『プロミシング・ヤング・ウーマン』（2020年）のエメラルド・フェネルによる脚本・監督最新作！
『嵐が丘』（1939年）のように土地の名をタイトルに冠し、近年の『パラサイト 半地下の家族』（2019年）やアラン・ドロンの名作『太陽がいっぱい』（1960年）、またふらりと現れた料理人が一族を籠絡して屋敷を乗っ取る『すべての人のもの』（1970年・日本未公開）を想起させる作品コンセプト。
フェネル監督自身のイギリスでの学生時代の思い出から、ハイソサエティな家族を破壊する一人の孤独な男の物語として書かれたシニカルでブラックなクライム・ストーリー。
Story:
2007年、イギリス東部の街、オックスフォード。
奨学金で名門校オックスフォードへ入学したオリバー・クイック（バリー・コーガン）だったが、同校ではセレブのような人気者である貴族のフェリックス・キャットン（ジェイコブ・エロルディ）を中心に金持ちエリートばかりの生徒たちには全く馴染めず、できた知人といえば数学マニアの変人マイケル（ユアン・ミッチェル）ただ一人であった。
ところがある日、フェリックスが通学途中に自転車がパンクしてしまい、彼が立ち往生しているところをオリバーが助けたところから二人の間で友情が芽生え、信頼できる友人関係を育んでゆく。
学期末の夏を迎えたものの、家族の問題を抱えているため休暇中に実家へは戻りたくないと言うオリバーを気の毒に思ったフェリックスは、オリバーに夏休みをキャットン家が保有する広大な土地、ソルトバーンにある豪勢な屋敷で過ごすことを提案する。
風変わりな上流階級の家族との奇妙で刺激的なひと夏の経験は、オリバーの人生を大きく変えることになってゆく。
Behind The Inside:
実際に存在する由緒あるカントリー・ハウスで撮影された本作
舞台となるソルトバーンは、イギリス、ノーサンプシャーにある古色豊かなカントリー・ハウス、ドレイトン・ハウスを撮影場所に使用している。
14世紀に建てられ、保存状態が最上級のグレードが冠されている美しいドレイトン・ハウスが撮影に使われたのは本作が初めてであり、普段は関係者以外は入場不可能である。
また劇中で登場する植栽で作られた迷路はドレイトン・ハウスの敷地内には存在せず、本作のために別途制作された。
この見事な回廊は迷路デザインの世界的な第一人者であるエイドリアン・フィッシャーによって作られている。
だが、迷路の全てを作り上げたわけではなく、実際にはミノタウロスの像が佇む迷路の中心のエリアと撮影のためのひと繋がりの回廊のみをセットとして作り上げたという。
それ以外の本作上の迷路はCG処理をしている。
Under The Film:
目を見張る演技を見せたバリー・コーガン
本作でエメラルド・フェネル監督が主人公にバリー・コーガンを据えて描いたのは、平凡な青年が上流階級の一族を乗っ取るまでを描くピカレスク・ロマンである。
この主人公オリバー・クイックの名前の元ネタは、おそらくかの有名なオリバー・ツイストであり、語感から当初は、オリバー・スウィフトであったハズだ。素早いを意味するスウィフトだとあまりにもツイストを推測されやすいので同じ素早いを意味するクイックに変更したのは容易に想像できる。
何故、素早い→クイックなのかは、本編を観てのお楽しみである。
また、幼少時から13箇所もの孤児院を転々として、一時はボクサーを目指していたという生粋のアウトローな俳優バリー・コーガンは、撮影に入る前に週末になるとベルファストに滞在し、何杯ものビールを飲みながらリバプール訛りを会得したという。
演技をするという行為のネクスト・レベルを目指したと公言しているコーガンは、本作でカメレオンのように微妙に雰囲気と態度を変えた演技をするためにオリバー１、オリバー２、オリバー３といった感じでいくつものオリバーのキャラクターのバージョン違いを克明に書いたモールスキンのノートを事前に用意して、本番に臨んだという。
撮影一日の間で数タイプのオリバーを演じなければならない時もあったそうである。
元々、その佇まいはデビュー当時から性格俳優然としており、本作でも見事に演じ切っているコーガンであるが、一番緊張したシーンは、意外にもダンスのシーンだと述べている。
『ソルトバーン/Saltburn』（2023年・イギリス・アメリカ・2時間11分）
監督：エメラルド・フェネル
出演：
バリー・コーガン、ジェイコブ・エロルディ、ロザムンド・パイク、リチャード・E・グラント、アリソン・オリバー、キャリー・マリガン、アーチー・マデクウィ、セイディー・ソーヴラル、ポール・リス、ユアン・ミッチェル 他
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