徒歩旅行をしながら小説を書いた男のドキュメント『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』
劇映画だけでなく、オペラの演出やドキュメンタリーも手がける鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督の最新作は、自分の足で歩く旅をしながら小説を書いた孤高の作家ブルース・チャトウィンの足跡を辿るドキュメンタリー
Story:
旅人で作家のブルース・チャトウィンは、幼少の頃、祖母の家のガラス張りの飾り棚にあった“ブロントサウルス”の毛皮をきっかけに、先史時代や人類史に関心を抱いた。
美術品の蒐集家、考古学の研究生、ジャーナリストと、様々なフィールドで非凡な才能を発揮したチャトウィンが最終的に選んだのは、自らの足で旅をしながら小説を書く人生だった。
南米を旅し、デビュー作「パタゴニア」を書き上げたチャトウィンは、その後、アボリジニの神話に魅せられ、中央オーストラリアを旅した。
当時は不治の病だったHIVに感染し、自らに訪れる死を悟ったチャトウィンは、死に近づいたアボリジニが生を受けた地に帰還するように、自らの死に方を探りながら「ソングライン」を書きあげた。
映画は、一枚の毛皮から始まったチャトウィンの旅がユーカリの木陰の下で終わるまで、その過程で交差した人々のインタビューを交えながら、全8章、ヘルツォーク監督自身のナレーションで綴られていく。
Behind The Inside:
死の直前、ブルースは自分のリュックサックを親交のあったヴェルナー・ヘルツォークに託した
ヴェルナー・ヘルツォークと長く親交があったブルース・チャトウィンは、死の直前に旅の友であった自身のリュックサックをヘルツォークに託したという。
そして、30年の年月が経過し、ヴェルナー・ヘルツォークは、ブルース・チャトウィンのドキュメンタリーを撮るために彼の足跡を辿る旅を始めた。
1993年、ヘルツォークは、まるでブルース・チャトウィンに影響を受けたかのような重病の友人の見舞いのためにミュンヘンからパリまでの840キロもの徒歩旅行を一冊の本にした「氷上旅日記―ミュンヘン‐パリを歩いて」を執筆している。
日本に置き換えると東京から広島までの距離として、宿泊しながら一日10時間歩いてもざっと16日間はかかる長旅である。
その道程でヘルツォークが達した心の境地が記されている。
ブルース・チャトウィンという稀有な作家の存在もさることながら、アマゾンの奥地にオペラハウス建設を夢見、巨大な船を皆で引っ張り、押して、山越えをするというスペクタクルをCGもない時代にやってのけた『フィッツカラルド』(1982年)で知られるヴェルナー・ヘルツォークという鬼才もまた孤高の人である。
『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡/Nomad: In the Footsteps of Bruce Chatwin』(2019年・イギリス・1時間25分)
監督:
ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:
ブルース・チャトウィン、ヴェルナー・ヘルツォーク(インタビューとナレーション)
© SIDEWAYS FILM