息子で、弟で、恋人。誰かの“何か”だった彼がいなくなった後の物語。『トム・アット・ザ・ファーム』
主人公・トムの沈んだ心を映し出すかのようなどんよりとした空と果てしなく続くかに思われる一本道を走る1台の車。
悲しみに疲れ果てた彼がたどり着いたのは空っぽの農場。
まるで無人であるかのように思われる空虚感漂う家には、今は亡き愛する人の母親と、狂気を孕んだ兄が住んでいた。
壊れてしまった母親と、サディスティックで狂った兄
最愛の息子の死にどこか糸が切れてしまったかのような母親と、母親のためと言いながらトムに残酷な要求を突きつけるフランシス。
悲しみのどん底にいるトムの心を抉るフランシスに反発しながらも、亡き恋人の面影を見出し愛憎入り交じる感情に翻弄されるトム。
ケベックの広大な田園地帯の中、閉鎖的な田舎の農場で繰り広げられるフランシスとトムの歪んだ関係は、毒蜘蛛の巣に絡めとられた無力な蝶があがき、抵抗しながらも徐々に力を奪われ飲み込まれて行く様を思わせる。
常に喉元を締め付けられているかのような目が離せない展開の本作は、現代カナダを代表する劇作家ミシェル・マルク・ブシャールによる同名戯曲をカナダの若き天才、グザヴィエ・ドランが映画化。
「わたしはロランス」で世界にその名を知らしめ、「Mommy/マミー」でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン監督・主演で描く。
息詰まる濃密なストーリー展開はドラン監督のそれまでの作風を一変した意欲作にして最高傑作との呼び名も高い。
危うさと歪さの狭間に垣間見える官能的な美しさと、緊張感溢れるサイコサスペンスをぜひご覧ください。
『トム・アット・ザ・ファーム』予告編
Awards:
- ヴェネツィア国際映画祭・国際映画批評家連盟賞
『トム・アット・ザ・ファーム』(2013年・カナダ・フランス・102分)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ
© 2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma
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