人類 v.s. A.I. 最後に生き残るのはどっちだ?『ザ・クリエイター/創造者』
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)で、スピンオフにも関わらず”SW史上最高の物語”と絶賛され、その名を轟かせた監督ギャレス・エドワーズ。
ギャレス書き下ろしの完全オリジナルの最新SF映画は、人間とA.I.との絶滅を賭けた壮絶な闘いを描いた叙事詩を内外から演技派俳優を集め完成させた。
荒唐無稽なSF映画ながら、深い人間味とインテリジェンスすら感じさせる意欲作。
Story:
遠くない未来、人が創り出したA.I.が核を爆発させ、ロサンゼルスは焦土と化す。
その後10年間、人類とA.I.の戦争は激化していった。
元特殊部隊兵で、妻・マヤ (ジェンマ・チャン) が失踪中の孤独な男ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、人類を滅ぼすことができる謎の兵器を創り出した”クリエイター”を暗殺するという重大な密命を帯び、敵のアジトを突き止め潜入する。
だが、そこにいたのは超進化型A.I.の少女アルフィー(マドリン・ユナ・ヴォイルズ)だった。
一見、無垢な子供にしか見えない彼女の命を奪うことなどできないジョシュアは、その少女アルフィーを自分の命を賭けて守る。
だが、やがて衝撃の真実が二人を待ちうけていた。
Behind The Inside:
他のハリウッド監督にはない多種多様な熱意を感じさせる型破りなギャレス・エドワーズが描いたSF世界
ギャレス・エドワーズはVFXアーティストとしてキャリアをスタートさせた。
だが、50万ドルという超低予算にも関わらず世界中で無許可撮影ロケを行い、映画と関係のない通行人が沢山映り込んだシーンをそのまま映画として完成させた自主映画精神溢れるSF映画『モンスターズ/地球外生命体』(2010年)が映画ファンのみならず批評家からも注目され、幸先の良い長編映画監督デビューを飾った。
その後、ギャレスのキャリアはジャンプ・アップし、渡辺謙が出演した『GODZILLA ゴジラ』(2014年)を手がけ、『スターウォーズ』アンソロジー企画の映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)のメガホンを取ることになる。
このスターウォーズのスピンオフ映画が絶賛され、世界的にストーリーテラーとして高評価を受けたギャレス自身も次回作の選択を慎重に考え、オリジナルSF作品の映画化企画を温め、本作に結実している。
本作を作る上で参考にした映画も『地獄の黙示録』(1979年)、『バラカ』(1992年)、『ブレードランナー』(1982年)、『AKIRA』(1988年)、『レインマン』(1988年)、『殺し屋たちの挽歌』(1984年)、『E.T.』(1982年)、『ペーパー・ムーン』(1973年)とバラエティに富んでいる。
そして特筆すべきは、撮影に関してで撮影監督は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を撮り、『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)では、アカデミー賞撮影賞を受賞しているベテラン、グリーグ・フレイザーと新進気鋭の撮影者、オレン・ソファーの新旧二人が担当。
そして、これだけのエピック・ストーリーであるのにメインの撮影機材は、ソニーのFX3というカメラ・ボディだけであれば50万円ほどで手に入るエントリーレベルの映画撮影用カメラということが大きな驚きである。
軽量で機動性の高いFX3を駆使し、時にはギャレス自身もカメラを回しながら、撮影は進んだ。
その時の模様がメイキング映像に記録されている。
ステディカムやリグに乗せられているカメラがハリウッドの作品としてはとても小さいことが撮影の様子でよく分かる。
予算のためなのか? 監督のギャレスにも演出しながら片手間で回せるハンディなカメラが欲しかったということなのか?
絶えずカメラを回し続ける撮影現場であったようであるし、映っているカットで使えるカットは積極的に使うといった主義で進められたドキュメンタリー撮影にも似た現場のように見える。
本作は全体的にワン・シーン・ワン・シーンのトーンが暗いので使用されたソニー製デジタルカメラのコンシューマー商品の性能を見ての通り、暗部に非常に強いメーカー製なのでFX3を使用したのかは定かではないが、撮影監督があのデューンを撮ったオスカー受賞者のグリーグ・フレイザーであるだけに本作の撮影ポリシーに関しては興味は尽きない。
そして本作の本編映像に関して、非常に残念なニュースが世界で流れた。
映画の宣伝初期に流された予告編に入っていたロサンゼルスが核で爆破され街が吹き飛ぶ映像が2020年に起きたレバノン、ベイルート港爆発事故の映像を拝借してデジタル加工したものだとする告発You-Tube映像が物議を醸したのだ。
実際の事故では200人もの命が失われ、7000人もの人々が重軽傷を負い、瞬時にして50万人もの人々が住む家を無くした。甚大なダメージを与えた大爆発事故であった。
世界で知らぬ者はいないこの悲劇を映した映像を使って映画のシーンに転用したという疑いが持たれたので大問題に発展したのだ。
検証映像を見ると本編映像は全く同じ映像を元にしてデジタル加工したとしか思えない。
製作元も配給を受け持つ20世紀スタジオを傘下にもつディズニーもノー・コメントを貫いているが実際のところはこのことが事実なのかは深い霧の中となっている。
4K、8Kでホーム・ビデオのみならずニュース・フッテージも撮影できる昨今、こうした行為が映画の都ハリウッドでまかり通っているなんてことはないのだろうか?
仮にこれが事実だったとしてもVFXアーティストが作業時間短縮のために勝手にやったということでクビになって幕引きされるのがオチであろうが、本来であれば、これぞいわゆるギャレスの監督不行届というやつなのではないのだろうか?
しかし、よくぞこの疑惑の映像に気づき、You-Tube上で検証してくれたと感心するしかない。
完成した日本国内公開待機中の作品には罪はないが、世界に名だたるクルーが関わってだけにモヤモヤする一件ではある。
『ザ・クリエイター/創造者/The Creator』(2023年・アメリカ・2時間13分)
監督:
ギャレス・エドワーズ
出演:
ジョン・デヴィッド・ワシントン、マドリン・ユナ・ヴォイルズ、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイ、渡辺謙、スタージル・シンプソン、アマール・チャーダ・パテル、マーク・メンチャカ、ロビー・タン、ラルフ・アイネソン、マイケル・エスパー、ヴェロニカ・ゴー、イアン・ヴァーダン、ダニエル・レイ・ロドリゲス 他
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