『雨降って、ジ・エンド。』群青いろ・髙橋泉、廣末哲万に聞く自主映画作りにおける彼らの現在地
ささくれだった孤高の自主映画ユニット、群青いろ・髙橋泉、廣末哲万が17年ぶりに作った劇場公開映画は今までと何かが違う!
ジャンル映画の世界で商業ヒット作を何本も手掛け、シャープでリアル、そしてまるで海外の映像作家のようなリズムを感じる複雑なストーリー構成技術を武器にしてきた脚本家、髙橋泉。
そして、群青いろの片割れであり、なくてはならない重鎮の俳優、廣末哲万。
連続して公開される最新作『雨降って、ジ・エンド。』(2020年)と『彼女はなぜ、猿を逃したか?』(2022年)は、観客ではなく自分たちが観たい映画を作り続けてきたという硬骨な自主映画製作のスタイルに変化の兆しが散見される2作品である。
髙橋泉監督、出演の廣末哲万への最新作についてのインタビューを通し、世界でも類のない唯一無二な輝きを放ち続ける自主映画ユニット群青いろのパンドラの箱の中を覗き見る。
Story:
派遣のバイトをしながら写真家を目指す今どきの若者、日和(古川琴音)は、どうやったらSNSで自分の写真がバズるのかあてどもなく試行している。
職場の上司、ムツミ(新恵みどり)のハラスメントに振り回されながら同僚の先輩、栗井(大下美歩)と共に力を持て余す日々であった。
ある日のこと、急な雷雨を逃れ飛び込んだ空き家の店、そこには先客がおり、同じく雨宿りをしていたピエロのメイクをした雨森(廣末哲万)と運命的に邂逅する。
その時、偶然に写した雨森の写真をSNSに投稿したところ、その一枚が理由もなくバズって気をよくする日和。
何が何でもプロの写真家としてブレークしたい日和は、藁をもすがる気持ちで雨森を被写体にして作品撮影をしようと一大決心する。
街頭で50円玉を風船につけて、道行く人々に配る雨森と再会し、撮影モデルになってくれるよう懇願することに。
ピエロ姿の雨森を日々、写真撮影し、作品点数を増やしてゆく日和であったが、最初は被写体として、利用してやろうという思いだけだったのが、徐々に彼女の心の中に変化が訪れる。
だが、訳ありそうな雨森には、やはり人には絶対言えない許されない秘密があったのだ・・・。
折角、友好的に築いてきた日和と雨森の関係であったが、脆くも崩壊寸前であり、撮り溜めてきた日和の写真プロジェクトも暗礁に乗り上げそうな気配となってゆく。
まるでカメレオンのようにさまざまな感情と表情を繰り出してくる古川琴音の凄さ
Q:古川琴音さんを初めて観た『偶然と想像』(2021年)でも彼女にしかできない勢いのある演技と存在感に驚かされました。本作の日和役は、まるでカメレオンのように目眩く表情が変わる感じでした。彼女をキャストされて撮ってみて、髙橋監督はどう思われましたか?
髙橋泉:「主演の古川琴音さんは、本作出演当時は主演は短編1本くらいの経験だったと思うのですが、主演の演技経験が少ないのに最後まで(テンションは)”落ちなかった”ですね。
主役を演じるということは難しいことなので撮っていると大体、一番テンションが高かった演技のような見たことがある表情がもう一回出てきてしまったりするものなのです。
琴音さんの場合は、質問の中で「カメレオンのようだ」とおっしゃいましたが、まさにその通りで最後まで色んな角度の感情や表情をして見せてくれて、飽きることはなかったですね。
演技を見ていて、この演技は以前、見たことあるなといったことは一切起こらなくて、彼女は本当に凄かったなと思います。」
Q:日和を熱演した古川琴音さんにとって、宝物のような作品となったのではないのでしょうか?共演されていかがでしたか?
廣末哲万:「まさに僕らにとっても彼女との出会いは宝物のような日々でした。
そもそも日和役を選ぶにあたってオーディションさせてもらったのですが、最後にやってきた琴音さんにセリフを一節読んでもらったのです。
そうしたら、もう脚本から飛び出て来たかのようなトーンとその存在が凄くって、琴音さんのおかげで作品が一段も二段も思いっきりカラフルでポップになったと思います。」
「世界はこんなにもカラフルです!」日和の最後の一言に心を突き動かされた監督
Q:群青いろが作る映画は、髙橋さんと廣末さんの二人が観るだけでいいというお考えだと2年前にフィルメックスでお聞きしましたが、本作は多くの観客に観て欲しいという趣旨の発言をされていますが、それはどういった心境の変化なのでしょうか?
髙橋泉:「本作の作り始めの頃は、これを観たいと思っていたのは、(いつものように)僕と廣末くんだけでした。
最後のセリフ「世界はこんなにもカラフルです!」を機材のアクシデントで録れていなかったのでアフレコをしたのですが、琴音さんが本番の時と同じ勢いでこの最後のセリフを言った時に僕の中で響いてしまって、この一言はいい言葉だと強く感じてしまったのです。
そこからこの作品をもっと観て欲しいと考えるようになリました。ただコロナ禍もあり、すぐには公開できなかったのです。
今、自分はこんなことで悩んでいるとか、今、こういうことで喜んでいるとか、自分の気持ちを誰かに話せば話すほどカラフルになっていくんじゃないかなと。
自分で抱え込まないで多くの人にではなく誰か大切な人だけに話せばいいんじゃないのかなと思うのです。
互いに嫉妬はするが、一度も喧嘩をしたことはないコンビ
Q:群青いろとして、ずっと仲良くやってきたのですか? 喧嘩とかしないのですか?
廣末哲万:「喧嘩はないんですよね。(笑)
お互い監督した作品に嫉妬して、喧嘩みたいな形になったことはあるんですけど。
でも、もう一緒にはやってられないっていうことになったことはないのです。」
そこに青空はない、廣末哲万による唯一無二な群青色に染まった世界
Q:廣末さんの演技は突っ走ってますよね。
廣末哲万:「それもまぁ、群青いろで撮っているということが凄くデカくて。
(髙橋さんが)信頼して見てくれてる、受け入れてくれてるという土壌=信頼関係があるから自分も勇気を持って色んなことができる、チャレンジできるんだと思います。
他の現場で(あの演技を)やったら、何やってるの?とか言われちゃいそうです。
色んな(演技の)可能性があるはずなのに、何がNGなんだよ?って、思っちゃうんですよ。
その間口の広さを高橋さんは凄く持ってくださってるのです。」
群青いろ結成23年後もむき出しの情熱は冷めることはない
Q:廣末さんから見て商業作品の脚本で活躍されてきた高橋さんの経験や技術によって群青いろの映画が変わってきているとか、影響はあるのでしょうか?
廣末哲万:「勿論、(高橋さんの脚本の)テクニックとか、格段に上がったんでしょうし、ただ、群青いろで書いているものは、変わらず剥き出しのまんまの情熱で書いている感じがします。
脚本の中には(高橋さんが)培ってきたものが散りばめられていて、初期の頃はリアルっていうものを素直に撮っていたんですけど、それを徐々にファンタジーやフィクションの部分を強めていっている遍歴はあるように思います。」
好きな映画と出会うと観る者を世界が祝福していると感じられる
Q:様々な形でじわじわとレヴォリューションが起きて、時代ごとに魅力を失わないのが映画だと感じるのですが、高橋監督にとって、映画とはどんなものですか?
髙橋泉:「何か伝えたいことがあるからどの作品も生まれているのだと僕は信じていますけどね。
でも実は僕は映画を全然、観ないのです。
勿論、20歳くらいからは沢山映画を観ましたが、30歳くらいからほとんど観なくなりました。
ですので、観る側としての映画は自分の中ではもう存在しません。
でも昔は全ての映画は自分のために作られていると思っていました。
きっと皆んなそうだと思うのですが、何を観てもこれは 僕のことを考えて作ってくれたんじゃないか?って考えていました。
ですので若者が僕が作った映画や脚本でもいいですけど、作品を観た時にこれは自分のために作ってくれたんじゃないか?って思ってくれると嬉しいです。
自分のことが一番、大切であると感じるのは正しいことであるし、映画を観て自分のことを世界が祝福してくれてるって思うのは絶対、よいことだと思うのです。
インタビュアー:塚本修史
『雨降って、ジ・エンド。/Amefutte The End』(2020年・日本・1時間24分)
監督:
髙橋泉
出演:
古川琴音、廣末哲万、大下美歩、新恵みどり、若林拓也 他
配給:カズモ