これは悪夢か、正夢か? シュールなファンタスティック・コメディ『ドリーム・シナリオ』
もしも他人の夢に自分が登場したら?
ニコラス・ケイジが演じるごく平凡な生物学教授がある日突然、数えきれないほどの見知らぬ人々の夢の中に登場する夢男となる悲喜劇。
シェアすることで人が繋がってゆくSNS全盛の現代社会を揶揄するメタファーであるかのような、あまりにもシュールでオカルトチックなコメディ!
夢で会ったことで親近感が湧き、あっという間に超有名人となり、本人が望んでもいない想像を絶する大スターとなってしまった男がその果てで思い知ることとは・・・?
Story:
生物学の教授でうだつの上がらないごく平凡な男ポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、友人や知り合いの夢の中に頻繁にポールが登場するという説明のつかない不思議な現象に遭っていた。
ポールの元恋人のジャーナリストは、この怪現象を記事にしたいと言い出す始末。
そして、徐々に世界中の人々の夢の中にポールが登場していることが明らかになる。
一夜にして世界中の人々に知られる存在となり、人気者となるポールだったが、中には悪夢やエロティックな夢にも登場することでポールの身辺に不安な影を落とし始めてゆく・・・。
Behind The Inside:
奇想天外なストーリーの元ネタは実際の出来事
クリストファー・ボルグリ監督は、リサーチ中に読んだカール・ユングがユング心理学の中で唱えた個人的な無意識にとどまらず、個人を超え人類に共通して存在しているとされる集合的無意識という非科学的で常識はずれのコンセプトに強く影響を与えられ、本作脚本を執筆している。
だが、本作と似たような事象は、実際に起きている。
2006年、ニューヨーク、奇妙な男が夢の中に頻繁に現れることを悩んだある女性が心療内科を訪れる。
そして夢の中の男の顔を覚えてしまった女性は医師と共に夢男の似顔絵を作成するとその夢男が医師の周囲の人々の夢の中にも次々と現れていることが分かり、試しにネットで似顔絵を掲示し「この人を夢で見たことはありませんか?」と投げかけると、驚いたことに世界中から数千件の返信が寄せられた。
この謎の夢男の存在は瞬く間に世界中で話題になり数年間に渡って、世間の話題をさらうことになった。
だが、後にこの夢男の存在は、集団心理と都市伝説がいかにして拡散されてゆくのかを観察するための広告宣伝会社によるゲリラ・マーケティングのフェイク・ストーリーであることが判明し、夢男の話は一気に幕を閉じてしまう。
本作は、明らかにこの夢男のフェイク話が元ネタであり、クリストファー・ボルグリによる絶妙なコミカルでシニカルな演出とニコラス・ケイジのとぼけた演技により、ストーリーの先行きが読めないオカルトチックなファンタジー作品として見事に完成した。
Under The Film:
120本近くの出演作を誇るニコラス・ケイジにとってのマイ・ベスト・ムービー
先日、今後はプライベートを大切にし、俳優業からリタイヤする旨のコメントを発したニコラス・ケイジ。
フランシス・フォード・コッポラを叔父に持ち、初期の頃こそコッポラ作品で名を馳せたが、その後はアクション、恋愛もの、ドラマなど、120本近くのバラエティ豊かなジャンルの映画に出演してきた。
そんな俳優をやり尽くした感のあるニック・ケイジが組みたかった人々とタッグを組み作り上げた3本の作品がある。
映画『PIG/ピッグ』(2021年)、『マッシブ・タレント』(2022年)、そしてモダン・ホラーの新たな騎手アリ・アスター監督が製作のA24作品に初めて出演した『ドリーム・シナリオ』(2023年)の3本が彼にとってのキャリアを超越した最高のお気に入り作品であるとするメタ・トリロジーであり、引退するには絶好の機会であると公言している。
輝かしいキャリアを終え、本当にリタイアするのか否かは、今後の動向次第であろうし、本作『ドリーム・シナリオ』の成功いかんとも言えよう。
『ドリーム・シナリオ/Dream Scenario』(2023年・アメリカ・1時間42分)
監督:
クリストファー・ボルグリ
出演:
ニコラス・ケイジ、リリー・バード、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ、ノア・センティネオ、アンバー・ミッドサンダー、ティム・メドウス、ディラン・ゲルラ、ディラン・ベイカー 他
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