理由もなく終末へと突き落とされるサイコロジカル・スリラー『終わらない週末』
ラミ・マレック主演の人気テレビ・シリーズ『ミスター・ロボット』の気鋭のクリエイター、サム・エスメイルがルマーン アラムによるベストセラー小説『終わらない週末』を映画化!
何故、こんな事態となっているのか、原因が何も分からず、政府の動きも全く掴めず今後はどうなってゆくのか?
ネットが繋がらず情報から遠ざけられることで自覚するサイバー攻撃の恐怖を描く近未来に起こりうる極上のモダン・スリラー。
不安と恐怖ばかりが醸成されてゆく超絶リアルに感じられる本作の製作総指揮は、何と、バラク&ミシェル・オバマ元大統領夫妻である。
シネフィルで知られるオバマ元大統領のシビアな眼が選んだ題材は未来に起こりうる悪い写し絵を誰もが既視感として感じとることを禁じ得ない。
Story:
気分転換にのんびりと週末を過ごしたいという妻アマンダ・サンフォード(ジュリア・ロバーツ)の突然の思いつきで夫クレイ・サンフォード(イーサン・ホーク)は、アマンダと娘のローズ・サンフォード(ファラ・マッケンジー)、息子のアーチー・サンフォード(チャーリー・エバンス)を連れ、一家はNY郊外の豪華な別荘を借りた。
買い出しに出かけたスーパーでは、近隣に住む男、ダニー(ケヴィン・ベーコン)が大量に缶詰や水、食料を買い込む姿を目撃し、不安を覚えるアマンダ。
野性の鹿が身近に現れ、アマンダたちに訴えかけるように凝視する。これは何かのサインなのか?
また家族で出かけたビーチでは突然、タンカーが浜辺に突っ込んで座礁する事故が起きる。
そして、誰が仕掛けたのか分からない謎のサイバー攻撃により、テレビは映らなくなり、インターネットは遮断され携帯電話もパソコンも使えなくなる予想外の不便な事態に。
夜になり、突然、ドアをノックする別荘のオーナーと称す男G.H.スコット(マハーシャラ・アリ)と娘のルース・スコット(マイハラ)の二人の訪問者。
彼らは非常事態から逃れるために自分の別荘にやってきたと言う。
彼らが言っていることは本当で実際の持ち主なのか?判断のつかないアマンダとクレイは不審に感じたが仕方なく彼らを家に招き入れるのだった。
NYの都市部から離れ、隔絶されたエリアで起こる不気味な現象の数々はその後も続き、何かの理由で世界は崩壊を始め、生命の危険を感じ始める事態となってゆく。
一体、何が起ころうとしているのか・・・。
そして、6人は生き延びることはできるのか・・・?
Behind The Inside:
ヒッチコックを思わせるスリラー作りのケミストリー
サム・エスメイル監督は、非常に知的なシニカルさと同時に空想的な独自の映像言語を持ち合わせている。
例えば、別荘のマスター・ベッドルームの絵画は、時間を追うごとに絵が変化するのだ。
現代画家のアダム・ホールによるこの絵画は、刻一刻と悪化する事態を象徴するかのように静かな凪から荒々しい高波へと徐々に変化してゆく。
リビング・ルームのロールシャッハ・テストのような絵画もまた登場人物たちの心の景色を映しているかのようにシーンごとに変化する。
この監督にとって映画の世界でいうコンティニュイティ=シーンの繋がりなどという常識はないに等しい。
そして、サム・エスメイルは、かなりのヒッチコック狂なのではないのだろうか?
ストーリーの全体を通して、一体、どのようなことでこんな事態となったのかの説明を敢えてしないでどんどん進行する構成であったり、浜辺に座礁する巨大タンカーの名前が最初にアフリカからの奴隷船と同じ名前のWhite Lion(白いライオン)といったように劇中に出てくるタイポグラフィーに含みを持たせるところとか、極め付けは、旅客機が浜辺に墜落し、砂浜に埋もれて遺体となっている機長の名札は、キャプテン・エスメイルである。
サム・エスメイル監督は自ら遺体役で登場しているのだ。これもまるでヒッチコック作品のようだ。
Under The Film:
至る所にオバマ元大統領の思いを感じる
本作のエグゼクティブ・プロデューサーは、驚くことにバラク&ミシェル・オバマ元大統領夫妻である。
様々なシーンで、製作総指揮をしたオバマさんの人間哲学のような思いを汲み取ることができる。
別荘のオーナー親子であるにも拘らず、”招かれざる訪問者”として、マハーシャラ・アリとマイハラが登場するが本編上では人種の違いについての言及はないが、アマンダとクレイの態度からやんわりとニオってくるのだ。
初めはギクシャクした関係性がストーリーを追うごとに災害時に互いに助け合う信頼できる関係に良好に変化し、最後にはアマンダとG.H.はダンスして抱き合うほどまでになるところが好ましく、ここに至るためのキャラクター造形なのだろうと感じられる。
またサンフォード家の息子、アーチーが着ているTシャツは、ストリート・アーティストのシェパード・フェアリーによるアンドレ・ザ・ジャイアントが描かれたOBEYのイラストで、オバマ元大統領が大統領選の時に活用したHOPEと書かれたポスター・デザインをシェパードが描いたことからのご縁といえそうだ。
スリー・ステップ理論に基づく現代の人間社会が転覆し崩壊する道筋、リアルに起こりうる悲劇的なストーリーが描かれた話題のベストセラー小説「終わらない週末」を『ミスター・ロボット』でその独自の才覚を示したクリエイター、サム・エスメイルによる願わくば避けて通りたい奇想の物語は、アメリカ人が根深く抱える人種間の問題が想像もしていなかった不測のパニック状態においても互いに助け合って、できることなら救われて欲しいという元大統領の願いが感じられるようでもある。
『終わらない週末/Leave the World Behind』(2023年・アメリカ・2時間13分)
監督:
サム・エスメイル
出演:
ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、マイハラ、ファラ・マッケンジー、ケヴィン・ベーコン、チャーリー・エバンス 他
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