退廃と爛熟の極み。「グレート・ビューティー 追憶のローマ」
21世紀の “ La dolce vita ”
吸い込まれるように美しくも、どこか不安を煽るような歌声と共に物語は幕を開ける。
緑のガリバルディの丘、正午を知らせる礼砲の響き、真昼の空の青を映すパオロの泉、銅像の足元に刻まれた“ROMA O MORTE”(ローマか死か)の文字。滑るようにローマの名跡を次々と映し出していく始まりは息をのむほどに美しい。
“ 甘い生活 ”のマルチェロの30年後のよう
ローマと同じく人生の黄昏時を迎えた作家のジェップ。65歳になりながらもなお享楽的な生活を送る彼は、内心そんな生活にも周囲の人間にも飽き飽きしていた。
ジェップは成功者であり、コロッセオを眼下に見下ろす高級アパルトマンに一人で住んでいる。彼の昼夜を問わぬ生活と共に映し出される陰影に富んだローマの美しさ。人気もまばらな早朝の川辺の道、教会の中から澄んだ眼差しを向ける尼僧姿の少女。
出逢うものすべてを清濁問わず飲み込んできた偉大なるローマに住んでなお、ジェップは彼の求める“大いなる美しさ”に出逢えずにいた。
ある日、初恋の人の訃報が届く。彼の時間は巻き戻され、閉じられていた扉が開き始める。
自らを“俗物の王”と自嘲するジェップはマルチェロのその後を彷彿とさせる。
長らく停滞していた自らの内奥に目を向けた時、ジェップは再生への一歩を踏み出す。
“永遠の都”ローマに入り込み、偉大な歴史が作り上げた美しさに浸りながら悩めるジェップの傍でこの物語を味わうことをおすすめする。
最初から最後まで、全ての瞬間がじっくりと醸された酒のごとく味わい深く美しい映画をぜひご覧ください。
Awards:
- 米・アカデミー賞・外国語映画賞
- 米・ゴールデングローブ賞・外国語映画賞
- 英・英国アカデミー賞 非英語作品賞
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(2013年・イタリア・フランス・141分)
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:トニ・セルヴィッロ、カルロ・ヴェルドーネ、サブリナ・フェリッリ、
ジョヴァンナ・ヴィニョーラ、ルカ・マリネッリ、
マッシモ・ポポリツィオ、ファニー・アルダン
© 2013 INDIGO FILM, BABE FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(LA GRANDE BELLEZZA)