チャンス、ハル・アシュビー、ピーター・セラーズ、メルヴィン・ダグラス

『チャンス』風刺コメディを超えた伝説的な名作

ストーリー

主人公のチャンス(ピーター・セラーズ)は世間知らずで無学の中年男性。
生まれた時からずっと裕福な家の住み込みの庭師として暮らし、家から一歩も出たことがなく一日中テレビを見て過ごすという生活を送っていた。

だがある日チャンスの主人である老人が亡くなり、管財人によって家を追い出され、生まれて初めて外の世界に出ることになった。

初めて見る外の世界が物珍しく、周りをよく見ずに歩いていたチャンスはエヴァ(シャーリー・マクレーン)の車にぶつかってしまい、怪我の手当をするために彼女の家に行く事になるが、そこはアメリカ経済界の立役者ベンジャミン・ターンブル・ランド(メルヴィン・ダグラス)の邸宅だった。


壮大なる風刺か、ファンタジーか

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ハル・アシュビー監督と主演のピーター・セラーズ

天真爛漫なチャンスの言葉づかいはとてもシンプルで、話し方はゆっくりしている。
また、服装は主人からのお下がりの仕立ての良いスーツを身につけており、一見上流階級のおっとりした紳士に見える。
それはある意味、裕福な主人に守られて生活してきたおかげでもあるかもしれない。

そして、エヴァをはじめその夫である財界の大物ベンジャミンも、果てはベンジャミンと親交の深いアメリカ大統領もチャンスの話を自分の都合の良いように解釈し、類まれな才能とユーモアを持つ一流の人物だと思い込んでいく。

そんなバカなと思いながらも何か説得力を持ちえてしまうのは演出の妙と俳優陣の演技の素晴らしさに尽きるだろう。

また、笑いながらも頭に浮かんできた言葉がある。
かのユリウス・カエサルの名言である。
「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」

まさに、そうとしか思えない展開であれよあれよと言う間にチャンスは身寄りもなく、無学で無一文、無名の人物から一躍、アメリカ中が注目する時の人となっていくのである。

この物語の展開だけでも皮肉たっぷりでユーモアに満ち、十分に傑作なのだが、何と言っても素晴らしいのはラストシーン。
当初は違ったラストが用意されていたらしいが、撮影期間中にハル・アシュビー監督が他の監督と話している際に現在のラストシーンを思いつき、差し替えたという。

このラストシーンにより、本作は風刺とウィット満載の傑作から、神話のような風格を持つ傑作中の傑作となった。

何度も観たいと思う作品はそう多くはないが、本作は間違いなく何度でも観たいと思う傑作である。


『チャンス』予告編


Awards:

  • アメリカ・アカデミー賞 助演男優賞:メルヴィン・ダグラス
  • アメリカ・ゴールデングローブ賞 助演男優賞:メルヴィン・ダグラス
  • アメリカ・ゴールデングローブ賞 主演男優賞:ピーター・セラーズ
  • 第45回ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞:メルヴィン・ダグラス
  • 第5回ロサンゼルス映画批評家協会賞 助演男優賞:メルヴィン・ダグラス
  • 英国アカデミー賞 脚本賞

チャンス』(1979年・アメリカ・2時間10分)
監督:ハル・アシュビー
出演:ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラス、ジャック・ウォーデン、リチャード・ダイサート、リチャード・ベースハート、ルース・アタウェイ、デイヴィッド・クレノン、フラン・ブリル
© Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


『チャンス』は以下のサイトでご覧になれます。

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