
ひとりの男が泥でつくる不思議な塔。やがて、それは命を持ちはじめる『ダム』
その土地の記憶を映し出す「泥」でひたすら建造物を造る男。次第にそれは造り手である男に多大な影響を及ぼしはじめるようになる

Story:
ナイル川の大規模ダムがある、とあるほとりの村。
そこには川で生まれた泥と水で日干しレンガを作る職人たちがいる。
そして、職人たちの中に休みになると村を抜け出して泥の塔を造り続けている男がひとり。
やがて彼が作り続ける不思議な泥の塔は、独自の生命を獲得していき、男は自らが造った塔に幻惑されていく。
本作が長編デビュー作というレバノン出身のビジュアル・アーティスト、アリ・チェッリによる壮大なテーマを内包する魅惑的な寓話。
Behind The Inside:
監督はヴェネツィアの美術ビエンナーレ(2022年)で銀獅子賞を受賞したアーティスト

アリ・チェッリはベイルート生まれでパリ在住のビデオアーティストであり、映画作家でもある。
フィルムやビデオ、彫刻やインスタレーションを組み合わせた作品は、歴史的なナラティブの構築を検証しており、ロンドンのナショナル・ギャラリーでアーティスト・イン・レジデンス(2021年、2022年)、第59回ヴェネツィアの美術ビエンナーレ(2022年)で銀獅子賞を受賞している。
本作はチェッリ監督の短編映画『The Disquiet』(2013年)『The Digger』(2015年)とともに三部作のうちの一作である。
三部作に共通する主題は「大地」であり、地理的に暴力行為があった地域を選んだそうだ。
その暴力があったという要素が大地や水に溶け込み、人の一部となって歴史を形作っていく、そういったことを切り取って見せることで、社会・経済・歴史的にその土地のことを理解する入口となるような作品を目指した、とチェッリ監督は語っている。
「ダム」は革命下のスーダンで撮影されており、本作で登場する泥の建造物は監督自身が造っている。
また、脚本のクレジットにはベルトラン・ボネロ監督(『メゾン ある娼館の記憶』(2011年)『SAINT LAURENT/サンローラン』(2014年))も名を連ねており、メールで意見を交わしながら脚本に磨きをかけていったとのこと。
主要なモチーフの塔はアーティストでもある監督自身の作品であり、そして全くタイプの違う監督の意見も取り入れながら作られた本作。
常に新しく芸術性の高い作品発掘には定評のある東京フィルメックスらしい作品といえるだろう。
Awards:
- テッサロニキ国際映画祭:ベスト・アーティスティック・アチーヴメント受賞
- 第23回東京フィルメックス:コンペティション部門正式出品作品・スペシャル・メンション受賞
『ダム/The Dam』(2022年・フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール・1時間20分)
監督:
アリ・チェッリ
出演:
マヘル・エル・ハイル