
14年ぶりに復活した栄誉ある黒澤明賞を受賞した深田晃司監督受賞スピーチ全文掲載
最新作『LOVE LIFE』が現在公開中の深田晃司監督。海外での受賞歴と作品性から今後も海外での活躍が期待されることと、映画界のための精力的な活動も評価され、メキシコを代表する世界的な映画監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ氏と共に黒澤明賞を授与された

世界のクロサワの名を冠したいわば映画人のための功労と未来への期待を込めた賞
世界の映画界に貢献した故・黒澤明監督の偉大な業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出していくために、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞である黒澤明賞が実に14年ぶりに復活し、最新作『バルド、偽りの記録と一握りの真実』が公開待機中のメキシコを代表する映画監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ氏と現在、最新作『LOVE LIFE』が公開中の映画監督深田 晃司氏の2名に授与された。

深田晃司監督は、『ほとりの朔子』(2013年)で、第35回ナント三大陸映画祭 ・金の気球賞(グランプリ)と若い審査員賞をダブル受賞し、その後、『淵に立つ』(2016年)が第69回カンヌ国際映画祭・ある視点部門で上映され、審査員賞を受賞した。
新人発掘の場として名高いナントや世界三大映画祭の一つであるカンヌといった国際的な映画祭での高い評価も手伝い、フランスでの知名度は抜群に高く、作品によっては上映機会が日本国内よりも多いこともある。
そして、2018年にはフランス文化省 芸術文化勲章シュバリエ(騎士)が授与されている。
また国内では、新型コロナ・ウィルス感染拡大の影響で全国の映画館が営業自粛を余儀なくされ、経営危機に陥ったミニシアターのため、全国の小規模映画館支援のためのクラウドファンディング『ミニシアター・エイド基金』を映画監督濱口竜介と共に立ち上げ、支援した。
以降、現在に至るまで多忙を極めるはずの自身の映画を製作する傍で映画に携わる人々への目配りを決して忘れない姿勢は一貫している。
今回の黒澤明賞の受賞は、映画の未来を作る才覚にプラスして、映画に携わる全ての者たちがよりよい環境で従事できる映画界の環境作りへの惜しみのない提言と具体的な活動に対して、与えられた賞といえる。
華やかな授賞式の式典で多くの映画関係者が聞き入る中、深田晃司監督が勇気をもって発した映画に従事する人々と共になんとかして、現況を改善していきたいという熱き思いのスピーチの全文をこの機会に掲載します。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督受賞会見記事はこちら↓
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が16年ぶりに来日し、黒澤明賞を受賞!
深田晃司監督受賞スピーチ全文掲載

深田:映画監督の深田晃司と申します。今日は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督という先輩である偉大な監督と同じ賞を頂いたことにとても嬉しく感じています。
私は、黒澤明監督という大きな存在には遠く及ばないのは間違いないことだと思います。
今後への叱咤激励という意味だと感じて、これからも頑張っていきたいです。
私は10代の時から映画に取り憑かれるように好きになって、映画を観てきました。黒澤監督の映画は、『野良犬』を地元、小金井市にある市民ホールでの無料上映会で鑑賞して、こんなに古い映画でもこんなにも面白い映画があるのかと感動したのを覚えています。そして、自分の高校生時代は映画漬けとなっていったのです。
私は、黒澤明監督を観て、小津安二郎監督を観て、溝口健二監督を観て、成瀬巳喜男監督を観て、そういった当時の偉大な映画監督の映画を観て育ち、映画学校に入り、映画業界に入りました。
ただ2000年当時の日本の映画業界の環境は、そうした巨匠たちの時代とは大分、違うものになっていました。
ここからちょっと明るい話ではなくなりますが、黒澤監督のような巨匠が映画を撮っていた時代は、映画に関わる人たちも皆、スタジオの専属契約という雇用形態で働いて生活は安定して、映画を量産する時代でした。
その後、テレビが発展していくと撮影所システムというものが維持できなくなっていって、そうしたシステムは崩壊していったのです。
それからは、俳優も監督もスタッフもフリーランスとして仕事をするようになり、安定した雇用から非常に不安定な雇用という状況に置かれたわけですけど、残念ながら日本の映画業界は、その後も対応することはできなかったと考えています。
それでもまだ映画業界に余力があった頃はよかったかもしれませんが、やはり2000年以降、どんどん製作予算も低下していく中で、今、スタッフ、俳優は、非常に不安定な状態で働いています。
その不安定な収入や雇用形態、あるいは長時間労働や、そういった悪条件が是正されないまま、2020年に入り、新型コロナ・ウィルスの流行もあり、私たちの仕事は更に厳しいものとなっていきました。
映画を上映する映画館も年末年始のハイシーズンに閉めせざるを得なくなり、売り上げ収入はガタ落ちし、また俳優も自殺する方が増えてきました。そしてスタッフの方も仕事を無くしていったり、あるいは仕事を辞めていく人も増えてきています。
芸術文化に携わる緊張感という以上に、文字通り身体を張って仕事をしている俳優は、撮影現場でのプレッシャーもあり、彼らは精神的に大きなストレスを抱えながら生きています。
現在のコロナ禍で仕事が減っていく状況の中で、俳優の方々の心の健康をどうやって守ってゆくのかが、今、非常に大きな課題となってきています。
今年になって、ハラスメントの問題が勃発し、そうした問題がクローズアップされる中で、告発をされた人、あるいは告発をした人自ら命を絶ってしまった若い俳優の報道を耳にしたばかりです。
本来であれば、行政がフリーランスの心の健康をどうするのかということを取り組まなければならないと思いますが、まだ残念ながら公的な救済実現には至っておりません。
そうした中、日本芸能従事者協会という団体が「芸能従事者こころの119」というメンタルケア窓口でサイトを開設しています。
このサービスには自分も関わっているのですが、11月に一旦期限が切れて終了となってしまうので、この黒澤明賞の賞金をどのようにして活用していくのか、この受賞は、私の映画製作活動に対しての評価とこうした社会的な活動に対しての評価も含まれるのかなと思いますので、この頂いた賞金を「芸能従事者こころの119」存続のために寄付をしたいと思います。
このサービスは、今年6月から始まったのですが、あまり知られていなくて、まだ利用者がいません。
行政のサービスが充実することを待っている、まさに今、この瞬間にもおそらく悩まれている俳優の方、スタッフの方、映画監督の方がいると思います。
ですので、そういった方々に届けるためにこの機会を使わせていただくことにしました。
こちらにご取材でお越しのマスコミの方々、是非、伝えて、報道していただけるととても嬉しいです。
ちなみに一番好きな黒澤明映画は、『どですかでん』です。
本当に光栄です。ありがとうございました。
-盛大な拍手-
「LOVE LIFE」

Story:
妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。
向かいの棟には、再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。
小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。
しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。
哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れる。
失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。
再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。
一方、⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。
哀しみの先で、妙⼦はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか・・・。
『LOVE LIFE』(2022年・フランス・日本・2時間3分)
監督:
深田晃司
出演:
木村 文乃、田口トモロヲ、山崎紘菜、神野三鈴、永山 絢斗、砂田アトム 他
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