第22回東京フィルメックス・オープニング上映作品『偶然と想像』濱口竜介監督 上映後Q&A 全文掲載!
第22回東京フィルメックス オープニング・特別招待作品『偶然と想像』濱口竜介監督と出演者の一人、中島歩氏に聞く制作秘話!
『偶然と想像』 とは
「偶然」をテーマに3つの物語が織りなされる「このスタイルをライフワークとしたい」と濱口監督が語る「短編集」
親友同士の他愛のない恋バナ、大学教授に教えを乞う生徒、20年ぶりに再会した女友達…
軽快な物語の始まり、日常対話から一転、鳥肌が立つような緊張感とともに引き出される人間の本性、切り取られる人生の一瞬…
『偶然と想像』Q&A全文
神谷直希プログラム・ディレクター(以降、神谷PD)
では、まず中島さんは舞台挨拶には見えられなかったので、一言ご挨拶いただいてもいいでしょうか。
中島歩(以降、中島)
はい。一話目に出ていた中島歩です。カズアキという役を演じさせていただきました。
こうして今日、ようやく日本で公開できたことを本当に嬉しく思いますし、キャストの皆さんと監督にも会えたことを非常に嬉しく思っています。本日はありがとうございます。
第一話:魔法(よりもっと不確か)
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との、のろけ話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。
神谷PD
それから今日は残念ながらお越しになれなかった出演者の森さんから、メッセージを預かっているということなので、濱口監督よろしくお願いします。
濱口竜介監督(以降、濱口監督)
はい。第2話にナオという役で出ていた森郁月さん。ご都合合わなくて、登壇することが叶わなかったんですけれどもメッセージをいただいております。
「このたび『偶然と想像』が第22回東京フィルメックスのオープニング作品として選出していただけたことを嬉しく思います。想像もしていなかったことが偶然によって引き寄せられるという、この作品のような出来事が人生には起こり得ますが、私にとってこの作品、そして濱口監督との出会いがまさにそうでした。リハーサルから撮影までの制作期間を通して、言葉の海を深く潜ってゆくような刺激的であり心地よくもある不思議な時間を過ごさせてくださいました。きっと皆様にもこれから同じ体験を味わっていただけると思います。この作品との出会いが皆様の一つの偶然となることを期待しております。森郁月」
濱口竜介監督
作品の前に読むべき文章だったんですけれども、みなさんにとってもいい出会いというか、いいひとつの偶然になってくれたんではないかと私も思っております。今日はよろしくお願いします。
第二話:扉は開けたままで
作家で教授の瀬川(渋川清彦)は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木(甲斐翔真)の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒(森郁月)に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
神谷PD
ありがとうございます。それでは、早速会場の皆さんから質問がいくつか届いておりますので、こちらでひとつ。「製作のきっかけを教えてください」というシンプルな質問なんですけれどもこちらはいかがでしょうか?
濱口監督
これはまず今日の舞台挨拶で言えなかったこととして言うと、エリック・ロメールというフランスの監督がとても好きなんです。
エリック・ロメールの編集をやってらっしゃるマリー・ステファンさんという方がいて、その方は今フランスに住まわれています。
『寝ても覚めても』という2018年に撮った映画があるんですけれども、その映画がフランスで公開された時にマリー・ステファンさんとお話ができるという機会があって、その時にエリック・ロメールにとって短編制作というものがどれだけ大事だったかというお話をマリーさんがされていて、それはその長編と長編の間のリズムを作っていく。
まあそういうものになっていて、そこで試したことが長編に結実していたりするんだ、ということを仰っていました。
それは自分としてもすごく感じていたことというか、その前から短編を作るのはすごく好きだったんですけれどもそういう風にできたらいいな、と思っていて。
そしてより自由度の高い作り方、そしてより親密な作り方、より小さなチームで作る、ということもロメールのやり方として仰っていて、マリー・ステファンさんに「なんでやらないの?」と言われたんです。
それをやるとしたら例えばこういうやり方があるんじゃないかということで3本をやらせていただいた、ということでございます。
神谷PD
ありがとうございます。
この作品の英語タイトルに「Wheel」という言葉が入っていて、確かに第1話目はタクシーで、2話目にはバスが登場して、第3話目には乗り物じゃないですけれどもエスカレーターが登場します。
Wheelの存在って、割と作品の転換点というか重要なところでそれぞれ出てきてると思うんですけれども、作品の成り立ちとそれぞれの車輪の関係について何かあれば教えていただければと思います。
第三話:もう一度
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子(占部房子)は、仙台駅のエスカレーターであや(河井青葉)とすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
濱口監督
はい。これはですね、『Wheel of Fortune and Fantasy』とポスターなんかにも入っているんですがまあそうゆうタイトルなんですよ。
これは字幕制作会社の方に字幕制作の時につけていただいたタイトルがそのままついていて、自分としてはこれが英語として合っているのかどうかもちょっとよくわからないというところはあるんですが、いろんな国でそのまま使っていただいてたりするのでまあいいタイトルなんではないかと思っているんです。
「Wheel of Fortune」という言い方はそもそもあるんですよね。「運命の輪っか」みたいなことで。
それが、「偶然」というものに対応していて、「想像」に対応するものとして「Fantasy」とつけていただいてるんですけれども、結果としてその「Fortune」と「Fantasy」、「偶然」と「想像」が代わりばんこに起きている、タイトルに関しては、この映画のイメージにすごく合ったものになったと思っております。
で、あの乗り物に関していうと元々乗り物に乗るのがやっぱりすごく好きなんですよ。
これはなんでかっていうとまず動いているからという、ものすごく子供みたいな理由なんですけれども。
ただ、これは本当に自分の映画のようにひたすら人が喋っている映画を作っていると、あれ、大丈夫かなと。心配になるんですよ。
例えば喫茶店なんかでずっと喋っていると、もちろん緊張感があるような場面だったら大丈夫だろうと思うんですけれども、ずっとたわいもない会話を10分間ずっと喫茶店でしているとなると、これは観客の方達は大丈夫だろうかという気持ちになるんですよ。
そういうときにはよし、乗り物に乗るか、と。
そうするとこの長い会話、たわいもない会話、というものも観客の方達が聞いていられる、観ていられる会話になるんじゃないかということでそもそもは使っています。
それが結構癖になっているというか、まあ本当に意外とそうするとそのことで生まれてくる言葉とか関係性みたいなものもある気がして、ずっと、そういうことをやっています。
神谷PD
ありがとうございます。続いて「俳優を観る映画」とのことでしたが、出演者の皆さんをキャスティングされた理由が伺いたいです。という質問が届いております。あちらに中島さんがいらしてるんで、その質問に答えていただいてよろしいでしょうか。
濱口監督
はい。中島さんは事務所でやってるワークショップに寄っていただいたことがあって、その時に中島さんと会って、皆さんも感じたと思うんですけれども声がね、いいんですよ。
うーん。てなんかね。なんかすごくスケールがあるというか。
背も高いし、顔もいいし、声も低くてすごいかっこいいんだけど、なんかちょっとダメなところがある気がする 笑(会場笑)
その全てがですね、なんだか非常に印象的でして。
今回いろんな方と、キャスティングというかオーディションをして会ってる方もいるんですけど、当て書きと言われると嫌かもしれないんですけど最初から結構そのイメージとしてあるというか、やっていただきたいな、と思ってやってもらっています。
そういう風になんていうかすごく当たり前なんですけれどもいいな、と思った人とやってるんですけれども、いいな、と思うポイントとしてあの演技がいいか悪いか、というのは正直よくわからないです。
正直自分はその辺はよくわからない。演技が上手い下手とかあるらしいけれどもなんのことを言っているのかちょっとよくわからない、というところがあって、本当に話していて人柄がいい人、というのを一番に選んでいる、という気がしています。
その人と話していて、自分自身も自然にいられる人とかそんな嘘つかなくてすむ人を選んでいるような気はしますが。どうですか中島さん、この話を聞いて?(会場笑)
中島
笑 いやまず、キャスティングしていただいたことはすごい光栄でしたし、嬉しかったですね、濱口さんの作品も拝見してましたし、面白い作品でした。
そうですね、僕もそう思ってますね。俳優をやってるとオーディションとかに行く機会が多いので演技をすることがあります。
オーディションというよりもやっぱり、監督やプロディーサーの方と友達になりにいくぐらいのつもりで行ったほうが向こうの人柄もわかるし、自分の人柄も相手にわかってもらえるから、というところで信頼関係が結べて決まるとかの方がいいと思っているので。
監督がおっしゃる通り演技の上手下手とかもそんなによくわからないし、撮り方とかでどうにでもなるだろうみたいなところとかもあるから、僕もこれまでのキャリアとかもやっぱりこの人と一緒にいたら楽しそうだな、この人の映画好きだなみたいなところから始まっているので、濱口さんにそう言っていただけてすごく僕としても共感できるな、という気がしています。
神谷PD
ありがとうございます。本当に、いい声。。(会場笑)
ちょっと、質問が多すぎて私のタブレットでは追いきれない感じになってるので、舞台袖の助けを借りようと思います。
フィルメックス・スタッフ
すでに40分以上お時間をいただいておりまして、脚本についての質問をいくつかいただいているので、少しまとめて伺ってよろしいですか?
濱口監督
はい。
フィルメックス・スタッフ
脚本は喋りながら書くのですか?というのがひとつ。
それから、もう一度のシチュエーションはどんなことから発想されましたか、という質問。
さらには、着想を得られたきっかけを教えてください。などが上がっています。よろしくお願いします。
濱口監督
まず、喋りながら書きません。一切。だって、タクシーの中の会話とか、僕が喋りながらだったら気持ち悪いとは言わないけど人には見せられない。喫茶店とかでは書けない。
基本的には本当に黙々と書いている。黙々とあんなものを書いているわけですよ。
で、まあその分本読みってのをたくさんやるんですけど本読みの時に実際に声を出していただいて、例えば言いづらそうだな、なんかちょっと違和感を感じてそうなところをおかしくないですか?とか、聞きながら直していくみたいなことをよくします。
人によってはそんなことに役者を使うな、完成させてこいよ、という人もいるかもしれませんけど、実際に喋っていただかないとわからない、ということはあるので喋ってもらって本当に違和感があるのは無くしたり消したりしてます。
そして、着想。着想はですね。もう本当に細かなところというか。
第1話なんかは一番最初に喫茶店の隣のテーブルでタクシーでやってるような会話をしてる女性二人がいたと。
で、ははあ、と。よくある話なのかわからないけれども、彼がどうとか、ちょっと気になってるみたいなそういう話をしていてこの話をしているような人達の、今それをふんふんと聞いてる女性がいて、この女性の元彼がその人だったら、今話してる人だったらどうなんだろうみたいなところから発想が広がっていくていうところがあります。
第2話なんかは、大学教授の知人がいて、最近は扉は開けておかなきゃならないんだと。
それはそのハラスメントの問題というものがあって、隠す、ということがそもそも望ましくないし、開けておいた方が自分を守ることになる、という話をされていて、それが現代というものかと。
そういうことを問題視しながら、そこから話が広がっていくというところがあります。
それから、『もう一度』のこれは本当にエスカレーターの出会いっていうのは、一回やってみたかったと。
人生の中でエスカレーターですれ違う瞬間ってありますよね。あれってなんか、結構なんとも言えず味わい深いというか、今、目があったのだけど自分とは関わりのない力で離されるみたいなところが映画的だなと思ったので、そういう細かいところから発想しています。
中島
どこで書いてるんですか?
濱口監督
あの、家か喫茶店。
中島
喫茶店の会話が参考になったりするんですか?
濱口監督
そうそう、そうです。これは本当に喫茶店はかなり宝庫というか時にやっぱり人生が渦巻いている。だから自分も喫茶店で話すときは誰かの人生を、隣の人の人生を変えるつもりで話している。(会場爆笑)
中島
笑 すごい気合いで話してるんですね。
濱口監督
そういう感じです。
神谷PD
ありがとうございます。
ズームレンズに関する質問がいくつか来ていて、各話に必ず一度あるズームレンズの演出はどのように出てきたアイデアですか?というものです。
濱口監督
第1話はこれは、中島さんと玄理さんが移動するためです。
あの、第1話のズームをしてる間に中島さんと玄理さんが戻って。
ワンカットでやってるので、玄理さんが喫茶店を怒って出ていって中島さんが必死で追いかけたあと、ギュイーンとズームを追うとまあ画角が狭くなるので映らないスペースが多くなってその間に中島さんと玄理さんがフレームの下の部分をたったかと走ってきていてギュインと引いたらまた最初から、という。本当にあれは大変だったと思うんです。
中島
いや、大変ではないですけど。僕、観て驚いたのはこんな早いズームなんだと。西部劇みたいな。なんかジワー、みたいな間にごそごそ動くんだろうなと台本上では想像してたんですけど。結構びっくりしました。
濱口監督
その、時間を作るための発想なんですけど。概していうとやっぱりそのなんていうんですかね。自分の作ったものをだからいいっていうのもそんなばかばかしい話。ある程度ばかばかしい話だと思っているんですけれども。
とは言えその中にも信じてほしいものってあるんですけれども。ズームってものを使うとそのバカバカしさが極限まで行く。というような感じってのは持っていまして。
それで最大限もろくなった映画を観客の皆さんに支えていただこうと。このばかばかしい映画をそれでも信じていただけますか、そういう気持ちで使っているところがあると思います。
神谷PD
ありがとうございます。
もうひとつキャスティングに関する質問が来ていて、特に監督の作品に出演歴のない役者さんを選んだ時に考えられたことを教えていただきたいです。
濱口監督
やっぱりその新しい出会いというのは常に求めているというか。
今回、メインのキャストの方は8人いて4人は今までやったことがある方と。パッションという映画に出ていたりとか。で、4人は今回初めての方。なんですが、中島さんなんかは元からワークショップで会って興味があってというところがあるんですけれども。
その、まあなんというか初めての方とやるのはやっぱりドキドキしますよね。どうなるんだろうみたいな。ある種の不安というものもあるし、でもすごくうまくはまった時の喜びっというのはでかいものがあると思います。
ずっと何度も繰り返しやってる人とはまたもっと細かい楽しみというかですね、こういう風に最近やってるんですね、こういう風に今なってるんですね、多分向こうもそう感じてると思うんですけれども。
そういう感じなんですけどやっぱりその新鮮さみたいなもの。思ってもなかった方向に映画を持っていってくれるという感じはすごくあります。なので常にそういう出会いは求めている。一方でもう1回一緒に仕事をしたいと思う方もいっぱいいるので、そういう人と仕事をする機会にしても今後もこういう風に作っていけたらと思います。
神谷PD
はい、ありがとうございます。
ではあの、再び舞台袖の助けを。質問が多すぎてちょっと整理しきれないので。
フィルメックス・スタッフ
はい、こちらの方でいくつか整理しました。まずは濱口監督はリハーサルや本読みを重ねるとよくお話しされてますけれども反対に何度も繰り返さず、1テイク目を使うということはありますか?というお話があります。
それと俳優さんとの絡みで難問かまとめてお聞きしてよろしいですか?
濱口監督の作品は俳優の方があまり激しい演技をしない印象を受けます。それはなぜでしょう?というのと、あと最初のエピソードの最後、古川さんが写真を撮りますがなぜですか?中島さんの役は難しかったと思うのですが、どんなてんに注意をされたでしょうか?という質問をいただいています。
濱口監督
中島さん、先に答えを。
中島
ああ、はい最後の。難しかったんだっけな?(会場笑)いやなんか役の難しさというよりも本読みを経てやっていってどうなるんだろうと。
難しさとも違うんですけど今までやったことのない準備の仕方だったので。それがどうなるんだろう?という。
まあでもそんなに心配もしなかったですけど、でもワクワク感はありましたよね。リハの結果どうなるんだろうというような。
濱口監督
演じた手応えみたいなものですか。本当に何回も何回もやりましたけど。どう思ってたんですか?
中島
やっぱり、すごくリハを繰り替えしてっていうのもその、古川さんと延々と台本を読み合わせていくっていう作業をして一緒に覚えていくっていう作業だったんですけど。
普段だったら自分で録った声を聞きながら覚えるんですけど。でもそれとはやっぱり違う台本、テキストの入り方をしたような感じがして。本当にすごいなんだっけ?とかならない。セリフが。すごい楽な状態でセリフが扱えるような。
なんだろう、普段、無意識でやるような作業ってあるじゃないですか。コーヒー淹れるとか。服着替えるとか。
そのぐらいのレベルの扱いにまでセリフがなったから、すごくその場で起きることのコミュニケーションもリアクションできるし、それを返せる。というような状況になれたっていうのは、すごく新鮮でしたし、その後やっぱりそれぐらいセリフ入れなきゃダメだと思ってとことんセリフやるようになったんですけど、なんかあれとはやっぱり違う。
もうちょっと浅いのかな、という感じ。すごく有効な時間だったんだなって感じました。
濱口監督
ありがとうございます。基本的に本読みやるんですけど。何度もやるんですけど、本読みやるのは感情をフレッシュに保つためというのもあるんですよね。
感情込めて本読みやってしまうと感情の方向性が決まってしまうし、感情のフレッシュさというものもなくなってしまうと思っているので1テイク目とかはすごく大事です。
実際にその映画の中でも1テイク目が使われているということはすごくあります。ただその撮り方として、だいたい最初から最後まで撮っていて一つのポジションではその全てを撮りきることはできないですよね。基本的には。
ある場所にポンとカメラを置いて、それで中島さんと古川さんのシーンなんかは動き回ったりするのである場面ではものすごく遠かったり、ある場面ではよく捉えられていたりするということがあって、この1テイク目が撮れました。
その時に、撮れてないアングルを押さえとかなきゃいけない。
もう一回最初から最後までやってもらうと。本読みをしてていいと思っているのは、何度やっても落ちない。
というか新鮮さがなくなってしまうっていう感覚あったりするんですけど役者さんが主体的に見つけていくというか段々段々、そのシーンを重ねながら役者さんたちがこういうシーンなのかっていうことを作っていくという感じがあって、終わって違う感じになっていくんですけれどもそれは全部使い出があるというか。
編集で繋いでみるとひとつの時間に見えるものではあるのですごく生き生きとした時間というものが常に流れているような感じ。ということを思っています。
中島
リハでは、本読みでは要するにどうやるかってゆうことを見せないでただ淡々と入れていく作業なので、実際本番日、撮影の日になるまで相手がどうやるか、自分がどうやるかっていうのは明かされていないので何だろう、だからこそ新鮮な演技にもなるだろうし、そういうリハをやってない普通の現場だと段取りとかで結構手こずるんですよ。
セリフが出なかったりとかも全然ありますし。この動きどうするとかでかなり時間を食ったりするので、そういうところがかなりスムーズになってる状態なのでもっとその場のコミュニケーションとか感情とかの新鮮さというところを反映できるんだと思いました。
濱口監督
ありがとうございます。いい事ばかりじゃないですか(会場笑)あとなんでしたっけ。
古川さんが撮る写真のことですよね。あれは2019年の12月に撮ったんですけれども、オリンピックの前。
1年延期しちゃいましたけど。渋谷が再開発している状況で渋谷に親しんでいる人はわかると思うんですけれどもああいう渋谷ってなかなか見たことがなかったというか全部が開けたような。
そういう状況ってほとんど見たことがなくって、あのポジションを見つけたときに古川さんのその時の状況とかこれから起こりそうなこととかスクラップアンドビルドみたいな、これからこの人の人生ができていく感じとつながっていくんじゃないかということでああいう終わりになりました。
神谷PD
ありがとうございます。音楽に関する質問をいただいていて、シューマンのピアノ曲を選んだ理由を教えてください。
濱口監督
そうですね。あの、いい曲だから。(会場笑)
なんていうんですかね。シューマンの「子供の情景」の「見知らぬ国と人々について」がオープニングで流れているんですけれども。本当にシンプルなすごく優しいメロディなんだけれどもどこか不穏なところもあって、本当に短い2分ぐらいの曲なんだけれども繰り返し繰り返し聞ける曲だなとずっと思っていて。
この短編集を作るっていうことになった時にこの音楽をかければ短編集色々感情のアップダウンあるんだけれどもこの音楽をかければすごくなんていうんですかね、フラットに観れるというか感情をなだめてくれるというか観るための準備をしてくれる音楽だなと思っていて。毎回その話の始まりにこれがかかってます。
で、シューマンすごくいいなと思うようになったので。「トロイメライ」という曲とか、一番最後の「森の入り口」ていう曲とか使っています。
神谷PD
はい。ありがとうございます。
舞台袖にまたお願いします。
フィルメックス・スタッフ
はい。もう最後の質問になるかもしれませんが。撮影の飯岡さんに関する質問をいただいています。
今回、飯岡さんを撮影に起用された理由を、また美術や衣装などスタッフはパパッと入れ替わるのに対して、飯岡さんは統一して起用された理由はなんでしょうか?という質問です。
濱口監督
飯岡幸子さんという方が撮影してくださっていますが、飯岡さんは大学院の先輩でもあるんですよね。
1年先輩なんですけど。本当に、素晴らしいカメラマンなんですが。これまでも、一緒に何度か仕事をしてきたんです。その時、飯岡さんはだいたいBカメとして来てもらっていたんですよ。
『ハッピーアワー』とか『親密さ』っていう映画では飯岡さんに来てもらってやっていたんですが、がっぷり四つでやるっていう感じではなかったんですが、ただ、飯岡さんていう方は見ていただくとわかるんですが、なんかですね、すごく安心できる方なんです。
この人の前で演技をするとか、この人のカメラの前に立つっていうのはすごく負担がないことなんじゃないかなということを思える方で、フィルメックスでも『春原さんのうた』っていうので撮影されていて、まだ本編は観ていないんですけど予告編観るだけでも素晴らしいのでぜひ自分も観てみたいと思っているので、なんかすごくこの人の前で演じるの楽なんじゃないかと思える方だったのでずっとやってみたいなと思っていたんです。
で、まあやっぱ一つの眼というかカメラマンていうのは監督の眼になってもらうというか作品の眼になってもらうというところがあるのでバラバラの話なんですけれども一人のカメラマンに撮ってもらうということはとても大事かなあということでその3本通してやってもらいました。
ちなみに中島さんが飯岡さんカメラ、飯岡さん撮影に関して何か感じてたことありますか?
中島
撮り終わった後に、すごい濱口さんに「飯岡さん、どうでした?」て聞かれたのがすごい印象に残っていて。
おっしゃる通りすごいなんだろう、居心地のいいというか安心感もあるし。なんか怖いおじさんよりは(会場笑)怖いおじさん多いので撮影の監督。
存在感のある、なんだろう、別にそれが怖くて何か変わるわけではないんですけど。
でも飯岡さんはそうですねすごいおっしゃる通り安心感もあるし。僕は『春原さんのうた』の前には『ひかりの歌』とか観て他のですごい撮影かっこよかったので普通に一緒にやれて嬉しかったです。
濱口監督
本当にその場にあるもの全て受け止めるような撮影をされる方なんですよ。
その場で起きたことを足したり引いたりしない。
本当に、あるものを撮りますよ、ていう感じの。どーんとした感じのとても素晴らしいカメラマンだと思ってます。これからもお仕事、一緒にしてくんないかなって思っている感じの方です。
神谷PD
ありがとうございます。あの、『春原さんのうた』残念ながら売り切れかもしれないですが、公開もされると思うのでぜひご覧頂ければと思います。
まだ全然延々と続けられそうなんですが、残念ながらお時間がきてしまいましたので、この辺で終了とさせていただければと思うんですけれども。
この作品は12月17日金曜日にBUNKAMURA CINEMA他にて全国順次公開予定となっております。それとですね、先日あの濱口監督と黒沢清監督のスペシャル対談というものを東映さんの方で収録させていただきまして、そちらはすごく突っ込んだ話をしていただきましてとても面白いものになっています。
濱口監督
すごい大事なことを言い忘れていました。あの、黒沢清さんは「中島さんて人は佐分利信みたいだね」って。(会場笑)
※佐分利信は昭和を代表する二枚目スター。松竹の看板俳優として活躍した名優。
中島
本当ですか!?
神谷PD
映画祭期間中に公式サイトにアップできると思いますので、あわせてご覧いただければと思います。
中島
絶対見ます!
神谷PD
それでは、本日はありがとうございました。
濱口監督・中島
ありがとうございました!
会場一斉に拍手。
Awards:
- 第71回ベルリン国際映画祭:銀熊賞(審査員グランプリ)受賞
『偶然と想像 / Wheel of Fortune and Fantasy』(2021年・日本・2時間1分)
監督:
濱口竜介
出演:
古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉
©2021 NEOPA / fictive