『ホワイト・ビルディング』ニアン・カヴィッチ監督とのリモートQ&A全文掲載
第22回東京フィルメックス・コンペティション部門正式出品作・カンボジア映画『ホワイト・ビルディング』上映後、ニアン・カヴィッチ監督とのリモートQ&A全文掲載。
Story:
1963年にプノンペンに建造された集合住宅「ホワイト・ビルディング」。建物の取り壊しの期日が近づく中、それまで青春を謳歌していた青年と、その家族の姿が描かれる。
ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でワールドプレミア上映された。
本作と同じロケーションであるホワイト・ビルディングについてのドキュメンタリー映画『昨夜、あなたが微笑んでいた』(2019年)は、第20回東京フィルメックスにて上映され、スペシャル・メンション賞を受賞。
『ホワイト・ビルディング』Q&A
神谷プログラム・ディレクター(以降、神谷PD)
では、Q&Aを始めさせていただきたいと思います。まず初めに監督から一言挨拶をしていただきたいと思います。
ニアン・カヴィッチ監督(以降、カヴィッチ監督)
こんにちは、この作品をご覧頂き、皆さま、ありがとうございます。
コロナ禍のた仕方がありませんが、自分がそににいられないのは奇妙ではあります。
重ねましてご来場いただいた皆さまへ感謝の気持ちと本作を東京フィルメックスに選出していただけたことにお礼をお伝えしたいと思います。
神谷PD:
客席の皆さまから質問が届いていますので、早速、読み上げたいと思います。
登場人物たちは、実際のどのくらいモデルにしているのですか?
あるいは実体験はどの程度反映されているのでしょうか?
カヴィッチ監督:
まず質問ありがとうございます。
どこまでが現実、どこからどこまでがフィクションなのか?ということを正確に言うのは難しいのです。
というのは、監督している時にそこまで現実に沿わなくていいように自分を解放しようと思っています。
キャラクターの置かれた状況が現実に何をするのか?を見てみたい、そうした気持ちで監督しているのです。
間違いなく言えるのは、現実とフィクションのコンビネーションということです。
ダンサーの皆は実際にダンサーということで、彼ら自身の物語ということは言えます。
神谷PD:
ありがとうございます。では次の質問に行きます。
ジャ・ジャンク―監督がプロデューサーとしてクレジットされていましたが、この作品に関して、どのようなやり取りをされたのでしょうか?
カヴィッチ監督:
ジャ・ジャンク―監督にサポートしていただけたことは本当に恵まれていると感じています。
初めてお会いしたのは2018年のカンヌでした。シネ・フォンダションに私は参加していて、監督は自分の作品を持っていらしていて、一緒にお茶をする機会がありまして、公の場だったので、その時はまだプロジェクトの話はあまり話さず、脚本を読むよと言って、また今度話そうと云われました。
その後、監督からいくつかコメントを頂いたのですが、すいません。そのコメントの内容はちょっと忘れてしまいました。
神谷PD:
はい、ありがとうございます。それでは次の質問をさせていただきます。
元々は、本作は前作の『昨夜、あなたは微笑んでいた』よりも先に企画されていたようですが、 『昨夜、~』 を作ったことで変化したことはあったのでしょうか?
カヴィッチ監督:
もちろん、何について描いているのかは、変化はありました。
当初、本作はホワイト・ビルディングで撮影することには変わりはありませんでしたが、突如、ビルを解体するという不測の事態になり、急遽ドキュメンタリーを撮ることになったのです。
ビルが解体されたことで、物語のエンディングが変わったことは確かです。
ドキュメンタリーは、もっとスピリチュアルなテイストにしていたのですが、実際に解体が決まり、本作の劇映画としては、もっと現実と向き合う話となりました。
解体がなければ、こうした物語とはならなかったということです。
あとドキュメンタリーを作るプロセスで脚本に影響がありました。
父親が住民に説明をしているシーンなどは、ドキュメンタリーをご覧になった方は分かると思いますが、実際に起きたことなのです。
ドキュメンタリーで話していたことは、本作でも出てきます。
ドキュメンタリーで撮影した映像は本作でもいくつか使われています。
両作品をご覧になった方は、ああ、あのシーンだなと分かると思います。
ですので、影響、変化はありました。
神谷PD:
はい、ありがとうございます。次の質問に行きます。
製作のどの段階で全体を三部構成にしようと考えましたか?またそれは何故でしょうか?
カヴィッチ監督:
この質問は製作準備中によく訊かれる質問でした。釜山のプロジェクト・マーケットでも同じように訊かれました。
同じことを沢山、訊かれましたが、上手く答えられませんでした。
その後、何で3部仕立てにしたのだろう?と自問自答しました。
その時に一つ思ったのは、やはり自分の記憶と向き合っているということなのです。
自分の記憶を思い出すと時系列では存在していないのです。
最も憶えていることは自分が幸せだったことや悲しかったことです。
日々の営みは同じことの繰り返しですから、映画ならではの違うことをやってみたかったのです。
違ったことをすることで日々の生活とはまた違った深さや奥行が得られると考えました。
ですので、一つのことを追っていかないようにした方が面白いんじゃないか?と思いました。
もう一つ、この作品はトラウマであったり、気分が落ち込むような家族の問題もあるので、
古典的な描き方だとこうしたエキサイティングさが薄れるんじゃないか?と考えました。
ですので、よりダイナミックにエモーショナルにするための3章仕立てとなりました。
神谷PD:
俳優への質問が来ていて、登場する人たちはプロの俳優なのでしょうか?それとも素人が演じているのでしょうか?
カヴィッチ監督:
何人かを除いて、殆どの演者はプロではありません。
でもこんなケースもあります。ドキュメンタリーで歌を歌っていた女性がいるのですが、その人は本作では住民の一人として出演しています。
神谷PD:
はい、ありがとうございます。残念ながら時間が迫って来ていまして、次で最後の質問とさせていただきます。
撮影に関する質問となります。
撮影が素晴らしかったです。撮影監督のダグラス・ソークさんとは映像作りにおいて、何か参考にしたことなどありましたか?
カヴィッチ監督:
ありがとうございます。実は今回の作品の中で自分にとっては大変だったことの一つでした。
ダグラスさんとロケハンをして、ショット・リストを作成して準備を進めて行くのですが、どうも役者さんたちと撮影現場に入り、撮る段になると違うアイデアが浮かんでしまうことが多かったんです。
スタッフが用意してくれてきたものと違ったものを撮りたくなってきてしまうのです。
それで現場でディスカッションとなって、時には衝突するといったこともありました。
自分が暮らしてきたビルでもあるので、どうしても自分に自分が捕らわれてしまう部分があり、フィクションであるということも忘れてしまう時がありました。
なるべくそうした自分の現実とは距離を置くような演出をするように心がけたため、自分としては大変な時もありました。
その距離のようなものは制作中も自分が感じていて、ただカメラワークは身近に感じられるような調整はしました。
映像の色調も変え、整えることで身近に感じられる雰囲気の絵作りをしてみました。
神谷PD:
時間が来てしまいましたので、こちらでQ&を終了させていただきたいと思います。
カヴィッチ監督:
現在、ドキュメンタリーも配信されていますし、皆さまのご感想も知りたいです。もしドキュメンタリーを観ていなくても大丈夫ですからね。
神谷PD:
それではこれで終了したいとい思います。皆さま、ありがとうございました。
『ホワイト・ビルディング/White Building(原題)』 (2021年・カンボジア、フランス、中国、カタール・1時間30分)
監督:
ニアン・カヴィッチ
出演:
ピセット・チュン、シタン・ウ、ソカ・ウク、シナロ・ソム、ソヴァン・ト、ジャニ・ミン、シャンダリン・イ
2021年10月30日-11月7日 第22回東京フィルメックス・コンペティション部門正式出品作
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