません。
ありがとうございます。
会場の皆さんから質問が届いておりますので、早速、質問に移りたいと思います。

たとえば、サミラ・マフバルバフ監督やハナ・マフバルバフ監督といった方々と比べると、37歳という年齢は
決して若くない長編デビュー作だと思いますが、どういうキッカケや経緯でこの映画を作ることになったのでしょうか?

パナヒ監督 :
そうですね、ジャファール・パナヒの息子として映画監督デビューをするのは、そう簡単なことではありませんでした。

私は、とても映画を愛していて、ずっと昔から映画を作りたかったのですが、どうやって、自分の父とは違う自分自身のアイデンティティの声を伝えたらよいのかずっと考えていて、最初の一歩を踏み出すのにはとても勇気が要りました。

この年齢になり、自分にはこれだけ映画愛があるのだから、撮るべきではないのか?それとももう監督デビューするのは諦めるのか?二つに一つの決断を迫られて、考え過ぎて少し気分も落ち込みました。

しかし、やはり今しかないのだと思い、この映画を作ったのです。

映画の世界で写真を撮ったり、監督助手をしたり、編集をしたりなど仕事をしてきたのですが、いざ自分が監督となるとなかなか決意できなかったのです。

神谷PD :
はい、どうもありがとうございます。
続いての質問に行きます。撮影に関する質問です。
狭い車内と広大な大地と大きなギャップのある空間を撮影されていましたが、撮影に関してはどのようなことを意識されていましたか?

パナヒ監督 :
狭い車の中と広い大地の空間のコントラストを巧く表現しようとしました。
長男を他の国へ逃がすために、家族が車で旅をするという哀しい物語なのですが、道中、家族間のやりとりは、絶えず微笑んだり、ふざけ合ったりと哀しみよりもユーモアのあるやりとりが続きます。

しかし、ストーリーが兄を逃がす結末付近に近づくとカメラも人物から離れて、風景の中に人物がポツンといる絵作りをしていきました。そうやってカメラをどんどん離してゆき表現方法を変えていきました。

それから大きなカメラを使用していたので、車内の撮影は大変でした。

神谷PD :
車の中の撮影というと我々はついアッバス・キアロスタミ監督の作品を思い出してしまいます。
そういった影響はありますか?

パナヒ監督 :
車の使い方はイランと他の国とでは少し違います。
ご存知かもしれませんがイランは、様々な規則があります。

たとえば、外では色々なルールがあって好きに聞くことができない音楽があっても、車の中で好きな音楽を音を大きくして聴くことができます。

女性は、外ではスカーフをしていないとなりませんが、車の中であれば、外すことができる。
ですから車の中は、イランの人間にとっては、ただの車ではなく、いわば自由空間=セカンド・ハウスと云えるものなんです。

そうしたことでイラン国内から自由を求めて出かけるという行為で理に適っているのは車を使うことで、しかも必要のない他場所でのロケも削ることができ、合理的に進めることができます。

イランでは、部屋にいる時も女性はスカーフを被らないとなりません。外でも無論、被らないとなりません。

そうした状況では映画を撮りたいとは思えません。

ですので、必然的に車の中のような自由な空間で撮影することになるのです。

神谷PD :
皆さん、子役の方についての質問が相次いでいます。本作を作る上でのキャスティングについて、どのような考えで配役されましたか?

パナヒ監督 :
まず、この子役の男の子については、こんな感じの子を探していると周りの関係者に聞くと、私は観たことがなかったのですが、皆、当時TVドラマに出ていたこの子を勧めてきたのです。

確かに彼に会ってみると物凄いエネルギーをもった活発な子でした。

6歳半で人の話をよく聞き、解釈することができる、そんな子でした。私は直ぐに彼と仲良くなりました。

出演が決まりましたが、まだ学校にも上がっていませんし、本を読むこともできませんでしたので、彼の母親が台本を読んで聞かせ、それで彼は台詞を覚えて撮影にきました。

撮影現場では彼と遊んで、彼も乗ってきて、気持ちが通じ合ったところでカメラを回しました。

彼は頭もよく台詞覚えもよく、ただ子供ですので要らない動きもよくしたので、そこは演技指導すると直ぐに理解し、望み通りの演技をしてくれたのには、とても驚きました。

神谷PD :
劇中の歌についても質問が来ていて、どういった歌なのでしょうか?有名な曲なのでしょうか?

パナヒ監督 :
人は別れの時になるとノスタルジックな昔の歌を聴きたくなると思うのです。
私たちが家族と旅すると車の中でこうした音楽を聴いたという思い出もあります。

この歌もイラン革命前の頃の曲ですが、今でも車で旅に出たりするとこうした昔の曲を聴いたりします。
私は、こうした昔の曲の方が音楽としてみた場合、しっかりとした作りの曲が多いと思います。
イランの人間にはよく分かることですが、音楽そのものは陽気に聴こえても詞はとても悲しかったりします。

ですので、一つの歌の中でも明暗のある矛盾を抱えているので、そうした歌を選んだのです。

神谷PD :
はい、ありがとうございます。
ちょっとデリケートな質問になってしまうのかもしれないのですが、長男の方が出国せざるを得ない状況になった理由について、お答え出来る範囲でお知らせいただけないでしょうか?

パナヒ監督 :
イラン人は、なぜ出国するのかは分かっているので、この質問は絶対にしませんが、海外で上映するとこの質問はされます。

私がその答えを答えてしまうことは簡単ではありますが、要は、イランに住む一人の青年がこのままイランに留まっていたら、もう未来の希望が無くなる、自分の将来探しのため、アイデンティティを探すため、仕方がなくとも知らない土地へ行かなくてはいけないのです。

理由はどうであれ、若者の将来探しのための旅を描きたかったのです。

神谷PD :
ありがとうございます。時間も押し迫ってきましたので、次が最後の質問となってしまいます。

脚本に関する質問です。

ロードムービーという構成の物語に現代のイランの社会問題が上手く落とし込まれていると思いました。
脚本に関してはどのように構想していったのでしょうか?

パナヒ監督 :
はじめはどんなジャンルのストーリーになるのかは考えずに脚本を書いていたのです。

自分はあまりジャンルに囚われて脚本を書くのは好きではありません。

現代のイランの若者たちは、行き止まりに立っているような気持ちになってしまっていて、あまり将来の希望は持てなくなってしまっていると思います。友人を見ていても、国を捨てて他の国へと行ってしまう人もいれば、映画で描いたように家族の助けで出て行った人も見てきました。

自分の家族の場合でも父ジャファールの拘束事件(解説:☆)が起こった時、突然、父が妹に今夜、出国しなさいと進言したこともあり、家族にとって劇的な出来事ではありました。

そうした妹の気持ちは全部見てきたので、こんなストーリーを自然と書いてしまったのかもしれません。

神谷PD :
ありがとうございます。残念ながら時間が来てしまいましたが、最後に監督から一言いただけないでしょうか?

パナヒ監督 :
神谷さん、そして会場の皆さま、私の話を聞いていただき、感謝いたします。
この後もよき時をお過ごしください。ありがとうございました。


解説:☆
ジャファール・パナヒは、イランの巨匠アッバス・キアロスタミの助監督から映画監督となり、後にベルリン、カンヌ、ヴェネチアなど世界的な映画祭の主要な賞を受賞している名匠となる。イランを代表する最も重要な映画監督の一人。

2009年の大統領選挙で改革派の政党を支持したために保守派と対立し、2010年3月に自宅にて拘束された。

パナヒ監督は同じ年の5月開催のカンヌ国際映画祭の審査員であったが、このために欠席。

この年の同映画祭で女優賞を受賞したフランス人女優ジュリエット・ビノシュを始めとする各国の映画人がイラン政府への抗議声明と共にパナヒ解放を求めた。その後、保釈金を支払うことでパナヒ監督は釈放されている。


HIT THE ROAD by Panah Panahi – Teaser

A chaotic, tender family is on a road trip across a rugged landscape, but to where? In the back seat, Dad has a broken leg, but is it really broken? Mom tries to laugh when she’s not holding back tears. The kid keeps exploding into choreographed car karaoke.

『砂利道/Hit the Road(原題)』 オリジナル予告編

Awards:

  • ロンドン映画祭:ベスト・フィルム賞
  • フィラデルフィア映画祭:ベスト・アンサンブル/オノラブル・メンション

『砂利道/Hit the Road(原題)』 (2021年・イラン・1時間33分)
監督:
パナー・パナヒ
出演:
ハッサン・マジュヌニ、パンテア・パナヒハ、ラヤン・サルラク、アミン・シミアル


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