
2021年の軍事クーデター以降、世界から忘れられた国の人々の魂の叫び『ミャンマー・ダイアリーズ』
2021年にミャンマーで起きた軍事クーデター以来、軍部の圧政に喘ぐ市民のため、若手作家たちが手を組み匿名で映画を作り、世界へ現在の情勢を届ける”ミャンマー・フィルム・コレクティブ”。
昨今の香港でも奏功した映画の力によって、世界へしっかりとメッセージを届けるという手法で製作された。
この命懸けのドキュメンタリー映画は、ベルリン映画祭パノラマ部門にて上映され、全部門の出品作品中、最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した渾身の一本。

Story:
長年に渡り、民族紛争と内戦に巻き込まれ続けてきた東南アジアの国、ミャンマー。
10年かけて民主化に向け、市民にとっての自由と発展のための変革が続いたが、2021年軍事クーデターが勃発し、軍部はアウンサンスーチー国家顧問と大統領を拘束し、非常事態宣言が発せられた。
反発する民衆による大規模デモが全国で起きるが、一人の少女の死がキッカケとなり、軍部による弾圧行為が激化する。
ネットは定期的に遮断され、情勢を世界に伝えることが困難となり人々の生活は世界から忘れ去られてゆく。
軍部に都合の悪い情報をSNSやメディアから発信する者は処罰の対象になる中、若手ミャンマー人の作家たちは、匿名で”ミャンマー・フィルム・コレクティブ”を結成する。
映画はミャンマーに縁のあるオランダ在住プロデューサーらの支援のもと制作された。
10名の映画監督によるそれぞれの日常を記録した短編映像、市民がSNSに投稿した動画を編集し、抑圧される日々から解放されたいと切実に願う人々の魂の叫びを紡いでゆく。
Behind The Inside:
市民による抵抗を意味する3本の指
本作の中でも市民が抵抗を示す時に行うジェスチャーである人差し指・中指・薬指の3本指を立てるハンドサイン。
3本の指は、
- 感謝
- 敬意
- 追悼
を意味する。
軍部への抗議のためにとるこのポーズは、ジェニファー・ローレンス主演の大ヒットSFアクション『ハンガー・ゲーム』(2012年)でジェニファー演じるヒロインが弔いのためにこの3本の指立てハンドサインをしたことがメディアに乗って全支配地域の人々に伝わるという象徴的シーンで知られる。
『ハンガー・ゲーム』の中でも3本指を立てるのは支配された市民たちが絶対権力を持つ独裁者へ立ち向かう時にとるポーズである。
タイや香港の雨傘運動でも抵抗のサインとして使われ、後にミャンマーでも広く伝播していった。
ハリウッド映画から始まったこのユニークなサインは、現実世界でも同じ意図で使われている。
しかも、ミャンマーの人々にとって、世界に届いて欲しいと願う切実な思いが込められているのだ。
Awards:
- 第72回ベルリン国際映画祭・パノラマ部門出品:ベルリナーレ・ドキュメンタリー賞(全部門のドキュメンタリー映画から選出される最優秀作品賞)、アムネスティ国際映画賞
- エルサレム国際映画祭・シャンタル・アッカーマン賞(優れたエクスペリメンタル・ドキュメンタリー作品へ与えられる賞)
- バイオグラフィルム・フェスティバル・国際コンペティション部門・観客賞
- ドキュフェスト国際ドキュメンタリー&ショート・フィルム・フェスティバル・ヒューマン・ライツ賞
『ミャンマー・ダイアリーズ/Myanmar Diaries』(2022年・オランダ・ミャンマー・ノルウェー・1時間10分)
監督:
ミャンマー・フィルム・コレクティブ
© The Myanmar Film Collective