21世紀の前衛と称されるスペイン、カタルーニャ出身の異才アルベルト・セラ監督。様々なアートフォームで表現活動をし、既存の物語のレールを奇想天外な着想で易々と踏み外し続けてきた彼の最新作は、犯罪映画を匂わせる映像形式で描く開放的で楽園のような南の島の男の愛と妄想にフランス政府による核実験を差し込んでくる大胆な陰謀系トロピカル・スリラー
Story:
舞台はフランス領ポリネシアの楽園のような島、タヒチ。
島で強い影響力を持つ高等弁務官のデ・ロレール(ブノワ・マジメル)は、シャナ(パホア・マハガファナウ)や退廃的なナイトクラブを経営するモルトン、クラブのダンサーらと享楽的だが、どこか冷めた目で島の成り行きを見守っていた。
約30年ぶりにフランス政府がポリネシア近海で核実験を再開することが明らかになってくるに従い、島の住民有志と対策会を開き、なんとしても核実験再開を阻止しようと動くのだが・・・。
Behind The Inside:
セラが目指した世界観は、往年の陰謀系ポリティカル・スリラー映画の衣を羽織った別モノの何か
天国のようなパラダイス・アイランド、タヒチ島の高等弁務官のデ・ロレール(ブノワ・マジメル)は、フランス政府が約30年ぶりに近海で核実験をするということから気が気ではなくなってゆく。
若い頃と比べ恰幅がよくなり、風格ある弁務官役のブノワ・マジメルが核実験再開阻止へ動くが、成り行きを静観しているようにも感じられる様子がミステリアスで陰謀系ポリティカル・スリラーの核心的な不気味さを演じている。
こうした政府による陰謀系のポリティカル・スリラー映画は、まるでアラン・J・パクラ監督がウォーターゲート事件を扱ったの70年代の大傑作『大統領の陰謀』(1976年)やフランシス・フォード・コッポラ監督の一人の有能な盗聴屋が職業柄、疑心暗鬼に囚われ、自分自身が崩壊してゆく様を描いた『カンバセーション…盗聴…』(1974年)といった往年の名作映画を思い起こさせる。
アルベルト・セラ監督は、そうした忘れかけてきたジャンル映画をトロピカルで陽気な光の下、フィルム・ノワール仕立てで再生し、さらに彼らしい着想を吹き込み、陰謀系トロピカル・スリラーに仕上げたのだ。
『パシフィクション/Pacifiction』(2022年・フランス・スペイン・ドイツ・ポルトガル・2時間45分)
監督:
アルベルト・セラ
出演:
ブノワ・マジメル、パホア・マハガファナウ、マルク・スジーニ、セルゲイ・ロペス 他
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