激変する中国を舞台にした愛と欲望のハード・クライムノワール『シャドウプレイ 完全版』
その物議を醸す作風から世界的な評価を得ている中国の鬼才ロウ・イエ監督最新作!
2013年、改革開放が進み官民の腐敗も広がった中国・広州市で起きた都市開発を巡る汚職事件の実話を下敷きに、80年代末から現代までの30年間を男女三人のドロドロの愛憎劇を軸として、若き熱血警官が運命の渦に飲み込まれながらも果敢に難事件の解決に挑むハード・クライムノワール。
息もつかせぬサスペンスフルな映像美と複雑な感情が入り乱れる人間ドラマの構成は圧巻である。
本作は2019年に東京フィルメックスのオープニング作品として上映されたバージョンに、検閲でカットされた5分間を追加した完全版となる。
Story:
2013年、広州の再開発地区での立ち退き賠償を巡り暴動が起こったその日に、開発責任者のタン(チャン・ソンウェン)が屋上から転落し、謎の死を遂げる。
事故か、他殺か。
捜査に乗り出した若手刑事のヤン(ジン・ボーラン)は、捜査線上に浮かぶ不動産開発会社の社長ジャン(チン・ハオ)の過去を調べ始める。
そして、ジャンのビジネス・パートナーだった台湾人のアユン(ミシェル・チェン)もまた謎の失踪で消息不明となっていた。
政府の役人タンの転落死と不動産開発会社の幹部であったアユンの失踪。
二つの事件を結ぶのは、ジャンと死亡したタン、タンの妻リン(ソン・ジア)が出会った、あの天安門事件が起きた1989年にあった・・・。
何者かの謀略でスキャンダルに巻き込まれ香港に逃れた刑事ヤンは、全ての謎の鍵を握る女性ヌオ(マー・スーチュン)と恋に落ちるが・・・。
Behind The Inside:
リアリティとダイナミズムが混在するロウ・イエ独自の映像世界
鬼才ロウ・イエ監督の下、役者たちはほぼノーメイクに近いメーキャップでリアルさを醸し出し、撮影も照明を極端に落として漆黒に見える影を生み出している。
またDJI製のドローンを都市部の鳥瞰、撮影禁止区域での暴動シーンやカーチェイスなどで空から降下させ各シーンにおいて移動する人物や車両を執拗に追尾するなど、手持ち撮影、ドローン、監視カメラを駆使したリアリティ溢れる物語となっている。
これらの撮影を担当したのは通称”第2のクリストファー・ドイル” とあだ名される1975年生まれのアメリカ人、ジェイク・ポロック。
彼はニューヨーク大学映画学科を卒業後、大の台湾映画ファンだったため、台湾へと移住、撮影技術スタッフとしての下積みの後、撮影監督となった。
ジェイクの手持ち撮影によるスタイリッシュで躍動感ある映像美は本作を象徴するアイコンとなっている。
ジェイクの近作は、ウォン・カーウァイがエグゼクティブプロデューサーを務め、カーウァイ作品のスチルカメラマンとして経験を積んできたウィン・シャが、ファッション・ブランドであるイヴ・サンローランの映像プロジェクトでメガホンをとったショートムービー『A NIGHT IN SHANGHAI』。
Reels:
本作は撮影終了後のポストプロダクション中、中国での公開一週間前まで2年間にも及んだ中国電影局の検閲で、いるべき主要な登場人物が全シーンカットされるなどズタズタにされながらもスキャンダラスで崇高な物語となった。
検閲のためなのか?苦肉の策にさえ感じられた猫の眼のように時世が入れ替わる編集方法により、各時代を鳥瞰するかのようなリアルなエモーションすら感じられる。
現代の中国を代表する映像作家ロウ・イエの新作は、コン・リー主演、オダギリジョー共演のスパイサスペンス作品が公開待機中で、次作も製作中と今後も精力的に活動するロウ・イエの映像作品からは今後も目を離せない。
Under The Film:
絶対に観るべき!『シャドウプレイ』の裏側を描いた迫真のドキュメンタリー『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』
2019年に開催された「第20回東京フィルメックス」では、検閲が入ったショートバージョンの本作『シャドウプレイ』上映と共に、ロウ・イエ監督の妻であり監督でもあるマー・インリーが『シャドウプレイ』製作中のドキュメンタリーを撮影、第56回台湾・金馬奨で初上映された作品に更に追加編集されたものが完全版として、「第20回東京フィルメックス」でワールドプレミア上映された。
ロウ・イエ監督は、かつて映画『天板門、恋人たち』で天安門事件を扱ったが故、5年間にも及ぶ映画製作・上映禁止処分を受けた。
本作『シャドウプレイ』をご覧になる方は、是非、このドキュメンタリー映画『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』も併せて観ることを強くリコメンする。
香港に逃れた刑事ヤンの捜査の手助けをする私立探偵アレックスを演じたエディソン・チャンの出演全シーンがカットされていたという驚くべき事実が判明する、中国電影局による再三に渡る再編集の過酷な要求や、ロウ・イエ監督の才気走った演出風景、監督の眼である撮影のジェイク・ポロックの仕事ぶりが存分に味わえる必見の内容となっている。
『シャドウプレイ 完全版』とその裏側を撮影したメイキング作品『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』の関係は、まるでフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』(1979年)と、病気や資金難など厄災にまみれても撮り続けた狂気じみたコッポラの演出風景を、妻のエレノアがまとめ上げたあまりにも凄まじいドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』(1991年)とその内容の衝撃度は、双璧に近いものがある。
※『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』上映は、『シャドウプレイ 完全版』上映の一部の上映館にて、指定日のみの上映となるため『シャドウプレイ 完全版』オフィシャルサイトの劇場情報でご確認ください。
『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ/Behind the Dream: A Documentary on the Shadow Play(原題)』(2019年・中国・1時間34分)
監督:マー・インリー
Awards:
- 第69回ベルリン国際映画祭:パノラマ部門正式出品作品
- 第20回東京フィルメックス・オープニング上映作品
- アジア映画批評家協会賞:NEPAC賞(最優秀助演男優賞・チャン・ソンウェン、録音賞・カン・フー、アクション監督賞・イー・マン・ロウ」、ブルース・ロウ)
- チャイニーズ・フィルム・メディア賞:最優秀主演女優賞・ソン・ジア、最優秀助演男優賞・チャン・ソンウェン、作品賞・ロウ・イエ
- ゴールデン・スクリーン・ライターズ・ナイト:最優秀脚本賞・チウ・ユージエ、メイ・フォン、マー・インリー
- 中国ムービー・ヒーローズ賞:アート・ディレクション賞・ジョン・チョン、編集賞・ジュー・リン
- フェロー諸島映画祭:最優秀助演男優賞・チャン・ソンウェン、最優秀助演女優賞・ミシェル・チェン
『シャドウプレイ 完全版/The Shadow Play』(2018年・中国・2時間9分)
監督:
ロウ・イエ
出演:
ジン・ボーラン、チン・ハオ、ソン・ジア、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン 他
© DREAM FACTORY, Travis Wei