間違いなく20世紀映画界の異才『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』
60年代、フランス映画界で革新的な映画運動「ヌーヴェ ル・ヴァーグ」を先導した鬼才ジャン=リュック・ゴダール。
独自のスタイルを探求し、唯一無二の映像作家として時代を駆け抜け、映画を愛する者たちから崇拝され続けてきたJLGが生み出してきた140本以上の映画作品。
2022年9月、91歳でこの世を去った映画界の異才の反逆の作家人生と長く隠遁生活を送ってきた謎の多いその人となりに迫ったドキュメンタリー。
Story:
2022年9月13日、91歳で自ら選択した安楽死によりこの世を去ったジャン=リュック・ゴダール。
紛れもなく20世紀の映画作家で最も影響力を持った映画人の一人であった。
フランス映画界で革新的なヌーヴェル・ヴァーグの旗手の一人として、活躍してきた彼の初期の代表作『勝手にしやがれ』(1960年)、『軽蔑』(1963年)、『気狂いピエロ』(1965年)から『ゴダールの映画史』(1988年-1998年)までゴダールが切り開いてきた時代を築き上げた作品群を参照しながら、貴重な映像とインタビューで綴るゴダールとはいかなる人物だったのかを紐解くドキュメンタリー。
Behind The Inside:
真のイノベーターであった映像作家JLGが行き着いた映画への思い
「物語には始まりと中盤、終わりがあるべきだが、必ずしもその順序に従う必要はない」
ジャン=リュック・ゴダール
この一言に影響された世界の映画監督は枚挙に遑がない。
ロバート・アルトマン、マーティン・スコセッシらニューヨーク派の映画監督、そしてゴダールの代表作、映画『はなればなれに』の原題”bande a part”を自らの製作プロダクション名に冠しているクエンティン・タランティーノや近年ではポール・トーマス・アンダーソンといったアンチ・ハリウッドともいえる映像作家たちである。
皆、映画の劇中の時間構成を巧みに再考した作品を作ってきた。
映画への様々なアプローチを試みてきたJLGであったが、2000年代になり、全編ホームビデオで撮影した映画『愛の世紀』(2001年)を発表する。
70歳を目前にして、映画作りの上で重要なカメラをあえてホームビデオで撮影し、その特性を楽しんで作ったビデオアートのような一風変わった実験的作品となった。
映画製作の潮目がツールから変わったことで映画そのもののあり方や立ち位置に疑問を抱き始めたのかもしれず。
筆者は『愛の世紀』がコンペティション部門で正式上映されたこの年のカンヌ映画祭へTV取材で赴き、ゴダールをビデオカメラのモニター越しにつぶさに見ていたが、公式上映時のレッドカーペットの階段をゆっくりと登ってゆくその姿はかなり老けこんだように思ったことを覚えている。
そして、当時のゴダールはスイスで長く隠遁生活をしていただけに、彼のナマの姿を見ることは奇跡的なことで家宝になる、とフランス人撮影クルーが興奮気味に語っていたことが印象的だった記者会見場で、みな固唾を飲んで巨匠の口から発せられる言葉に聞き入った。
「かつて映画と認められていたような映画、映画館で上映されるたぐいの映画は今では姿を消しつつある。そうした映画は今では、テレビとともに別のなにかにかわってしまったんだ。そしてその別のなにかを見つけ出す必要があるわけだ」
ジャン=リュック・ゴダール
こうして、2011年の英紙ガーディアンのインタビューでは以下のように自らの考えを締めくくるかのように述べている。
「映画は終わりだ。携帯電話の登場により、今は全ての人が監督になった」
ジャン=リュック・ゴダール
革新的なアプローチで映画を更新し続けてきたJLGであったが、どの映画を観てもゴダールその人から発せられたものであり、スターが出ていても限りなくプライベートな想念や思想の映画であったという点で現代の動画投稿サイト、SNSで日常的に起きていることのある意味での原点の一つであったのかもしれない。
「私は自分に、「物語というのは、ひとが自分自身の外へぬけ出るのを助けるものなのだろうか、それとも、自分自身のなかにもどるのを助けるものなのだろうか?」という疑問をなげかけるわけです」
ジャン=リュック・ゴダール
絶えず映画というフォーマットや定義付けに疑問を呈し続け、作品の中に昇華させてきたジャン=リュック・ゴダールという映像作家の存在はこれからも忘れることはできない。
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)/Godard Cinema』(2022年・フランス・1時間40分)
監督:
シリル・ルティ
出演:
ギヨーム・グイ(声)、ナタリー・バイ、クリストフ・ブルセイエ、ジュリー・デルピー、ロマン・グーピル、マーシャ・メリル、ハンナ・シグラ、マリナ・ヴラディ、ジャン=リュック・ゴダール
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