第21回東京フィルメックス ・クロージング上映作品『天国にちがいない』エリア・スレイマン監督 リモートQ&A 全文掲載!
第72回カンヌ国際映画祭で特別賞及び国際映画批評家連盟賞をW受賞した名匠エリア・スレイマン監督
第21回東京フィルメックスでエリア・スレイマン監督の代表的な映画『消えゆくものたちの年代記』(1996年)、『D.I.』(2002年)、『時の彼方へ』(2009年)の3本が特集上映され、さらに最新作『天国にちがいない』(2019年)が日本での劇場公開に先駆けて栄えあるクロージング作品として上映されました。
上映終了後に市山フィルメックス・ディレクターの進行により行われたエリア・スレイマン監督とのリモートQ&Aを全文掲載します。
市山フィルメックス・ディレクター
まず最初に私からひとつ質問させていただきまして、その後場内からの質問に移りたいと思います。
前作から10年ほど期間が空いているかと思いますが、通常どのくらいの時間をかけて作品を作られていますか?
エリア・スレイマン監督
実はですね、新しい脚本を手がけるのにいつも時間がかかるんですね。というのも、まさに生きて、観察して経験をしてその蓄積ですね、それをですね、メモに書きとめて脚本に書くためのヒント、これが内容が満ちるまでという感じなので、時間がかかるんです。
もう一つ私の働き方というのはいわゆる時系列的に話が進むとかそういった脚本の書き方ではないですね。ですから、例えば画家のアトリエで200点絵画があって常に何かしら手を加えていると。そういったいわゆる進行過程、そういった形で私の作品は制作されます。
でもですね、私はこの10年の間に他の作品も撮りました。キューバでオムニバス映画を撮りました。そしてあと、私の作る映画のタイプというのは容易ではないんです。
というのもそれなりに資金は必要となるんですが商業的な回収というのはなかなか約束されていないからです。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございました。それではですね、続々質問が来ていますので、ここからは場内からの質問を代わりに読み上げます。
パリで非常に街の人が少なかったんですが、これは理由があるんでしょうか?
またこの少ない人達のシーンはどうやって撮影したんでしょうか?
エリア・スレイマン監督
皆さんそれを聞かれるんですけど、私自身も謎ですよ。なぜこういった絵が撮れたのか。(会場笑い)
言われたんですね、制作の皆さんはですね、ここは観光地でとても人が多いから、他の場所を選んでくださいと。
そうですね、ただなんというんでしょうね、黙示録的な雰囲気というのを呈したかったので街の中心で撮るんだということはそこは曲げなかったです。
実はそのために尽力してくれた方がいます。パリ市長のオフィス、つまりフィルムコミッションのような許可を出す担当者の方が私のやっていることを理解して非常に気に入ってくださったので、多大な協力を得ることができました。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございました。
じゃ次の質問はですね、雀が素晴らしい演技をしていますが、これはCGでしょうか、それとも雀の演技を待っていたということでしょうか?(会場笑い)
エリア・スレイマン監督
これはですね、複雑な仕組みがあるんですね、一部3Dで作ったものもあるんですが、一部は本当の雀で撮っています。
実は何ヶ月もかけてトレーナーが20羽をトレーニングしてくれました。そのうち2羽が非常に長けているということで私の元に来たんですが、私の依頼した演技をですね、2羽のうち1羽がとてもうまくやってくれたので、そちらを起用しました。ただ、実のところ3Dよりもリアルの雀の方が扱いやすかったです。(会場笑い)
ただ、ちょっと裏話をしますとこれは現実に基づいているんですね。私の妻が雀を持ち帰ったんです。家族を亡くしてしまった孤児の雀だったので。そして私の机の上においておいたんです。
そうしたら私が脚本を書いていると私のコンピューターにジャンプして乗っかってくるんです。
なので実際あったことに触発されてこのシーンは書きました。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございます。それでは、次の質問です。
初期の作品で音楽に『I Put a Spell on You』を使われていましたが、今回も別バージョンを使われていました。この曲にどんな思い入れがあるのでしょうか?
エリア・スレイマン監督
えーとですね、今回音楽もいろいろ探したんですね。何か合うものということで。であの、シーンに合う音楽を選んだということで以前に使ったものをまた使うということ別に自分は抵抗なかったですし、今回150曲ぐらいの中からシーンに合うものを選んで一番シーンにしっくりした曲だからということですね。
実際のところ『D.I.(Divine Intervention)』で使ったのはナターシャ・アトラスのバージョンでちょっとキッチュなというか俗っぽい雰囲気なので今回はちょっと違うバージョンのものにしました。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございます。
次はですね、日本人のカップルが出てくるシーンがありますがこれは何故このようなシーンを作られたのでしょうかという質問が来ております。
エリア・スレイマン監督
あの、撮影をしたのと全く同じ場所で全く同じことが起きたので、その時思いました。これは絶対映画に入れなくてはと。(会場笑い)
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございました。次ですが、日本で映画を撮りたいと思われませんか?という質問が来ております。
エリア・スレイマン監督
まぁこれで私のセンチメンタルの箱を開けてしまいましたね。今の質問で。皆さん後悔するかもしれません。というのも私は日本が大好きで、妻と2回日本を訪れています。今も日本に居られたらと思います。行きたいだけではなくて撮りたいところでもあります。
本当に一番お気に入りの国なのでそれのまた撮るということに関していうと、カメラをどこにおいても私の人生の見方に即した絵がそこに撮れる、そういうフレームが撮れるというのは例えば建築もそうですね、まぁこのリニアな並び方であったり、正に私にぴったりなので呼んでくださったら明日にでも行きたいという気持ちです。(会場笑い)
そしてもうこれマスタークラスなり取材でなり何度も言っているのでもうね、聞き飽きている人もいるかもしれませんが、私が何故映画を撮りだしたか、それは日本の巨匠、小津安二郎監督がいらっしゃったからです。
そして私が日本に降り立って、一番初めに行ったところは小津安二郎監督のお墓ですね。お墓参りです。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございます。
次の質問に移ります。監督の作品でいつもキャスティングを担当されているジュナ・スレイマンという方はドキュメンタリー作家ではないかと思います。この方は監督のご親戚なんでしょうか?という質問です。
エリア・スレイマン監督
姪っ子です。そうですね、確かにドキュメンタリー作家でもあります。
そして前作なりパレスチナだけで撮ったときは全面的にキャスティングディレクターだったんですが、本作に関していうならばロケーションが3つありますのでパレスチナのパートを担当してくれました。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、じゃ次の質問です。監督扮する主人公がいつもほとんどセリフがないキャラクターに設定されているんですが、これには何か理由があるのでしょうか?という質問です。
エリア・スレイマン監督
これはですね、戦略的というか計画的に自分が出て何も話さないと決めたわけではないんですね。
初めて短編を撮った時から自分で演じてこういう形になったんですけれども自分がカメラの前に立たなくてはというのは最初からわかっていました。
というのは私の映画は非常に個人的なことを綴っているからです。
一般的に私の作品はセミ・サイレント映画と言いますが、音は溢れているけれどもいわゆる人が話すセリフは少ないですね。それは私の自分の傾向として好みとして、イメージですね、映像の最大の効果を目指すために人が話す言葉を最小限にしている、ですから音のイメージによって人の言葉に頼らず作りたいという気持ちがあります。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、じゃ次ですね。ジョン・バージャーという方、この方はイギリスの作家だと思いますが、この方への献辞がありましたがその理由をお伺いしたいと思います。
エリア・スレイマン監督
そうですね、ジョン・バージャーに会ったのは私がまだ若い、本当に将来、自分が何をしたらいいのかわからない、決めていない時でした。
パリで偶然知り合って将来何をしたいんですかと聞かれて、「映画」とぽろっと言ったんですね。自分でも何をしたいかその意味を理解せずに伝えたのがきっかけです。
そしてそれ以降、彼は私の守護天使のようにずっと見守ってくれていて、彼の影響で色々本を読んで自分自身を見つめるということを始めました。
そして、常に応援してくれていて関係性は本当に家族のように続いていたんですね。クリスマスの時は一緒に祝うし、妻も彼とはとてもいい、本当に家族的な関係を持っていました。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、それでは次の質問に移りますが、森の中で主人公が遭遇する女性が頭の上に桶のようなものを乗せて行き来していましたが、彼女は何か祈りのようなものを捧げるような儀式をしていたのでしょうか?
エリア・スレイマン監督
彼女はですね、本当に私の記憶を辿った古い部分から描いた方ですね。
実は私の生まれたナザレでそこから10kmぐらい離れたベドウィンの村からヨーグルトを売りに来ていた女性なんですね。羊を飼っていてヨーグルトを作って頭にポットを乗せてふたつ持ってくるんですね。ですから正に映画で皆さんが観たようにこう一つを置いてまた戻って次を取りに行ってということを繰り返していたんです。
でこのシーンは本当に私の覚えているかつてのパレスチナの情景ですね。オリーブの木があってこういった女性がいてという。ですから私の郷愁に基づいて撮られたシーンです。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、大変残念なんですが時間が来てしまいまして、今までになく質問がたくさん来ていまして、50を超える質問が来ていまして、次が最後になるので何人かの方が聞いていらっしゃる質問を選びました。
題名の『天国に違いない』ですが、この題名につけられた想いをお聞きしたいと。特にこの天国というのは果たしてパレスチナのことという風に考えてよいのかという質問がありました。
エリア・スレイマン監督
いえ、あの天国はパレスチナを指しているのではないです。
これは世界がパレスチナ化しているということです。
この主人公は天国を探して移動するんですけれども結局世界中どこへ行っても問題がある。それはグローバル化であったりすぐに警察が何かあると稼働していろんなチェックポイントがあるような、そういったものが前提にあって、そして天国はやはり理想の場所であってきっとみんなが探し求めているところではないでしょうか。
だけれどもこのグローバル化といったもの、緊張、正に問題のない場所は結局ない、ということですね。
市山フィルメックス・ディレクター
はい、ありがとうございました。大変残念なんですが以上でQ&Aを終了します。
いつかスレイマン監督を機会があればぜひ日本にご招待したいと思います。そしてまた、新しい作品を近いうちに観ることを期待したいと思います。
皆さんどうぞスレイマン監督に大きな拍手をお送りください。
Awards:
- 第72回カンヌ国際映画祭 特別賞
- 第72回カンヌ国際映画祭 国際映画批評家連盟賞
『天国にちがいない』(2019年・フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ合作・1時間42分)
監督:
エリア・スレイマン
出演:
エリア・スレイマン、ガエル・ガルシア・ベルナル、アリ・スリマン
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
映画『天国にちがいない』公式サイト
この世界は、かくも可笑しく 愛おしい―。カンヌ国際映画祭W受賞 現代のチャップリンと称される名匠エリア・スレイマン10年ぶり最高傑作。1月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
2021年1月29日より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他
全国順次公開‼
第21回東京フィルメックス TOKYO FILMeX 2020