パク・チャヌク6年ぶりのロマンティック・スリラーにして、まさかの最高傑作『別れる決心』
韓国の鬼才パク・チャヌク監督、6年ぶりの最新作!
ある不審死を捜査する内に捜査線上に浮かんだ謎めいた未亡人に翻弄されてゆく刑事の迷走を描くロマンティックなクライム・スリラー
Story:
几帳面で物腰柔らかいが、切れ者の捜査のプロ、刑事ヒィジャン(パク・ヘイル)は、山中でのある不審死を根気強く調査していた。
捜査線上に浮かんだのは被害者の妻であり、謎めいた魅力を放つシィオリ(タン・ウェイ)だった。
Behind The Inside:
パク・チャヌク監督6年ぶりの最新作!にして、最高傑作の予感
『お嬢さん』(2016年)以降、長編映画のメガホンを取るのは実に6年ぶりという韓国の鬼才パク・チャヌク監督が、ロマンティックなクライム・スリラーで帰ってきた。
チャヌク監督独特の美的な映像話法を駆使しながら、登場人物の心理描写や一つ一つの場面にこだわって撮影されている。
緻密でスタイリッシュな絵作りで知られるパク・チャヌク監督は、映像に関して、まさに並々ならぬ情熱があり、日本での劇場公開用の予告編も『オールドボーイ』(2003年)でその作風を気に入った予告編制作会社のディレクター氏に依頼し続けるなど、そのこだわりは、映画界でも群を抜いている。
筆者は『親切なクムジャさん』(2005年)のソウル郊外で行われていた撮影現場へほんの数時間であったが、伺ったことがある。
側から見ていてヒリヒリするほどの集中力で撮影されていて、それが時に魔術的でさえあるパク・チャヌク独特の画になるのだろうと、その源泉を垣間見た気がした。
一旦は、『イノセント・ガーデン』(2013年)でハリウッドでの監督デビューを果たしてはいたが、この数年間、語学も堪能な若き才人ポン・ジュノ監督の快進撃の陰に隠れていたような印象があった。
まるで黒澤明の継承者が韓国から現れたと話題となったポン・ジュノ監督の初期の傑作『殺人の追憶』(2003年)と『オールドボーイ』(2003年)の2本の映画、実は撮影期間が被っており、『オールドボーイ』撮影中の主演チェ・ミンシクをロケ現場の近隣で『殺人の追憶』撮影中の刑事の衣装のままのソン・ガンホが表敬訪問した時の有名なハプニング写真があるが、監督としては大先輩のパク・チャヌクの背中を見つめながらポン・ジュノが追いつき、追い越して行ったのであろう。
第57回カンヌ国際映画祭で『オールドボーイ』には審査員特別グランプリが授与されたが、パルム・ドールはあの年の話題をさらったマイケル・ムーアのドキュメンタリー『華氏911』に持って行かれ、審査委員長を務めたクエンティン・タランティーノは、「本当は『オールドボーイ』にパルムを差し上げたかった」と苦渋に満ちた異例のコメントを残した。
タランティーノ自身、『パルプ・フィクション』(1994年)のパルム・ドール受賞と現在のハリウッドで謳歌している商業映画監督としての盤石のキャリアは直結していることを痛いほど理解しているはずで、そんな意味合いもあったのではないのだろうか。
15年間監禁され続けたオ・デスの5日間の復讐譚『オールドボーイ』は、確かにそれほど才気に溢れた作品であったのだ。
因縁を感じさせるが、『殺人の追憶』で重要な役どころで出演していたパク・ヘイルが主人公を演じる本作『別れる決心』はカンヌでも監督賞を受賞し、すでにアカデミー賞国際長編映画賞・韓国代表作品にも選ばれている。
あれから20年の時を経て、今度はパク・チャヌク監督自ら、カンヌでのリベンジをアメリカの晴れ舞台で果たす時が巡ってきたのかもしれない。
Awards:
- 第75回カンヌ国際映画祭:コンペティション部門・監督賞・パク・チャヌク
『別れる決心/Decision to Leave(原題)』(2022年・韓国・2時間18分)
監督:
パク・チャヌク
出演:
タン・ウェイ、パク・ヘイル、コ・ギョンピョ、イ・ジョンヒョン、パク・ヨンウ
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