
髙橋泉と廣末哲万による映像ユニット「群青いろ」の最新作は実話ベースのポップなサイコロジカル・ストーリー『彼女はなぜ、猿を逃したか?』
映像ユニット「群青いろ」が放つ待望の最新作は、高校生が動物園の猿を逃がしたという実際にあったニュースを元に高橋泉監督が脚本を練り上げた。動物園の檻を壊して猿を逃がしたことから、誹謗中傷に晒されてしまう女子高生の真実を探り始めるルポライターの優子だったが、取材を進めるうちに彼女の精神は乱されてゆく・・・

Story:
ルポライターの優子(新恵みどり)は、動物園の檻を壊して猿を逃がし、器物破損罪で逮捕された女子高生・未唯(藤嶋花音)の取材を始める。
憶測に基づいた批判記事や誹謗中傷に晒されていた未唯。
彼女を擁護するために真実を突き止めようとする優子だが、徐々に彼女の精神の均衡は崩れていってしまう。
その様子を映像制作者である夫(廣末哲万)は、静かに見守っているように見えたが・・・。
Behind The Inside:
活動歴21年の筋金入りのインディーズ・フィルム・ユニット「群青いろ」
2001年、高橋泉が廣末哲万と共に活動を開始した映像ユニット「群青いろ」。
第26回ぴあフィルムフェスティバルグランプリ受賞、第23回バンクーバー国際映画祭のドラゴン&タイガー・ヤングシネマ賞を受賞した『ある朝スウプは』(2003年・監督/脚本/撮影/編集/出演:高橋泉、出演:廣末哲万)で高橋は長編初監督作を飾った。

同じ年のぴあフィルムフェスティバルでは、廣末が監督・主演を務め高橋が脚本を担当した『さよなら さようなら』(2003年)が準グランプリに輝き、「群青いろ」の作品が1位と2位を占めるというレアな快挙を成し遂げている。

以来、自主制作にこだわり、高橋は監督、脚本家として、廣末は監督、俳優として互いに支えあいながら歩み続け、ロッテルダム国際映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した『14歳』(2006年・監督/出演:廣末哲万、脚本:高橋泉)、他 20数本の映像作品を生み出してきた。
高橋泉は商業映画の脚本家としてもキャリアを広げており、第37回日本アカデミー賞 優秀脚本賞受賞作(監督白石和彌と共同受賞)『凶悪』(2013年)、『朝が来る』(2020年)、『東京リベンジャーズ』(2021年)『仮面ライダーBLACK SUN』(2022年)他、多くの日本映画、ドラマでその類まれな人物描写の才能の片鱗を垣間見ることができる。
本作では、高橋は、現実に起きた動物園の猿を高校生が逃がしたというニュースからインスパイアされ、一見シンプルだが、どんでん返しまで用意されている複雑な構造のオリジナル脚本を執筆し、廣末が主人公の一人である夫を演じている。
高橋は、脚本を書き上げた時点で大体の演出は終わっていると述べ、撮影現場では、出演者の一人である廣末が司令塔のようになり、高橋の意志を現場に広めるように自身が演じて、他の出演者へ浸透させてゆくという。
編集は、廣末監督作品のファンを自称する高橋がラフに編集したものを元に廣末がさらに細部の編集をするという風にポスプロ作業が続き、ここでも高橋から廣末への絶大なる信頼からなる連携プレイで作品を形作っていっているのがよく分かる。
Must Point:
テンポよく練り込まれたストーリー、ユニークな演者たちの凄み、カメラワークの妙技

高度なストーリー・テリング、狂気すら感じる演者たち、それらをフィルムに定着させる絶え間なく目を奪い続けるエッジの効いた撮影。
この映画にはインディペンデント映画が元来、伝承してきたスピリットが今も息づいていることが驚異的であリ、今となってはクインテッセンスとも言えるこうした自主映画的カラーでスクリーンを塗り込める「群青いろ」は、世界中のフィルム・メーカー、そして映画ファンがもっと瞠目すべき存在である。
- 第23回東京フィルメックス:メイド・イン・ジャパン部門にて正式上映
『彼女はなぜ、猿を逃したか?/Why Did She Let the Monkeys Loose?』(2022年・日本・1時間38分)
監督:
高橋泉
出演:
新恵みどり、廣末哲万、藤嶋花音、萩原護
© 群青色 2022